HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、人権に関する学べるコラムやイベントレポートを更新します!

【イベント報告】 3/25開催ウェビナー「ミャンマーの民主主義を守るために~官民の責任~」 YouTubeでも限定公開!

 

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2021年3月25日 ㈭、ヒューマンライツ・ナウ(以下、HRN)は、ヒューマン・ライツ・ウォッチメコン・ウォッチ、日本国際ボランティアセンター、ビジネスと人権市民社会プラットフォームと共催でウェビナー「ミャンマーの民主主義を守るために~日本の官民の責任~」を開催しました。2月1日にミャンマー国軍がクーデターを起こして以来、ミャンマーの民主主義は危機に晒され、死傷者も恣意的に拘束された人々も日に日に増えています。

本ウェビナーでは、ミャンマーでのCDM(市民不服従運動)の展開、ミャンマーでの事業活動と民主主義、企業の責任、日本政府の対応、そしてミャンマーの方々の声を伺いました。イベントの様子をお伝えいたしますので、ぜひ、最後までご覧ください。

 

この問題は非常に深刻なもので、ぜひ一人でも多くの方に知っていただきたいので、ウェビナーの様子を三か月限定で公開いたします。ウェビナーへの参加がかなわなかった皆様も、ぜひ動画でご覧いただけますと幸いです。

当日の動画はこちらから: https://www.youtube.com/watch?v=uIMyPeg109o

 

www.instagram.com

また、HRNのインスタグラムでも、ミャンマーのクーデターについての投稿を3つしているのでそちらもあわせてご覧ください!

 

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当日は、日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺直子さんが司会進行を務めました。

はじめに、上智大学総合グローバル学部教授、根本敬さんに市民的不服従(CDM: Civil Disobedience Movement)の広がりと国軍の対応についてお話しいただきました。現在ミャンマーでCDMが行われており、その背景にはアウン・サン・スー・チー氏が長年にわたって訴えてきた「不当な権利と命令には義務として従うな」というメッセージがあります。今回のCDMの特徴をいくつか紹介したいと思います。

  • 軍政時代の経験のない、その時代の恐怖などを体験していない若者たちがSNSなどを用いて、世界に発信しています。非暴力による抵抗として、SNSなどで海外に現場中継を行い国を超えた横の連帯を形成しています。
  • 公務員(在外公館大使や外交官、警察)などが多数CDMに参加しています。また与党NLDはCDMの広がりとともに対抗政府CRPHを設立しました。国軍による市民への「暴力的封じ込め」は国際世論の強い反発を呼んでいます。そのため、今回のクーデターで国軍はテロリスト化し、追い込まれている状況にあると言えます。

 

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次に、星槎大学共生科学部教授、細田満和子さんから「ミャンマーロヒンギャ~人々の生活と望み~」としてご講演いただきました。ロヒンギャとはミャンマーラカイン州に住みベンガル語を話すイスラム少数民族です。2017年のジェノサイドにより70万人が難民化したといわれています。ミャンマーが1948年に英国から独立し建国された当時、ロヒンギャミャンマーの一員でしたが、1970年代の軍のリーダーによる「ロヒンギャミャンマー人ではない。」との発信や軍の力や刷り込みにより現在の状況が生まれているとご指摘がありました。また難民キャンプ内で若者が中心になって行っている様々な活動の紹介や、2021年3月22日の火災により食料センターなどが焼失しクーデター禍でも危機的状況にあり、さらなる支援が必要な現状についてお話いただきました。

 

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続いて、ヒューマン・ライツ・ウォッチ笠井哲平さんに日本政府の対応についてご紹介いただきました。まずは各国の対応の事例として、米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国などの対象限定型経済制裁(国軍の高官や、軍系企業の利益につながる支援の停止、国軍の高官への渡航禁止や資産凍結など)を日本の対応と比較して説明いただきました。日本は、G7での声明や、記者会見、軍によって外務大臣とされた者との対話などを行い、1. 民間人への暴力の停止、2. アウンサンスーチー氏や関係者の解放、3. 民主的な政治体制の回復を訴えています。日本は軍との独自のパイプを活用することを期待されていましたが、具体的な成果はいまだなく、上記の国々が行っているような対象限定型経済制裁などの制裁には消極的で2カ月近く行動はありません。また、ODA(政府開発援助)の一時停止を行うとの報道はあったものの外務省は否定しています。日本の起こすべき具体的なアクションとして、1. ODAの見直し、 2. 人道的支援以外の停止、3.対象限定型経済制裁の三点を言及されました。引き続き日本政府への積極的な対応を求めていく必要があります。

 

 

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そして、リンクルージョン株式会社の黒柳英哲さんからは、ミャンマーで事業を行う企業としての対応のジレンマについて現地の日本企業の視点からご講演いただきました。現在、大手や中小企業、またスタートアップ企業を含め600社もの日系企業ミャンマーに進出しており、430社が日本商工会議所に参加しています。日本の商工会議所は、他国からは少し遅れ、3月15日に共同声明を出しました。現地の企業は、ミャンマー市民やCDMに賛同したくても、なかなかできないジレンマが存在するといいます。黒柳さんは、いろいろな企業の方々に行ったインタビューの内容を共有して下さいました。例えば、小さな企業にとっては軍に危害を加えられるリスクが圧倒的に高いという問題、また軍系の家族の雇用を維持するのかという問題、大きな企業にとっても、大使館と連携し方針に反することがないように足並みをそろえようとするためアクションが遅くなるといった問題です。また企業としての政治的発言をすることに対する抵抗感や日本の本社との温度差があることもあるものの、独自で声明を出すか検討中の企業もあるということでした。

 

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続いて、HRN佐藤暁子事務局次長より、ビジネスと人権の観点から企業に求められることについて話をしました。まず国連ビジネスと人権に関する指導原則(2011)や日本が公表した行動計画(NAP)(2020)でも言及されている、企業が国際人権基準を尊重する責任を負うというように政府も行動していく義務について言及しました。また人権デューディリジェンスというプロセスが重要性が強調されました。企業は、サプライチェーンバリューチェーン全体の中で人権に関する負のインパクトが生じていないかどうかを積極的に特定し、防止や軽減をする、そして結果を追跡調査し、影響にどのように対処したかを伝えるという責任があります。直接的な人権侵害だけでなく、取引先のその先の企業などが行っている人権侵害に加担していないかという点も重要になります。また、企業の対応の例として、アディダスフェイスブック(インスタグラム)、H&M、商工会議所、日本商工会議所などを紹介しました。

 

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次に、メコンウォッチの木口由香さんからは、日本からミャンマーへのODAミャンマー経済や国軍への影響についてご紹介いただきました。日本は2018年度までにODAで、有償資金協力(約1兆1368億円)無償資金協力(約3229億円)、技術協力(約984億円)の支援を行ってきたそうです。ヤンゴンマンダレー鉄道の整備、送電システム、通信システムの整備などが実施されてきました。それと同時に、ミャンマーの経済活動の8割ほどが国軍関係の企業などが関係しているとも言われる中で、日本のODAが間接的に軍に経済的利益を与えた可能性が高いことが明らかになってきました。国防省が所有している土地で事業を行っている企業もありましたが、国防省(=国軍)は政府から独立した存在で政府の監査対象外であるという問題点が指摘され増した。ビジネスやODAによる支援を行う前に、そのような国軍とのつながりや背景の把握が必要だったと言えます。

 

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そして、日本ビルマロヒンギャ協会会長のゾーミントゥさんと、アウンラーさんに日本社会に伝えたいことについてお話いただきました。このような軍事クーデターによって国民、特に少数民族が一番厳しい現状にあるといいます。200人以上が命を落とし、1000人以上が怪我、2000人以上が逮捕されて、殺害された人もいるという厳しい現状があります。日本の企業や政府は国民の応援をしてほしい、同じ人間が困っているので助けてほしいというミャンマー市民社会の声を伝えてくださいました。またゾーミントゥさんは、外務省に直接働きかけ、ODAなどを止めてほしいということを訴えたそうですが、曖昧な返事だったそうです。そのため、日本の国民の皆さんから日本政府へミャンマー軍との関係を断つように訴えてほしいとのメッセージを伝えていただきました。またアウンラーさんは、日本の皆さんがこんなに興味を持ってくれていることに対して驚きと嬉しさを感じると同時に、日本政府の曖昧な対応などに悔しさを感じていると訴えられました。その背景には、前回のクーデターによる苦しい経験、歴史があります。今回で3回目の軍によるクーデターで、前回約30年前のクーデターの時、日本の支援が国軍に渡り、武器などの調達に使われ多くの国民の命が奪われたという過去があります。そのため、より一層ミャンマー国民のために日本政府の明確な対応が求められます。

 

今回のウェビナーでは、ミャンマーでのCDMの広がりと現状、ロヒンギャや難民キャンプの現状、それから日本政府、企業、国民それぞれに求められる行動について多角的にお話いただきました。詳しい内容については、ぜひ動画をご覧ください。

 

また前回2021年2月18日に開催したウェビナー「ミャンマー軍の国際人権・人道法違反と企業の責任を考える(https://www.youtube.com/watch?v=dTr6k94c_Kw&t=1s)」もYouTubeで公開中なので、ぜひそちらもご覧ください!