国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ

日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、人権に関するコラムやイベントレポートを更新します★

12/15開催世界人権デー記念イベント「コロナ禍が映し出す女性の人権状況」*イベントレポート*

見出し画像12/15開催世界人権デー記念イベント「コロナ禍が映し出す女性の人権状況」*イベントレポート*
 

12月15日、ヒューマンライツ・ナウ関西グループは世界人権デーに合わせて、「コロナ禍が映し出す女性の人権状況」と題したウェビナーを開催しました。(主催:ヒューマンライツ・ナウ 関西グループ 共催:ヒューマンライツ・ナウ)

 

新型コロナウィルスの影響で世界中の人々の暮らしや人権に様々な制約が課せられる中、DVなどの女性に対する暴力の増加が指摘され、国連も懸念を示しています。

ゲストは2015年から2年間、国連の女性差別撤廃委員会委員長を務められた林陽子弁護士。ご自身の委員としての経験もふまえ、コロナ禍での女性の人権状況について語っていただきました。

コロナ禍で深刻化した女性の人権問題

始めに、コロナ禍で浮き彫りになった女性の人権問題をご紹介いただきました。日本では以下のような問題が深刻だそうです。

・女性の雇用の激減
・女性と若者の自殺者数の増加
・伸びない生活保護の受給者数
・一斉休校や高齢者施設の閉鎖による無償労働の増加
・DVなどジェンダーに基づく暴力の増加
・特別定額給付金が「世帯主」に支給されるという間接差別

 

ジェンダー平等諮問会議(GEAC)はG7各国の首脳に対し、適切な労働条件の確保や女性に対する暴力への対処、リプロダクティブ・ヘルスの確保などを求める声明を発表しました。

 

各国の女性保護政策

続いて、各国政府のコロナ禍での取り組みについてご紹介いただきました。内閣府男女共同参画局が11月に発表した緊急提言には、DV相談体制の強化やエッセンシャルワーカーの処遇改善の考慮などの対策が盛り込まれているものの、日本はG7各国に比べて政策が不十分であるという指摘がありました。


日本の政策は、ジェンダー視点・国際協力・「差別と闘う」姿勢のいずれも稀薄であり、女性差別撤廃条約の理念が浸透していないという問題があるそうです。日本のジェンダーギャップ指数は121位とアジアの中でも非常に低いにもかかわらず、日本政府はそれを「国民の意識の問題」と認識しており改善に前向きではないと、林氏は指摘しました。

 

日本の法律に残る女性差別

女性差別撤廃委員会は日本の刑法や民法女性差別が残っていると指摘しており、そうした状況の中に女性が置かれていることでコロナ禍の人権侵害がますます深刻になっていると、林氏は強調しました。

 

林氏はそうした状況を変えるために必要な以下の「三種の神器」があると言います。

 

①包括的な差別禁止法と国内人権機関
②クオータ制
③個人通報の批准

 

包括的な差別禁止法と国内人権機関
包括的な差別禁止法は、法律の効果が女性にもたらす間接差別や、人種や性自認など様々な要因が重なって起こる複合差別への対処を目的にしています。先進国の多くでは、包括的な差別禁止法が制定されています。また、差別を禁止する法律と同時に、差別を受けたときに相談できる人権機関が必要です。国内人権機関グローバル連合の統計によると世界124カ国が国内人権機関を設置していますが、日本にはまだ存在していません。

 

クオータ制
クオータ制は割り当て制とも言われ、中でもジェンダー・クオータは過少代表となっている女性を議会や企業取締役会に積極的に送り込んでいく政策です。日本では2018年に候補者均等法が制定され、政党に男女の候補者数をできるだけ均等にするよう求めています。しかし、2019年の参議院選挙では野党の多くが女性候補者を3割以上擁立したのに対し、自民党は14%、公明党は8%しか擁立せず、当選した女性は全体の22%に留まりました。

 

個人通報の批准
林氏は、日本に人権条約の個人通報制度が必要な理由として公務員の不足と疲弊があるといいます。日本は他国に比べて公務員が少なく、コロナ禍でさらに多忙になったことで、公務員だけで人権問題に対処することがますます難しくなっています。人権侵害を発見し救済するためには、被害当事者や支援者の力が不可欠だそうです。女性差別撤廃条約締約国189カ国のうちすでに114か国が個人通報制度を含む選択議定書を批准しており、日本のジェンダー政策の遅れが顕著となっています。

Generation Equality へ向けて

世界の国会議員に女性が占める割合はまだ24%、人身取引の被害者の70%が女性であるなど世界レベルでも問題は山積しています。Generation Equality(すべての世代の平等)を実現し、SDGsが掲げるジェンダー差別の問題を解消する鍵を握るのは、意思決定の場で男女の数を平等にする「50:50プラネット」であると林氏は指摘しました。また、差別問題に対処する資金調達のためには、富裕層の不当な税制優遇をやめ、租税民主主義の確立が必要であると伝えました。

重要なのは市民の力

林氏は最後に、人権を守るためにはヒューマンライツ・ナウのようなNGOと市民一人ひとりの存在が大切であり、政府に任せきりにせず声をあげていくことが重要であると締めくくりました。

*    *    *


2020年もHRNの活動を応援していただきありがとうございました。2021年も様々なイベントで皆様とお会いできることを楽しみにしています!

(文=津吹茉辺留)

11月19日開催 「性暴力被害の実際」 *イベントレポート*

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11月19日開催 「性暴力被害の実際」 *イベントレポート*

 

11月19日(木)に開催したFacebookライブ 「性暴力被害の実際」は、齋藤梓氏をゲストに迎え、ヒューマンライツ・ナウの理事 寺町東子との対談形式で、性暴力被害の実際と刑法性犯罪規定のギャップ、齋藤氏の著書「性暴力被害の実際」制作の裏側、検討会の状況についてディスカッションが行われた。

 

2017年の改正から、今年再び

2017年に110年ぶりに改正された刑法性犯罪規定についての解説があり、犯罪の構成要件見直し、被害対象者に男性も含まれるようになったことや、被害者の告訴なしでも捜査や起訴ができるようになったことなどを、寺町理事が紹介一方で、性交同意年齢や暴行脅迫要件、地位関係性を利用した犯罪の処罰など、深刻な積み残し課題についても指摘した。  

 

2017年改正時の性犯罪に関する刑事法検討会に委員として参加した齋藤氏は、法律職の方々への被害者の心理の伝わりにくさを痛感したと語った。暴行脅迫要件に該当しないことから、事件化できず取り残されている被害当事者の存在や、子どもたちが被害を誰にも言えずにいる間に時効が進んでしまう現状を、切迫感をもって知ってもらう必要性を感じたことを共有した。  

 

今年6月から法務省で行われている性犯罪に関する刑事法検討会(以下、検討会)に委員として参加している齋藤氏は、性同意年齢の引き上げや暴行脅迫要件の撤廃など、2017年に積み残された論点が議論されていると報告。齋藤氏は、2017年の検討会と比較して今回の検討会では、前回の検討会以上に、被害者を理解しようとしている委員の方々の姿勢が見受けられるとして、2017年よりも被害者に寄り添った改正への期待を述べた。

被害をより"見える"形に

齋藤氏は、「2017年の刑法改正をめぐる議論」で、被害の実際を知られていない、また自分自身にも見えていない被害があるとの気づきから、当事者の声を聞くために一般社団法人Springと協力して調査を開始。目に見える形として、今年、「性暴力被害の実際」を出版した。31名へのインタビューと20名の被害体験の記載に基づき、年齢や関係性等の観点から、性暴力に至るプロセスを質的に分析し、ライブでは詳しい分析結果もお話しいただいた。

 

イベントの後半では、参加者からの質問にお答えする形で対談が進んだ。その中から二つの質問と回答を紹介したい。

警察での不受理

「加害者が被害を認めているのに、警察は捜査しないのはなぜですか」という質問に対して、「捜査に消極的な理由として、最近では裁判所にて暴行脅迫要件は緩和されているものの、その事実が警察の現場に浸透してないことと、加害者が犯行を認めていても後に否認に転じた場合に立証する壁が挙げられる」と、寺町理事が回答。そして、警察内の現場での教育強化を訴えた。

性教育

性教育強化のためにできることや、性暴力の要因が性衝動である場合の教育によるアプローチ方法とは」という質問に対して、齋藤氏は、「性暴力の要因は性衝動よりむしろ支配欲であると言われており、ジェンダーに関する感覚が関連している」と強調。海外では、性教育は性に関するものだけはなく、ジェンダーセクシュアリティ、対等な関係性などを含めた包括的な教育として実施しており、日本でもそのような性教育教育機関で行っていく必要性があると訴えた。その一歩として、現在から3年間、性犯罪・性暴力対策の集中強化期間を設けて、内閣府を主導で法務省警察庁文部科学省厚生労働省性教育を含む様々な検討を行っていると紹介した。 

法改正実現のために私たちにできること

今回のイベントは、2017年刑法改正と現在の検討会での進捗を踏まえながら、性暴力の実態について議論した回となった。男性の被害者や性的マイノリティーなど、法の隙間に落ちて見過ごされている被害が多く存在すること、被害の不受理が多いことなどの現状を踏まえて、日常的に性犯罪の問題に関心を持ち、身近な話題にしていく必要性を議論し、ライブをしめくくった。

ライブの参加者からは、「世論をつくっていくために、もっと周囲を巻き込んで話をしなきゃと改めて思った」など、の感想がよせられた。より多くの人が話題にしていくことで世論が活発になり、それが法の改正につながる。検討会はまだ続く。被害者の人権を守る法改正が実現するように、できることから行動していきたい。

HRNからのお知らせ

Facebookライブ「性暴力被害の実際」のアーカイブ動画はこちらから。齋藤氏の著書についての詳しい解説もあるので、配信を見逃した方も、復習をしたいという方も、ぜひご覧ください!

(文=村里紗果)



10月1日開催 「学校における性被害から子どもを守るために今必要な変化とは」*イベントレポート*


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10月1日開催 「学校における性被害から子どもを守るために今必要な変化とは」*イベントレポート*

 

10月1日、ヒューマンライツ・ナウは、文科省に対して、教師による性暴力の予防や再発防止のための政策を提言している石田郁子氏をゲストに迎え、学校での教師による性暴力の実態そして子どもたちを守るためには何が必要であるのかを考えるイベントを開催しました。

(イベントアーカイブ動画はこちら

 

教師やコーチによる地位関係性を利用した性暴力被害について、ようやく話し合われるようになってきました。しかし、現行法では、教師による性暴力を処罰することが困難なため、新たな加害が繰り返されてしまいます。

今回のイベントレポートでは、ディスカッションの内容のポイントをお伝えします。

 

目次

  • 1. 教師による児童生徒への性暴力の実態  
  • 2. 意思表示と被害者認識の難しさ
  • 3. 相談しにくい環境
  • 4. これからの対策
  • 5. 教師の処分の要求
  • 6. まとめ
  • 最後に

1. 教師による児童生徒への性暴力の実態  

石田氏が5月実施した、学校での性暴力に関するアンケートの結果を解説して下さいました。

回答者の約4割が学校教師からの性暴力の被害にあった経験があると答え授業や日常生活の延長で被害にあうケースが多い

 

体罰や指導の延長上: 

小学校で名札を忘れるとその度、罰として体を触られるという被害報告がされました。この様に、密室ではなく教室のような公共の場所でも大勢の生徒が同時に長時間にあうケースもあり、複数の生徒が被害を受けていても声をあげにくい環境があると、石田氏は語ります。特に、被害者が忘れ物をしているからと自分に負い目を感じること、被害がクラスで日常化していたこと、先生の立場の利用などの理由から、被害の意識を持つ事が難しいそうです。

 

また、教師が好意や恋愛を口実に性行為をすることがある、という報告がありました。小学生の場合は、先生から気に入られていると思い込み、中学生や高校生の場合は恋愛関係にあると思い込んでしまうことから、生徒たちが責任を感じてしまい、被害を認識することが難しい場合が多いそうです。

 

2. 意思表示と被害者認識の難しさ

被害当時は、それまで生徒と教師として信頼関係を築いてきた相手から性行為を求められ、「自分に起こっていることは本当だったのだろうか」と現実に対しての驚きが大きいため、はっきりと言葉で意思表示できない被害者が多いとの解説がありました。石田氏によると、被害当時の経験が性的な経験であるとは理解していたとしても、それが性暴力であるという認識はないため、自分を被害者と認識しない人が多いそうです。 

 

その背景には、教師と生徒という上下関係があり、生徒には「先生が悪いことをする」という発想がなく、性行為に関する事も「学校の先生」が言うこととして、最もらしいことに聞こえることが説明されました。 また、「性行為は好き同士の大人がすることである」「子供なのに、大人がすることをしている自分は悪い」と、自分自身を批判してしまう背景から、自分を被害者であると思わない場合も多いそうです。

 

3. 相談しにくい環境

被害に合った後、被害者が他人に相談できない理由として、性行為について話すこと自体がタブーとされている社会が挙げられました。石田氏自身も、被害当時は、「性行為については人に言うことではないと思っていたため、親に相談できなかった。」そうです。

 

勇気を持って親に相談しても怒られたり、学校は見て見ぬふりをして、行動を起こしてくれなかったりするケースが多いそうです。

 

4. これからの対策

どうしたら子どもが相談できる環境が作れるのかについて、石田氏と伊藤事務局長の意見交換が行われました。

 

石田氏は、

子どもへの教育も大切であるが、大人への教育にも注力していくべき

と述べました。子どもが性被害に気づくことができても、大人・教員が被害の声をしっかり聞き、正しく連携していくための知識と意識を持っていなければ、子どもを守ることは出来ない。このことから、大人への教育が重要である、と説明しました。

 

伊藤事務局長は、

子どもの意思の有無に関係なく、教師と生徒の性行為は絶対にやってはけないことであるという、社会の認識を高めることが大切である

と述べました。子どもだけに「NO」と言えるようにする教育など、子ども任せの対策ではなく、教師や親への教育を行なっていくことが必要だと訴えました。

 

5. 教師の処分の要求

現状として、教育委員会は懲戒処分には非常に慎重であると、石田氏は説明しました。懲戒処分を受けた教員が後に、不当処分だと訴訟を起こす場合があり、その場合委員会は裁判に負けることを回避するため、確実な証拠があっても、教員自身が認めたり警察による逮捕などがない限り、懲戒処分にしない場合が多いそうです。グレーの状態で教員を学校においていることは、生徒の安全よりも裁判で負けることを考慮した行為であると、石田氏は訴えました。

 

石田氏の文部科学省への政策提言

  •  文部科学省による懲戒処分の基準•調査方法の統一。現卒、懲戒免職を求める。
  •  第三者委員会による調査を必須とする。
  •  教員免許の再取得を不可とする。

  現状:免許失効後、3年後に再申請が可能

  •  依頼退職・異動によって教師に責任を回避させない。追跡調査できる仕組みを作る。定年退職した教師に対しては、退職金返納など何らかの罰則を設ける。
  •  他の教師による通報の義務化、連携できる職場環境を作る。
  •  疑いのある教員を一時的に現場から離れさせる。
  •  教員への、性暴力やその対応に関する研修。
  •  生徒及び教員への定期的な実態調査。
  •  教員採用時に、子どもへの性暴力への可能性をチェック。
  •  恋愛など教師と生徒以外の関係の禁止。

 

6. まとめ

現在の刑法では、強制性行為罪が成立するためには「暴力」または「脅迫」という要件、準強制性行為罪が成立するためには「心神喪失」または、「抗拒不能」という要件が必要です。日本の刑法では、「むりやり性行為をされた」「意に反して性行為をされた」というだけでは、犯罪と認められません。 

 

また、日本の学校では、教師に言われた事は守らなければいけないという意識が強いため、教師から性行為が犯罪であるとして生徒が被害者意識を持つ事が難しく、被害者意識を持っていても、相談しにくい現状があります。 

 

児童・生徒に対して、大きな権限を持つ立場にいる教師による性被害は、教育現場、教育委員会文部科学省が、子どもの側に立った教師の処罰をする必要があります。

 

そして、暴行・脅迫がなくても、「同意のない性行為はいけない」、「暴行・脅迫がなくても、同意がない性行為は犯罪である」という人々の意識を育て、生徒が声を上げやすい環境をつくるために、教師・周囲の大人への教育を広めていくことが重要です。

 

最後に

・石田氏が取り組んでいる署名活動の紹介

石田氏は、文部科学大臣に教師による生徒への性暴力の防止に必要な法改正・法整備を求める署名活動をされています。

 

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‘’ 教師による性暴力は、「教育」ではなく「安全」の問題です。それも、「児童・生徒の安全」です。「教育の裁量権」として各教育委員会に委ねるのではなく、文部科学省が主導して全力で児童生徒を守るべきです。”

 

署名活動の詳細と署名はこちらのサイトから:

http://chng.it/xRqCvjN5cT

 

・今後のイベント情報

11月中旬に、オンライントークイベント第二弾を予定しています。

詳細は、近日中に弊団体のHPSNSで公開します。

みなさまのご参加をお待ちしています!

 

 

人権はどうやって学んだらいい?

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人権はどうやって学んだらいい?

執筆:敬和学園大学人文学部国際文化学科准教授/国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ理事 藤本 晃嗣 

 

 私は、高校などからの依頼で、人権に関する講演をする機会を頂くことがあります。講演が終わった後、教員の方から、「人権を尊重するためには、心の教育が必要なんですね」という感想をいただくことが稀に(?)ありますが、実は私は講演でそんな話を全くしていなかったりします。私の経験からは、「心の教育」という言葉は教育現場では、「優しい心」、「他者への親切な気持ち」を育むことなどと同じ意味で使われていることが多いように思えます。果たして「優しい心」「親切な気持ち」で人権は守られるのでしょうか。

 

 この問題を考えるうえで、差別の問題を例にとってみましょう。差別をする人は一見、優しい心を持っていないように思えます。しかし、部落差別の問題で指摘されているように、部落差別をする人の中には、自身の行為が差別的ではないと信じ込むような人がいます。そうした人は、例えば、自身がもつ被差別部落出身者を避ける気持ち(忌避意識)から、身近な人が被差別部落出身者に近づくことを妨げる行動にでることがあります。この最たる例が、自身の子どもが被差別部落出身者の方と結婚することを反対するという親による結婚差別です。こうした親は、結婚に反対するのは自身の子のためになるとさえ思っているので、親切な優しい心をもつ人でしょう。しかし、その親切で優しい心は、結婚差別の対象となった結婚相手の心をあまりにも冷酷に傷つけたことには無頓着ですし、決して許される行為ではありません。でも、親はこうした行為を正当なものと考えていたりします。そう考えてしまう理由の一つが忌避意識です。忌避意識とは、被差別部落に関する根拠のないデマや嘘を信じることによって、被差別部落出身者を避けようとする意識です。つまり、結婚差別をなくすためには、この忌避意識を取り除かなければならず、そのためには、そうした意識の原因となった根拠のないデマや嘘が、文字通り根拠のないデマで、嘘であるという真実を教える必要があります。つまり、優しい心をもつようにだけの人権教育では、差別はなくならないのではないでしょうか(忌避意識については、人権啓発ビデオ制作委員会が編集した「今でも部落差別はあるのですか? マイナスイメージの刷り込み」(人権啓発ビデオ)2005年がお勧めです)。

 

 個人的には、部落差別を含む様々な差別問題が生じる原因の一つに、忌避意識を挙げることができると考えています。例えば、現在のコロナ禍における医療関係者への差別行為も、医療関係者は他の職業に就く人よりCOVID-19に感染する可能性が高いという根拠のない考え方から、医療関係者への忌避意識が芽生え、そうした意識をもった人が差別的な行為を行っているのではないでしょうか。大切なことは、医療関係者は、「感染防御を十分にした上で、対策や治療にあたっている」(厚生労働省、事務連絡、令和2年4月17日付https://www.mhlw.go.jp/content/000622822.pdf)という事実を学ぶことであり、それによって忌避意識を払しょくする取り組みをすることでしょう。

 

 人権教育では、まずどんな行為が人権侵害事例であるのかを知らせ、その原因に間違った認識に基づく忌避意識があるのであれば、事実を伝えることで間違った認識を取り除いていくことが、最も大切なことでしょう。ちなみに、文部科学省のホームページでは、「人権教育は、人権に関する知的理解と人権感覚の涵養」(人権教育の指導方法等 に関する調査研究会議「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」平成20年3月)とあり、ここまで筆者が強調してきたのは、おそらく「知的理解」の涵養の必要性ということになります。なお、「人権感覚」とは、「人権の価値やその重要性にかんがみ、人権が擁護され、実現されている状態を感知して、これを望ましいものと感じ、反対に、これが侵害されている状態を感知して、それを許せないとするような、価値志向的な感覚」だとされており、「優しい心」や「親切な気持ち」だけでは得ることのできない「感覚」だということもわかります。もっとも、「知的理解」と「人権感覚の涵養」が人権教育の両輪であることは、言うまでもありません。

 

 さて、冒頭の話題に戻りますが、私は講演では、人権問題を紹介し、そこでどういった個別 具体的な人権が侵害されたのかを話すようにしています。個別具体的な人権として、平等権はもちろんのことですが、自己決定権、教育を受ける権利、信教の自由、表現の自由意見表明権といったものをよく紹介しています。そして、講演後に、人権をこのように個別具体的なものと考えることはとても難しいという感想をよく(?)聞かされます。この考え方が難しいのは、私の話し方が拙いのは 棚にあげておくと、人権とは具体的な大切な権利を集めたものの総称である(ラフ な定義ですが)との理解が広まっていないからではないかと思います。人権とは、はっきりとはイメージできない曖昧なもので、差別が起きた場合に問題になる概念 、といったあたりの理解でいると、人権が個別具体的であるという考え方は想定外のものでしょう。

 

 しかし、人権を個別具体的だと理解する必要性に気づかなければ、学校は生徒の人権を侵害する可能性をもつとの危惧を抱く機会を失うことになります。例えば、イスラム教を背景とする生徒に、学校で礼拝をする時間や機会を設けないことは、その生徒の信教の自由を侵害、制限することになります。しかし、信教の自由を人権であると理解できていないと、学校は大多数の礼拝を要しない生徒と同じ行動を、こうした生徒に何の疑問も感じずに要求してしまうでしょう。性的マイノリティの生徒への制服着用がなぜ問題なのかも、個別具体的な人権(例えば自己決定権)の視点から今一度、学校は考えてみるべきだと思います。かといって、大学での日本国憲法の講義のように、人権を個別的に一つ一つ学ぶ機会を、今の高等学校 以下の教育プログラムに組み込むためのよいアイデ アを私には持ち合わせてはいません。むしろ、現在目指されている日本の社会像が多文化共生社会であるのならば、その実現に必要な人権は何かを考えようというアプ ロー チが、人権を個別具体的に生徒と先生が学ぶ方法としてはよいのかもしれません。ちなみに、ここでいう多文化共生社会とは、外国籍の方も含めた、さまざまな背景をもつ個人が、尊厳を保ちながら共生できる社会のことを私は考えています。

 

8/28開催「性暴力のない社会のために、今、私たちにできること」質問回答票

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8/28開催「性暴力のない社会のために、今、私たちにできること」質問回答票

 

8月28日、ヒューマンライツ・ナウ(以下、HRN)は、JANICグローバル共生ファンドの中間報告イベントとして、『性暴力のない社会のために、今、私たちにできること』を開催いたしました。

 

イベントには、ジェンダー平等実現のために様々な立場から活動されている小島慶子さん鎌田華乃子さん清田隆之さんをお呼びし、性暴力を構造的に捉え、個人にできるアクションを考えました。

 

今回は、時間の関係上、イベント中に回答することができなかった参加者のみなさまからのご質問にお答えします。

 

質問1

保護監督者からの性暴力に暴力脅迫要件って必要なんです?

 

<回答>

現在の刑法では、13歳未満に対する性交等については、暴行脅迫の有無を問いません。

また、現に監護する者が18歳未満の者に対し性交等を行った場合には、暴行脅迫の有無を問わず処罰されます。

したがって、18歳以上の者については、現在の刑法では、例え監護者が被害者の意思に反し性交等を行った場合であっても、暴行脅迫要件を充たさない限り処罰することはできません。

 

質問2

行為者に「故意」がなかった(「同意していると思っていた」)場合、無罪となることについて、検討会の論点整理では、「被害者が性交に同意していないことについて、一定の行為や状態が認められる場合、検察側ではなく被告人側に立証責任を求める規定を創設するか、または「不同意である」と推定される状況を規定に挙げるべきか」とあります。

これは実現可能だと思いますか?

 

<回答>

スウェーデンのように、積極的参加がなければ違法、という考え方は、行為を起こす側が相手の意思を確認する義務を設定しています。同意の有無が曖昧だったら、してはいけない、曖昧であることのリスクは行為者が追う、という考え方です。

 

これに対して、不同意が罪、というのは、もう少し手前で、あくまでも、不同意であることを、行為者が客観状況から認識する必要があります。

 

そこで、何が「不同意」の徴表なのかを具体化していく、ということが必要となります。HRNが6月に発表した改正案は、そのような意図から作成されました。

 

質問3

男性、女性限らず、性暴力の問題について意識の差、知識の差があると思います。関心を持ってもらうための土壌づくりには何が必要なのでしょうか

 

<回答>

 今回のイベントに参加してくださった皆さんや、日頃から性暴力に関心のある方々が、身近なみなさんと共に、性暴力とはなにか、現在の刑法の何が問題なのか、1人でも多くの方と意見交換をしてくださることが必要だと思います。

 

質問4

性暴力をなくす土台としての社会構造の変革を求める意見を寄せる必要性を感じます。海外では、性暴力とジェンダー差別・格差はどう関連して前進しているでしょうか?

 

<回答>

 2014年4月に欧州評議会「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンス防止条約」いわゆるイスタンブール条約が発効しました。同条約では、女性に対する暴力は人権侵害であると規定され、女性に対する暴力を犯罪とすることを締約国に求めています。

 

男女の不平等な力関係が暴力の背景にあり,女性の地位向上の達成を阻んでいるとして,締約国にジェンダー平等政策の実施と女性のエンパワーメントを促し、条約の実施および規定の影響の評価にジェンダー の視点を含めることを求めています。(出典:欧州評議会イスタンブール条約」 東洋大学法学部教授 今井雅子 国際女性No.29p84~88)

 

イスタンブール条約で指摘されているとおり、性暴力の背景には、ジェンダー不平等や性に対する差別があります。これらを解消していくことが性暴力のない社会の実現にもつながると思います。

 

質問5

政府と自治体が性暴力サバイバーの意見を聞くのは大切です。なぜ日本政府はサバイバーの意見を体系的に聞き声を犯罪被害者政策の中心にする制度を作らないのでしょうか?

 

<回答>

 ご意見のとおり、犯罪被害者を中心とした被害者支援体制の構築は必要であり、日本ではまだ不十分でしょう。現在、法務省内で犯罪被害者支援弁護士制度検討会が設置され、弁護士による犯罪被害者の支援を 充実させる観点から、支援の対象とすべき犯罪被害者の範囲、支援の在り方等について、法制度化に向けた課題を含め広く検討し、論点整理が行われます。

 

こちらの動きも注視いただければと思います。

http://www.moj.go.jp/housei/sougouhouritsushien/housei04_00017.html

 

質問6

「暴行・脅迫」「抗拒不能」の要件を撤廃し不合意のみの犯罪成立となると冤罪が生まれるんじゃないか?と懸念されています。どう思いますか?

 

<回答>

何をもって「不同意」を認定するか、ということが重要なポイントなってきます。被害者の認識だけに帰せしめると、認定が不安定になる、ということが議論になっているのだと思います。社会の常識が「一緒にを飲んだら同意」「車に乗ったら同意」「密室に入ったら同意」というところから、どのような場合に不同意なのか、ということを、共通認識を作っていくことが大事だと思います。

 

また、冤罪が生じやすいのは、人質司法や、弁護人の取り調べ立会権が無いことや、録音録画が限定的であるとか、刑事司法手続き全体の問題もあります。

 

刑事司法を変えていくことと、「性的同意とは何か」というコンセンサスを作っていくことが大事です。このような思いから、6月に条文案をバージョンアップしました。

 

質問7

私は昨年の11月21日の12団体の提示された改正案で進んでいくと思っていましたが、どうしてヒューマンライツ・ナウは独自で改正案を出され、記者会見されたのでしょうか?

 

<回答>

11月の改正案と、6月の改正案の大きな違いは、不同意を示す徴表としての行為類型を、暴行脅迫以外の類型を付け足したことです。

 

威迫、不意打ち、偽計、欺罔、監禁を用いたっ場合は「不同意」であるという点と、人の無意識、睡眠、催眠、酩酊、薬物の影響、疾患、障害、洗脳、恐怖、困惑などの状況に乗じて行った場合、も不同意であるという点です。不同意性交罪を創設したい、という思いは同じです。

 

昨年の提言を発表後、その提言内容に関して、ヒューマンライツ・ナウとして、さまざまな関係者から意見を聴取し、より精度の高い提言とする必要性を感じ、改訂の必要があると考えました。検討会の議論が始まるタイミングで速やかに公表することが重要と判断したため、6月の発表に至りました。

 

改訂版をの前文に「国内外の法律家や市民との対話を実施しました。これらの対話により、 認識が深まった部分や論理的整合性などを考慮し」記載しております。

 

〜終わりに〜

この秋も、刑法性犯罪規定改正の機運を高めていくため、イベント・キャンペーンを開催していきます。これからも私たちと一緒に声をあげてください。よろしくお願いします!

 

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8/28開催「性暴力のない社会のために、今、私たちにできること」*イベントレポート*

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8/28開催「性暴力のない社会のために、今、私たちにできること」*イベントレポート*

 

8月28日(金)、ヒューマンライツ・ナウでは、ジェンダー平等実現のために様々な立場から活動されている小島慶子さん、鎌田華乃子さん、清田隆之さんをお呼びし、性暴力を構造的に考え、個人にできるアクションを考えるオンラインイベントを、JANICグローバル共生ファンドの助成により開催いたしました。

 

刑法性犯罪規定の見直しが進み、”大きな社会”が変わろうとしている今、身の回りの”小さな社会”を変えていくために私たちができることを、匿名で意見を募るメンチメーターを使用しながら、参加者の皆様と共に考える会となりました。

 

目次

性暴力被害者が泣き寝入りを強いられる現状

性暴力に対するメディアの姿勢

マジョリティ男性も性暴力に関心を

私たちのアクションが世論と社会を変える

私たち一人ひとりにできること

性暴力被害者が泣き寝入りを強いられる現状

まず冒頭、ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長から、日本では通報されない性暴力というのが数多くあるという話がありました。

 

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Profile:1994年に弁護士登録。米国留学後の2006年、日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、国内外の人権侵害解決を求めて活動中。また、ミモザの森法律事務所(東京)代表として権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動。著書に『なぜ、それが無罪なのか!? 性被害を軽視する日本の司法』 (ディスカヴァー携書)など。

 

女性は13人に1人、男性は67人に一人が意に反する性交などの性暴力を受けた経験があり(2017年調査)、警察に行ったのに受け付けてもらえないなど多くの人が泣き寝入りしている現状があることが語られました。その理由として、日本では無理やり意に反して性交させられても罪にならないことが挙げられ、例えば強制性交等罪が成立するためには、そこに暴行または脅迫という要件が必要なほか、準強制性交等罪が成立するためには心神喪失または抗拒不能という要件が必要で、さらに行為者に故意がないと無罪となってしまうため、犯罪が成立するためのハードルがとても高いということが説明されました。

 

その上で、HRNが刑法性犯罪規定の再度の改正を求めて、多くの方と連携しながら世論を喚起してきたこと、6月から法務省で法改正に向けての検討会が始まったことなどを報告しました。

 

性暴力に対するメディアの姿勢

続いてのゲストスピーカーのレクチャーパートでは、まず小島慶子さんがメディアと性暴力の関係などについて、独自の視点で語って下さいました。

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Profile: エッセイスト、東京大学大学院情報学環客員研究員。1995年から2010年まで、TBSにアナウンス職として勤務。その後は執筆、講演、メディア出演などの活動を行っている。メディア表現と多様性に関するシンポジウムの開催など、メディアのあり方について考える活動や、寄付サイト#ひとりじゃないよプロジェクトの立ち上げなどを行う。

 

小島さんからは、特にメディアで「嫌よ嫌よも好きのうち」なのだと視聴者が思い込んでしまうようなメディアコンテンツがいまだに存在する中、性的同意(性的な行為の前に互いの同意を確認できたかどうか)が広まることが非常に重要だというお話がありました。例えば、過去に痴漢をまるで面白ネタや日常のよくある風景のように伝えていたメディアは性暴力に対する考えが足りておらず、決して笑える話題ではないということが広まってほしいとした上で、特に痴漢はそれが性暴力だと認識できていないと「(被害者側が)相手のやっていることが間違っていると思えないのではないか。」と警鐘を鳴らしました。



そしてメディアは(刑法性犯罪規定が改正される場合)「法律が変わりましたよ」と事実だけを伝えるのではなく、私たちの習慣や常識、価値観にどんな変化を及ぼすのか・何を改めるべきなのかを丁寧に伝えてほしいと思うと述べました。また、私たち一人ひとりができることとして「メディアでの性暴力の描かれ方について誰かと意見交換することによって、こういった問題に敏感な方が増え、何かがあった時には声が上がりやすくなる。そしてメディアも“こういう表現はしてはいけないのだな”と学習して、表現を変えていくということが細かく繰り返される。そうすると人々の意識も変わっていくと思うので、是非皆さんも周りの方と話してほしいです。」と締めくくりました。

 

マジョリティ男性も性暴力に関心を

続いてのゲストスピーカーは清田隆之さんです。

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Profile: 1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。『cakes』『WEZZY』『anan』『精神看護』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。桃山商事としての著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)『生き抜くための恋愛相談』『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(ともにイースト・プレス)、トミヤマユキコ氏との共著に『大学1年生の歩き方』(左右社)、単著に『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)など。2020年7月に新刊『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)が発売。

 

まず、桃山商事の活動を通じて恋愛相談を数多く受けるという清田さんからは「性暴力と思われるような出来事が、恋愛の“いざこざ”として語られているケースが少なくない。それが性暴力であるという認識が、加害者側にはもっと希薄なのでは。」とした上で、「いわゆるマジョリティ男性が行う恋愛のアプローチやナンパのテクニックなど、本人としては“ちょっとした強引さ”くらいに思っている行為が性暴力に繋がっていることがあるのではないか。無知や無自覚など、マジョリティ男性と性暴力問題の“遠さ”をまずは言語化し、認識のギャップを埋めていきたいという思いで活動しています。」というお話がありました。

 

また、自らもマジョリティ男性に属する清田さんの実体験として「スカートめくりや痴漢体験など、飲み会などの席で笑い話のネタのように語られているシーンを目撃することが今でもある。」「こういうところにいる男性が性暴力の問題や性犯罪に関する刑法改正の動きと非常に縁遠く、自分も当事者になってしまうかもしれないという意識もほとんどない。自分たちにもリアルな問題なのだということをどうやったら喚起できるのだろうと日々悩んでいる。マジョリティ男性に言葉を届け、何か(性暴力を無くすための)アクションに繋げてくれるように促すことが個人的な課題だと考えている。」と語ってくださいました。



私たちのアクションが世論と社会を変える

最後は、鎌田華乃子さんです。

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Profile:幼い頃から社会・環境問題に関心があったが、11年間の会社員生活の中で社会問題解決のためには市民社会が重要であることを痛感しハーバード大学ケネディスクールに留学。卒業後ニューヨークの地域組織にて市民参加の様々な形を現場で学んだ後、2013年9月に帰国。コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンを2014年に立ち上げ、ワークショップやコーチングで、COの実践を広める活動を全国で行った。日本の女性が妻や母親という役割に縛られ、生きづらさを抱えていることに気づき「ちゃぶ台返し女子アクション」を2015年に立ち上げる。明治時代から変わっていない刑法性犯罪条項を改正するキャンペーンを実施。2017年6月通常国会にて改正を後押しした。現在、ピッツバーグ大学社会学部博士課程において、日本を中心とした社会運動の国際比較研究に従事している。

 

鎌田さんは海外留学中、子育てしながら海外の大学に通っている女性に出会い、日本の女性が結婚や子育てで自分の人生を失ってしまうのは違うと思うようになったことがきっかけで、2015年にちゃぶ台返し女子アクションをスタート。「日本人女性は他国の女性と比較して、セクハラなど嫌なことがあっても笑って受け流すのが大人の女性という意識が刷り込まれているので、これからは嫌なことはどんどん言っていこう。練習のために、まずは叫ぼう!ということから、ちゃぶ台返し女子アクションは始まった。」と誕生までのエピソードを語ってくださいました。

 

そういった活動を続けていく中で鎌田さんは「一人ひとりの力は小さくても、一緒にアクションをしていけば社会は変えられる」という思いに駆られ、続いて取り組んだことが、当時110年間変わっていなかった刑法性犯罪規定の改正案可決に繋げるアクションでした。また、性的同意という考えを広め、文化を変えるアクションを行なった中で、「ロビイングと、社会のうねり作りは両輪でどちらも大切」だと気づき、「皆さんがアクションをしてくれることで世論が作られ、社会のうねりが作られて、法律が変わっていく。そして文化も変わっていくので、今日のイベントに、参加してくださっている方は大きな希望。これから一緒にアクションしましょう!」と呼びかけていました。

 

私たち一人ひとりにできること

最後にゲスト全員を交えたトークセッションでは、一人ひとりにできることとして以下のことを挙げてくださいました。



(清田さん) 具体的なエピソードを聞く。何か本を読むことでも、当事者の発している言葉に耳を傾ける。自分で自分を耕す。特にマジョリティ男性は行ってほしい。



(鎌田さん) 支援したい団体の活動に参加したり寄付したりする。オンライン、オフラインでもフラワーデモが毎月11日に開催されているので、学ぶつもりでも良いので参加してほしい。



(小島さん) 情報をシェアすることは小さいアクションと思われがちだが結構大きい。ただ、情報を知れば知るほど過去の行いを悔いる。なんて無知だったのだろう、自分もひどいことを言ってしまっていた、傍観していたなど。でも、そこで自分なんてと思わずに学んで、それを周りに語ろう。

 

そして、ヒューマンライツ・ナウの寺町東子理事は閉会の言葉として、

「身近な中でのとても大切な人権問題として、日常の中で身近な人とお互いの思いを話しあっていただけたら」と締めくくりました。

 

〜終わりに〜

ヒューマンライツ・ナウでは、皆様のご支援を力に、広報、アウトリーチ、キャンペーン、調査、アドボカシーなどを強化してまいります。

 

今後も、他団体と連携して法務省への訴えかけを引き続き行い、被害者の思いに寄り添った刑法改正が実現するよう努力してまいります。

これからも温かいご協力を宜しくお願い申し上げます。

 



【後編】8/5開催「みんなで変えよう!日本の性犯罪規定における問題点」*イベントレポート*

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【後編】8/5開催「みんなで変えよう!日本の性犯罪規定における問題点」*イベントレポート*

 

8月5日、ヒューマンライツ・ナウは、JANIC共生ファンドの中間報告イベント『みんなで変えよう!日本の性犯罪規定における問題点』を開催しました!

 

HRNで女性の権利問題に関わる声明や改正案の作成をしている教授1名及び弁護士5名が登壇し、現行の性犯罪規定の問題点と私たちが求める改正案について、事例を用いて解説しました。

 

今回の記事では、当イベントの後半、現行法の問題点(後半)・検討会に関する報告をお伝えしていきます。(noteではイベントで紹介した事例の一部を取り上げます。)

 

【前編】こちらをご覧ください。

 

まず、雪田弁護士が、地位関係性利用 性的行為罪/性交罪について事例と共に問題点を説明しました。

暴行・脅迫がなければ不起訴、という現状

 

<事例4>

 

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中学2年生の女子生徒Aが、男性教師Bから性的暴行を受けた構成事例。

 

Aは友人関係の悩みをきっかけに、学校の人気者で憧れの男性教師BとLINEをするようになった。その後、学内の相談室に呼び出されるようになった。

 

相談室に行ったAは、教師Bから胸を触る等の性的行為、さらには口淫をさせられた。憧れを抱いていた教師からの呼び出しであり、友人関係の悩みの相談を聞いてもらっていたため、AはBの要求に応じた。

 

しかし、次第に疑問を持ち始め、友人に相談して発覚。

 

暴行・脅迫がないため、立件不可と判断された。

 

現在の法律では…

監護者性交等罪の「監護者」

=「その者を現に監護する者」(親など)と、範囲が非常に狭い。

 

18歳未満の者に対して、

被害者が抵抗できない地位関係を利用した性暴力の場合でも、

暴行脅迫などがなければ、加害者を罪に問うことができない。

▼▼▼

 

HRNは、現に監護する者の定義を拡大して教師を含むことで、教育関係者による性暴力を処罰することを求めます。

 

【改正案】179条 監護者等性的行為罪・監護者等性交等罪(拡大)

1項  18歳未満の者に対し、同居する者、もしくは、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、監督、保護、支援の対象になっている者に対する影響力があることに乗じて性的行為をした場合は、176条3項の例による。

 

2項  18歳未満の者に対し、同居する者、もしくは、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同 種の性質の関係にある者が、監督、保護、支援の対象になっている者に対する影響力があることに乗じて性交等をした場合は、177条3項の例による。

加害である義父は、娘からの「同意」があったと主張し不起訴に…

 

<事例5>

 

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9歳の被害者Aが、同居する義父Bから継続的に性的暴行を受けた事例。

 

被害者AとBは自宅で「リベンジポルノ」に関するTV番組を見ていた。BがAに対し「(Aは)彼氏に裸の写真を送ったことないんか?」と聞くと、Aが「ある」と答える。すると、Bは激怒して午前4時頃まで怒鳴り、殴る蹴るの暴行を加えた。

 

このことをきっかけに、BはAと元交際相手とのLINE履歴を読み、Aが元交際相手と性交渉をもっていたことなどがわかると、さらに激怒。Aの服を脱がせ、殴る蹴るなどの暴行を加えた。そして、「(元交際相手に)こんなんされとったんか!!」などと言い、LINEに記載があった「体位」を取ることを強要したり、Aの胸や陰部を触ったりした。

 

それからBはAに毎日のように性的行為・性交を強要するようになった。深夜、Bはリビングで寝ているAの服を脱がし、「家に居たいなら受け入れろ。」と脅した。Aは恐怖とこれからの生活を考え、うなずくしかなかった。BはAに馬乗りになり、陰茎を挿入し射精した。その後も、車内での口淫や手淫を強要したり、Aの下着を捨てて「ノーブラ」や「ノーパン」で大学に通学させたり、生理中にもかかわらずAに性行為を強要し挿入行為を行うこともあった。

 

AはBの度重なる行為に耐えられなくなり、相談機関に相談し警察に被害届を提出。Bは強姦罪、強制わいせつ罪で逮捕・勾留の後、処分保留で釈放。数か月後、Bは不起訴処分になった。

 

本事例の不起訴理由は公表されていないが、「行為が連続しており事実の特定が難しいこと」「BはAの同意があったと述べていること」が理由であると考えられる。(Bは民事調停で自分の非を認め、損害賠償金を支払った。)

現在の監督者性交等罪は、被害者が18歳未満の場合に限定している。

 

加害者が「離婚等の理由で親権のない親、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員」などの権力関係を利用して性交等に及んでも

 暴行脅迫がなければ処罰対象にならない

▼▼▼

 

HRNは、18歳以上のものに対する地位関係性を利用した性暴力を処罰すること、監護者の類型を拡大することで、被害者が抵抗できない地位関係性を利用した性暴力から、18歳以上の者も保護することを求めます。

 

【改正案】新設 179条の2 地位関係利用性的行為罪・地位関係利用性交等罪

1項  18歳以上の者に対し、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、その地位や権限を濫用して性的行為をした場合は、176条1項の例による。

 

2項  18歳以上の者に対し、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、その地位や権限を濫用して性交等をした場合は、177条1項の例による。

 

6月から法務省で始まった検討会の論点が決定

2020年6月から法務省で行われている法務省・性犯罪に関する刑事法検討会の様子と、法改正に至るまでのプロセスについて、寺町弁護士より報告がありました。

 

2017年6月、110年振りに刑法性犯罪規定が改正され、この法律の施行後3年を目途として、見直す必要がある場合には検討をすることを決めました。

 

2017年6月 前回刑法改正の附則第9条

第9条 政府は、この法律の施行後3年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 

2018年4月 法務省・性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループが設置され、性犯罪被害の概況と被害者心理等に関する研究をはじめとする7項目の調査が実施されました。調査結果はこちら

 

そして2020年4月、規定改正の見直しが必要であるとして、法務省・性犯罪に関する刑事法検討会の設置が決定しました。

 

新型コロナウイルスの影響で実際に検討会が始まったのは6月。2回に分けてヒアリングが行われた後、今後話し合う論点の叩き台が公開されました。(その後8月の検討会で、論点が決定しました。)

 

今後は、以下のプロセスで、法改正が進んでいきます。

<法改正に至るプロセス>

1.法務省・性犯罪に関する刑事法検討会

 

① 論点整理

② 議論

③ 取りまとめ(2020年度内か)

 

2.法制審議会・刑事法部会

④ ③に基づきつつ論点整理・議論

⑤ 改正法案・取りまとめ

3.国会審議

 

⑥ 法案審議(衆議院参議院) ➡ 可決成立!

今回の検討会は、前回の検討会とは異なり、被害当事者が委員に選任され、被害者心理・被害者支援に知見のある精神科医臨床心理士、弁護士

委員に加わっています。寺町弁護士は、2017年の検討会とは異なり、改正しなければならないという空気が強いと感じていると、報告しました。



今後の検討会の様子はこちらからご覧ください。

刑法改正の山場はここから

検討会での論点整理が済み、いよいよ議論が始まります。

長い道のりになりますが、ここからの議論で、具体的に改正する内容が決定します。

検討会委員に私たちの声を届けるべく、一緒に世論を盛り上げていきましょう。

 

ヒューマンライツ・ナウ、Spring、Voice Up Japanは、法務大臣へ刑法改正を求める署名活動を行っています。

法務大臣へ、性犯罪における刑法改正を求めます。

刑法改正を目指して共に活動しているSpringは、刑法改正を求める声を募集しています。

One Voiceキャンペーン