HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、人権に関する学べるコラムやイベントレポートを更新します!

*イベントレポート*3月9日開催「刑法改正はどうなっているのか。〜私たちが望む社会に向けて〜」YouTubeでも限定公開!

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※本イベントの動画に関しまして、当初は非公開の予定にしておりましたが、法務省・性暴力に関する刑事法検討会が大詰めを迎える今、より多くの方にご関心をお寄せ頂きたく、期間限定で公開させていただく運びとなりました。刑法改正に向けた更なる後押しとなることを願っております。予定を変更しましたことを、特に本イベントの参加者各位に深くお詫び申し上げます。HRNは、今後も刑法性犯罪規定の改正に向け活動してまいります。皆さまの変わらぬご支援、ご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。

1ヶ月間限定で、本イベントの録画を公開させていただきます。

是非ご視聴ください。

youtu.be

本動画の公開は人権侵害の被害救済を目的としています。登壇者や、被害者の心情を傷つけたり誹謗中傷する恐れがあるコメントはお控えください。

3月9日、ヒューマンライツ・ナウは国際女性デーに合わせてオンラインイベント「刑法改正はどうなっているのか。〜私たちが望む社会に向けて〜」を開催しました。

 

2017年秋に始まった#Metoo運動から3年以上が経過した現在も、フラワーデモなどを通して性暴力に声を上げ、社会を変えようという声が高まっています。

 

現在法務省で行われている性犯罪に関する刑事法検討会では、このような市民の声に応えて、刑法性犯罪規定の改正を進めることが期待されています。

 

そこでHRNは、ジャーナリストの伊藤詩織氏と東京新聞記者の望月衣塑子氏と共に、刑法改正について再考するイベントを開催するに至りました。

 

本イベントでは、中山純子弁護士により検討会の全体報告と重要論点「暴行・脅迫の要件の在り方」「心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」「地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」についてご説明いただいた後、HRN伊藤和子事務局長(以下伊藤事務局長)、伊藤詩織氏、望月衣塑子氏によるパネルディスカッションを行いました。

 

刑法177条(暴行・脅迫の要件の在り方)

中山弁護士の報告によると、検討会では、客観的な手がかりとして暴行・脅迫要件は依然として必要であり、「不意打ち」や「偽計」など現行法に記載されている以外で、性暴力に繋がると想定される手段を列挙する必要があるという意見が優勢なのだそうです。もっとも、不同意性交を意味する「その他意に反する」という文言のみで不同意性交罪を規定することについては、慎重な意見が多数であり、「その他意に反する」という文言だけでなく、「被害者の自由な意思決定を困難にし、その状態で性交等を行う」という限定をつける必要があるという意見が述べられています。
 

パネリストの皆さまには、これに関するご意見をお伺いしました

 

伊藤事務局長は「机上の空論ではなく、性暴力の実態を学びそれが救済される形で刑法改正の規定作りをしていく必要がある」とし、現在の検討会での議論の方向性に対し異論を唱えました。

 

日本社会には不同意性交の概念が未だ根付いていないとする慎重派の意見に対して、望月さんは、刑法改正と並行してメディアによる発信や教育を通じた社会規範の育成の必要を訴えておられました。

 

伊藤詩織さんは、現行法のもとで苦しむ被害者を一刻も早く無くすため、少しずつの進歩ではなく、大幅な改正を以て被害の救済にあたって欲しいと訴えておられました。刑法改正は、社会が不同意性交について学ぶ機会にもなると仰っていました。

 

刑法178条(心神喪失・抗拒不能の要件の在り方)

検討会では、抗拒不能に何が該当するか明確でないために、裁判官によって判断にブレが生じるという現行法運用上の課題が挙げられています。これを明確にすべく付け加える文言として「人の無意識、睡眠、薬物の影響、酩酊、疾患、障がい、洗脳、恐怖、困惑」などの意見が出ており、今後も議論が進められていきます。

 

パネルディスカッションでは、さまざまな意見交換がなされました。

 

これまで数々の性暴力犯罪の取材に取り組んできた望月さんは、障がいのある被害者の証言は信用されにくく、起訴までのハードルが格段に高くなっていると解説してくださいました。この観点から「障がい」という文言を列挙することには大きな意味があるとお話しされました。

 

伊藤事務局長は、文言が被害の実情に沿うのかどうか懸念を示しました。例えば「酩酊」は、泥酔して意識のない状態しか認められず、意識があっても身体が動かない状況などが考慮されない可能性があります。他にも「恐怖」や「困惑」など被害者心理が救われる規定ぶりを設けることが重要だと指摘しました。

 

地位関係性利用等罪の創設(被害者の年齢を問わず脆弱性・優劣・関係性を利用した場合の処罰規定を設けるべきか)

検討会は、賛否の意見で分かれているそうです。多くの場合において、被害者は抵抗できない状況に置かれている実態や、加害者側の「黙っているから同意だと思った」などの弁解が数多く認められていることなどを考慮し、地位関係性利用等罪の創設は必要だとする意見と、無害な行為が処罰される恐れを考慮する慎重な意見があるそうです。

 

これについて伊藤事務局長は、被害者がフリーズした場合でも罪に問えるようになることから、地位関係性利用等罪は多くの被害の受け皿となり、創設は絶対に必要だと解説しました。

 

ゲストのお二人も、地位関係性利用等罪の必要性を訴えました。

 

望月さんは、新たな処罰規定の創設が社会の倫理観を育て、社会的規範を変え、これが性暴力犯罪を抑制することに繋がるとお話しされました。そして、一歩踏み込んだ刑法改正が必要だと強く訴えました。

 

伊藤詩織さんもこれに続き、被害当事者でないと分からない恐怖や抵抗できない理由が法廷で認められないケースは数を知れず、被害実態にしっかりと目を向けてこれを重く受け止めて欲しいと語られました。

 

この後もパネルディスカッションは続き、性暴力事件の捜査における二次被害や、被害者支援制度の拡充などさまざまな観点から議論がなされました。

 

刑法改正実現に向けて

最後に、刑法改正にかける思いをお一人ずつに語っていただきました。

 

伊藤事務局長は、手紙や要請書を提出するなど私たちにできることを行い、検討会に向けて市民の声を突き付けていくことが大切だと締め括りました。

 

伊藤詩織さんは、不同意性交等罪の創設を何としてでも実現し、被害者の気持ちを汲み取るという当たり前のことができる社会になって欲しいと訴えました。

 

望月さんは、市民の声で社会を動かしていくため、今後もメディアを通して人々に向けた啓発を行っていきたいと意気込みを新たにしました。

 

最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

このようなイベントを通して、今後も皆さまとお会いできるのを楽しみにしています♪

(文=國末りこ)