HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

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今さら聞けない、児童労働とは? なくすために、あなたができること

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これまで、ビジネスと人権プロジェクトでは、産業活動が引き起こしている人権侵害について触れてきましたが、その中でも特に深刻で、様々な産業に共通するのが児童労働

 

本日6月12日は、「児童労働に反対する世界デー」です。多くの子どもたちの権利を守るために、児童労働について学び、私たちができることを一緒に考えてみましょう。

 

あなたの身の回りのものは過酷な児童労働に支えられているかも

世界には、1億5200万人の子どもたちが児童労働に従事しており、特にアフリカやアジア地域で多く報告されています(ILO、2017年)。また、多くの産業で問題になっており、これまでHRNのSNS投稿で取り扱ってきたテーマの中でも以下の産業と関連しています。

つまり、あなたの身の回りにある製品やあなたが普段口にしている食品によって、多くの子どもたちが犠牲になっているかもしれないのです。

児童労働とは?

児童労働撤廃と予防に取り組む国際協力NGO、ACEによると、児童労働には以下の内容のものが当てはまります。

国際条約の定義では、15歳未満(途上国は14歳未満)、つまり義務教育を受けるべき年齢の子どもが教育を受けずにおとなと同じように働くことと、18歳未満の危険で有害な労働を「児童労働」としています。

 

15歳未満でも、家のお手伝いをしたり、学校にちゃんと通いながら放課後や休みの日に家業を手伝ったりすることがあるかもしれませんが、それは児童労働とは言いません。15歳を過ぎて学校に通いながらするアルバイトも、児童労働にはあたりません。

 

お手伝いやアルバイトは、子どもが学ぶこともたくさんあり、子どもにとってプラスになる形で働くことは「子どもの仕事(Child Work)」と呼んで区別されています。ただし、子どもの教育や安全が妨げられないことが前提条件となります。

 

「児童労働」とは、子どもの教育や健康的な成長を妨げる、法律で禁止されている子どもの労働ということになります。

 

そして実際に児童労働をさせられている子どもたちは主に以下のような被害を受けています。

  • 義務教育が受けられない
  • 危険な環境で働かされ、ケガを負い、病気を患い、命を落とすことがある
  • 人身売買された後、無給または低賃金しかもらえないなど、不当な扱いを受ける

児童労働の現場についてもっと詳しく知りたい方は、Instagramの投稿をチェックしてみて下さい!

www.instagram.com

 

どうして児童労働が起こっているのか?

児童労働が起こる要因として、主に3つが挙げられます。

要因1:子どもを働かせてしまう家庭や地域

児童労働が起こっている家庭や地域では、貧困が大きな問題になっています。その日食べるためのお金を得るだけでも大変な家族のためや、政府による教育環境がきちんと整備されていないために教育費が高く、その教育費のために働かなければならないのです。そして、子どもが働くことを当たり前のこととし、教育を受けなくてもいいと認識している地域社会も存在します。児童労働を取り締まる制度が整っていないことも、要因の一つです。

要因2:児童労働を助長してしまう企業や消費者

少しでも安いものを求める消費者や、そのためにコスト削減を求める消費国の企業の行動も児童労働の要因になっています。例えば、価格交渉力が強い企業は、原料の生産者に十分な報酬を与えないといった、公正な取引が行わないことがあります。彼らの大半を占めている小規模農家などが労働者を雇うことができず、不足する労働力を児童労働によって補うケースが発生しています。

要因3:児童労働の連鎖

子どもが児童労働によって収入を得ることができれば、子どもたちの生活状況が改善されるだろうと考える方もいるかもしれません。しかし、子どもが労働市場に参加することで、平均賃金の低下、教育の欠如等の問題が発生してしまうのです。そこから、さらなる貧困に繋がってしまい、子どもが働かざるを得ない状況を生み出しているのです。このように、貧困と児童労働の連鎖を引き起こしています。

児童労働をなくすための国際的な枠組み

児童労働を撤廃するために様々な国際的な条約や、目標ができています。

  • 「最低年齢条約」(第138号)(1973年にILOで採択)

働いてよい最低年齢は義務教育を終えてからであることを定めました。

18歳未満の人たちを子どもと定義し、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約です。子どもが保護を受ける立場というだけではなく、自分から行動をする権利についても書かれています。

  • 「最悪の形態の児童労働条約 」(第182号)(1999年にILOで採択)

子どもにとって特に搾取的な労働を明確に定め、最悪の形態の労働に就く18歳未満の子どもたちを優先的に保護することを決めました。

  • 「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年に国連総会で承認)

企業は自社が直接的に引き起こした人権侵害のみならず、間接的に助長したり事業と結びついている人権侵害にも責任を負うべきとしています。

  • 「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」(2015年に国連で採択)

17 の目標のうち目標 8 のターゲット8.7 において児童労働撤廃に言及し、2025年までにあらゆる形態の児童労働を撤廃することが掲げられています。

 

児童労働をなくすためのHRNの取り組み

これまで、HRNは、著しい人権侵害を含むこの児童労働の実態を一人でも多くの方々に知っていただき、根絶のために声を挙げていただくため、現地での調査と提言をまとめた報告書を公開してきました。

北東インド炭鉱での児童労働調査報告書

2010年、インド・メガラヤ州における過酷な炭鉱における児童労働の実態を調査しました。炭鉱にはネパール、バングラデシュから幼い子どもたちが連れてこられ、危険極まりない労働を強いられ、多くの子どもが命を落としていることが明らかになりました。そして、報告書の最後では、インド政府、国際社会、国際的な産業界に対しての提言を行っています。

hrn.or.jp

Child Labour in the Myanmar Fishing Sector(英語の報告書)

2017年、ミャンマーの漁業部門における児童労働の実態を調査しました。ヤンゴンのサンピャー魚市場で労働者と児童労働をさせられている子どもに数回のインタビューを行ったところ、ミャンマー政府による適切な規制が行われていないこと、ミャンマーの漁業部門とビジネスを行っている海外企業が人権尊重責任を果たしていないことが明らかになりました。そして、報告書の最後では、ミャンマー政府と海外企業に対して提言を行っています。

hrn.or.jp

児童労働をなくすために、あなたができること

その他にも、国際社会では政府やNGOなどによる児童労働撤廃のための様々な取り組みが行われていますが、未だに児童労働の解決に至っていないのが現状です。そこで、問題に関係する企業や消費者が、問題を深刻に捉え、解決のための行動を早急に起こすことが求められています。

 

では、児童労働をなくすために企業や消費者ができることは何でしょう?ビジネスと人権の専門家である、HRNの佐藤暁子事務局次長からコメントをいただきました。

 

企業ができること

企業はまず、児童労働が子どもの権利にとって、非常に深刻な問題であることを改めて認識する必要があります。その上で、自身の事業活動のサプライチェーン上で児童労働が行われていないか、関連するNGOや国際機関の情報なども収集した上で、しっかりとアセスメントしていくことが求められます。そして、児童労働が生じる背景には、貧困や格差といった社会の構造的な問題があることから、自社のサプライチェーンに止まらず、他の企業や団体と連携しながら、根本的な問題をどう改善していくことができるか、ぜひ積極的に議論してもらいたいと思います。現場で活動しているNGOなどとのステークホルダーエンゲージメントもぜひ行ってください。

 

消費者ができること

自分たちが手に取る商品の裏に、もしかしたらこのような児童労働が関係しているかもしれない、と意識してみることが第一歩になります。児童労働が起きる仕組みについて調べてみたり、児童労働に関して活動しているNGOを支援するなど、ひとりひとりの小さなアクションを積み重ねることで、大きな課題も変えていくことができます。HRNのSNSで発信している内容を、友人や家族など周りの人たちにもシェアして、日常的な会話の中でもぜひ話題にしてみてください!

 

おわりに

児童労働は、私たちが持っている身近な商品と結びついており、企業にも消費者にも関係のない話ではありません。企業で働くあなたや、消費者のあなたの行動で児童労働の撤廃へ繋がるのです。ぜひ、できることから始めてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。参考になったと思ったら、シェアをお願いします!

 

参考文献 

ILO「児童労働」

ILO「ILOヘルプデスク 児童労働」

NGO ACE「児童労働入門講座」

日経ESG「急浮上する経営リスク、児童労働問題」(2021/2/10)

アムネスティインターナショナル日本「『子どもの権利条約』と『児童労働』」

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、株式会社オウルズコンサルティンググループ、認定 NPO 法人 ACE「児童労働白書 2020 ビジネスと児童労働」(2020/12)

 

(文・豊吉里菜)