HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

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【第3弾】ビジネスと人権プロジェクトインタビュー企画 「私たちこうやって『ビジネスと人権』に取り組んでいます」

企業の「ビジネスと人権」の取り組みについて現場の声を伝え、多様なステークホルダーがどのような課題を抱えているのかを共有し、ビジネスと人権の取り組みを促進することを目的としたビジネスと人権インタビュー企画。第3弾は三菱地所株式会社サステナビリティ推進部、人事部人権啓発・ダイバーシティ推進室の方にインタビューさせていただきました。

なお、本インタビュー企画は、多様なステークホルダーの活動促進のきっかけ作りとして、各企業のビジネスと人権にかかる取り組みを紹介させて頂くものですが、インタビュー実施以上の事実調査は行っておらず、その取り組みの具体的内容すべてを当団体として保障・賛同するものではございません。

 

「ビジネスと人権」に関連した取り組み

まずは、長期経営計画2030の一環として策定した「三菱地所グループのSustainable Development Goals2030」で定めた「サステナブルな社会の実現」という目標のもと、実施している取り組みの一部を紹介いただきました。
三菱地所グループの新入社員や三菱地所の新任管理職向けの人権研修などの取り組みのほか、3泊4日の宿泊研修、建設・不動産人権デュー・ディリジェンス勉強会などのユニークな取り組みについてもお話いただきました。

 

宿泊研修

三菱地所グループの管理職を対象に、毎年8月に30~40人で行う3泊4日の人権研修です。高野山で毎年開催されている部落解放・人権夏期講座に合わせて現地に赴き、その研修と合わせて企業オリジナルの研修も実施しているとのことです。

参加者からは、日頃、人権のみにフォーカスして数日間も考え続けることはない中で、この期間は目から鱗となるような発見や様々な気づきが多いという感想が寄せられているとのことです。
すぐにグループ全体の雰囲気が変わるものではありませんが、一回だけではなく毎年継続することで、各社で参加したことがある人の数が増え、グループ全体の雰囲気も少しずつ変わり、良い影響が出てくることを期待しているそうです。2020年以降はコロナの影響で中止となっていますが、再開を心待ちにしている社員もいるとのことでした。

 

建設・不動産人権デュー・ディリジェンス勉強会

2018年からデベロッパー5社とデベロッパーの1次サプライヤーに当たるゼネコン3社との建設・不動産人権デュー・ディリジェンス勉強会を開催されています。グループの人権に関する取り組みを進める過程で、最終的に人権への負の影響を減らしていくのは一社の取り組みだけでは困難であり、業界全体で取り組む必要があると感じ、自ら呼びかけ企業となって同業他社とゼネコン企業との勉強会を発足させたということです。

同じ業界の中でも取り組みの進度や理解度がバラバラの中で足並みを揃えるのは難しかった一方、問題点や課題は業界で共通する面もあり、方向性が決まった際には認識を共有して動くことができるという大きなメリットを感じていると話されていました。

また、業界全体として取り組むべきという考えから、三菱地所のグループ会社が考案した適正な木材使用に関わる認証スキームについても、手順書・仕様書などを含めて勉強会でオープンにしているそうです。

 

取り組みのきっかけ

次に、「ビジネスと人権」に関する取り組みを始めるきっかけについてお話いただきました。

1970年代から、差別禁止・同和問題等といった人権課題に関する啓発活動を継続的に行っており、会社全体として人権への感度が高く、人権の重要性が十分に共有されてきたそうです。そのような中、5~6年前に人権に関する国際的な動向を踏まえて社内議論が始まり、2018年に業界の中では先駆けて「ビジネスと人権に関する指導原則」を元にした三菱地所グループ人権方針を策定したということです。

人権侵害をなくす方向性について、総論は賛成であっても各論レベルで議論した際の難しさがあると指摘されていました。サプライチェーン上でどこに人権侵害があるかの見極めには現場の協力が欠かせませんが、その現場の作業が増えてしまったり、それに伴ってコストも増えてしまったりする場合に、なかなかすんなりと実行できず難しさを感じる場面もあるとのことでした。

 

サプライヤーとのコミュニケーションで意識していること

「ビジネスと人権」の取り組みで重要なサプライヤーとの協力について、コミュニケーションを取る上で意識していることを伺いました。

サプライヤーとの間で共通認識を持つことに特に注力しているとのことでした。まず行うのはサプライヤーの方がどのような考え方や計画に基づき、どんな具体の取組みをしているか等ヒアリングをし、相手の価値観などを知った上で、三菱地所としての考えを伝えながら、共通ゴールを持てるような対話を心がけているそうです。見解の相違が出てしまう部分もあるということですが、お願いしている事項の背景や理由についてもしっかり説明することで理解につなげているとお話いただきました。1次サプライヤーのゼネコン各社も課題意識は持っており、同じ認識ができつつあると感じているとのことですが、その先の2次3次サプライヤーについてはアプローチするのが難しいケースも多く今後検討を進めていくべき点だと課題感を共有いただきました。

 

NPONGO、政府に求めること

NPONGOまた、政府に求めることも伺いました。

NGOなどに求めることとしては、企業との対話の重視を挙げていただきました。何をどのくらいのタイムラインでどこまで求めるのか、何が最低限必須なのか、どういった取り組みがベストプラクティスと考えられるのかなどを知りたいとお話いただきました。特に新しいテーマの場合、十分な情報が公開されておらず、情報を得るのが難しいと感じることもあるそうです。また、自分達の取り組みに対してのフィードバック、とりわけ方向性や内容についての評価や改善ポイント等を知りたいとお話いただきました。
政府側に求めることとしては、グローバルな水準に合わせたルールづくりを挙げられていました。できる限りグローバルな動向にキャッチアップするようなスピード感のあるルールづくりをお願いしたいといった意見や、個々の企業の自主的な取り組みだけではなかなか全体に広がらないこともあり、重要なテーマに関しては何かしらの拘束力を持ったルールづくりも必要となるのでは、というお話をいただきました。



取り組みへの前向きな姿勢の源

インタビューを進める中では積極的な人権への取り組みや、外部の声を進んで取り入れようとする姿勢が印象的だったため、その源について伺いました。

まちづくりを中心に事業を展開し、まちに関わる人々が幸せになるような場所を追求する中で、様々な分野の外部の声を聞く文化が根付いているのではないかとお話いただきました。企業風土、企業文化として世の中にポジティブな影響を与える責任があるという意識が会社全体としてあるように感じるとのことでした。

 

今後の展望

最後に「ビジネスと人権」の取り組みに関する今後の展望について教えていただきました。
「ビジネスと人権」の観点でも目標としては常に最先端の取り組みをしていきたいとお話いただきました。しかし、こうした取り組みは多くのステークホルダーの理解を得ながら進めていくものなので、各ステークホルダーの意見をいただきつつ、進めていきたいとのことでした。
着実に取り組みを進める中で、日本だけではなく世界からも評価いただけるような立ち位置を目指していきたいという意気込みもお話されていました。

 

編集後記

企業のチャレンジを促す風土が「ビジネスと人権」への取り組みにも良い影響を与え、世界での新しい動向に対する前向きな姿勢が印象的でした。
また、デベロッパーの事業の中心であるまちづくりはまちとそこに暮らす人々を幸せにする仕事でもあると言います。「人権」という言葉でなくとも、「多様な価値観が認められる場」のように、人の尊厳について意識する機会が多く、人権と非常に親和性が高い領域なのではないかと感じました。
業界によっても「ビジネスと人権」の取り組みの進めやすさは異なるかと思います。取り組みを進めやすい業界の積極的な歩みにより、他業界にも良い影響が伝わることが期待できると感じました。

 

(文責:土方薫)