HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、人権に関する学べるコラムやイベントレポートを更新します!

【イベント報告】世界子どもの日キャンペーン2日目

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)では、世界子どもの日にあわせて、11月20日と21日の2日間に渡りイベントを開催いたしました。11月21日は、校則問題について考えるプログラムを実施いたしました。

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開会のあいさつ・大使館メッセージ

 HRNの新倉修理事長より開会の挨拶をいたしました。また、本イベントのスポンサーを紹介いたしました。

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また、本イベントは、以下の大使館の後援・協力により開催されました。

 

 

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ヒューマンライツ・ナウの取り組み・子どもの権利について

次に、HRNインターンの溝口より、HRNの取組みおよび子どもの権利について紹介いたしました。

  • HRNの取組み

こちらのリンクから当団体の概要についてご覧いただけます

https://hrn.or.jp/outline/

 

  • 子どもの権利

子どもの権利の内容は、子どもの権利条約によって規定されています。本条約は、1989年11月20日に国連総会で採択されたことから、11月20日は世界子どもの日に制定されています。

約2021年11月現在、子どもの権利条約は、196の国と地域によって批准されています。本条約では、18歳未満の子どもを、権利を持つ主体として位置づけ、子どもが、おとなと同じように、ひとりの人間として権利を持っていると認めています。子どもが持つ権利を大きく4つに分けると、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利があります。

 

内田良氏よりプレゼンテーション

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授の内田良氏より、校則問題についてお話を伺いました。

 

■校則について

これまでの学校文化は上から厳しい指導を受け、それを歯を食いしばって耐え抜くというもので、校則とはまさに生徒に対して「考えるな」という指導方針であったと内田氏は指摘しました。

しかし、これからの時代は、「自分で考えていく」時代になってきており、その流れの中で校則の見直しが始まっていると説明しました。

また校則は、校則を緩めた先のことをおとなが勝手に想像して、生徒に対する不信感を募らせているからこそ作られる仕組みだと説明しました。例えば、マスクの色を白のみに指定する校則が生まれる原因について、内田氏は次のようなおとなたちの考えがあるかだと示しました。

 

「マスクの色を白以外の色でもいいとすれば、そこから持ち物が派手になり、さらに化粧もし、化粧をしたから学校の外で派手に遊ぶようになり、外で遊んでいたら事件に巻き込まれて、その事件が学校に持ち込まれる。だから、そのようなリスクが生じないように根こそぎ危険を排除しよう。マスクは白以外認めない。」

 

おとなたちが校則を緩めた先のことを勝手に想像している一方、生徒たちは校則を緩めたとしても何も起こらないと考えている現状があります。

 

■学校依存社会

私たちの社会は、人を傷つけない限り、個人は原則自由であるという社会ですが、校則は生徒を原則不自由とする仕組みです。校則は、服装の指定、髪型の指定、さらには学校が終わったあとの外出時間の指定、夏休みの行動規制等にまで及びます。

内田氏は、このような校則による行動規制は学校だけの問題ではなく、地域社会の問題でもあると指摘しました。

例えば、制服を着た子どもたちが学校帰りに飲食店に行った際に、その子どもたちの行動について地域住民が学校に苦情を入れ、苦情を受けた学校は、子どもたちの授業が終わった後の行動を制限するということがあります。

このように地域住民が、子どもの広範な管理を学校に期待している社会を「学校依存社会」と内田氏は定義します。校則の問題は、学校だけが原因ではないということは明らかです。

 

■校則の見直し

内田氏は、校則の見直しのためには「先に変わるべきなのは生徒なのか? 先に校則を見直し始めるべきなのは生徒なのか?」という問いを投げかけました。

これについて、教師こそが変わるべきであり、教師による校則の見直しが必要だと述べました。校則について生徒が出した提案が教師によって却下されたという事例がたくさん報告されています。

また、半年・一年かけて、やっと許可されるタイツの色が一色増えたなどという事例も多くあり、そのような変更であれば学校長が一日で変更できるはずです。今、生徒による見直しがブームのようになっていますが、教師が変わらなければ生徒の全ての提案が却下されてしまいます。校則改革は、まずはおとなの問題ですと述べました。

 

■おわりに

学校の中には子どもの人権を尊重したいと考えている教師もいるが、まだまだ少数派であり、学校の外部から声をあげ続けることで、そのような教師たちが声をあげられる環境が作れると、内田氏は考えています。子どもの人権を尊重したいと考える声を学校内部であげられるように、これからも学校の外から声をあげ続けたい、と述べました。

 

ディスカッション

次に、身近にある人権侵害と感じる校則や、なぜあるのか分からない理不尽に感じる校則などを参加者に紹介していただきました。三つ編み以外の髪型を認めない校則、日焼け止めの禁止、事実上強制されていた冬場の縄跳び、金銭的に余裕がなく制服が買えない人がいるのに制服の購入が義務付けられていることなどが挙げられました。

また、声を挙げても、先生が一切話を聞いてくれないことや、周りの友人からも怪訝な目で見られることもあるというお話もありました。

さらに海外の高校に進学した方からは、進学先の学校には校則がなかったため、自由に過ごせるようになり、日本で通っていた学校では色々な行動が制限されていたということを自覚したという経験を共有していただきました。

 

筑波大学附属坂戸高等学校 生徒会 亀谷氏からの活動紹介

筑波大学附属坂戸高等学校の生徒会長の亀谷凪沙氏から、校則改革についてご紹介いただきました。

筑波大学附属坂戸高等学校では、15項目あった校則を2項目に見直されました。制服について制服と私服の両方を選べるようにする校則改革の順序として、まず制服と私服どちらを着てもいい2週間のトライアル期間を設けたそうです。

トライアル実施の前後でアンケートを実施し、最初のアンケートでは保守的な意見が見られましたが、トライアル期間後には校則改革への賛成意見が増えたという結果が出ました。

また、校則変更後は、「校則リフレクション会」を定期的に設け、生徒の意見を反映し、小さな問題や疑問の認知を図っているということです。多様性を認めあうために自由化した校則が、持続可能なものとして学校に根付くように、「校則リフレクション会」を活用していきたいとの展望を述べました。

今後予定している活動としては、年度末に生徒代表と生徒指導部で振り返りを行うこと、受験生や学校外部に対して校則改革についての情報を発信することなどを挙げました。

 

質疑応答

■保護者や先生の校則改革に対する反応 

亀谷氏は、校則改革後の保護者の反応について、元々学校が自由な校風であったため、保護者からの強い反発はなかったと振り返りました。髪色の校則についても、最初はあまり好意的に捉えていない先生もいたのではないかと思うが、校則改革後は、先生から生徒に対して「その髪色いいね」と声を掛けられるなど、先生からも受け入れられていると感じると述べました。

亀谷氏の回答を受けて、内田氏は、筑波大学附属坂戸高等学校をはじめとした多くの学校で校則を自由化した際に、生徒が荒れたということもなく、おとなが懸念していたことは一切起きなかったという結果は明らかなのだから、その結果を踏まえてもおとなは校則を再び強めるのか否か、おとなの姿勢が問われていると述べました。

 

■校則改革後の生徒の服装

 内田氏は亀谷氏に、生徒の服装について尋ねました。内田氏は、服装を自由化した学校は未だ多くなく、服装を自由化することに不信感を抱いているおとなも多いため、実際に服装を自由化した生徒たちがどのような様子なのかを発信することは極めて大切であると考えています。

 亀谷氏は、生徒の服装について、制服、制服に私服を組み合わせる、私服の3つのパターンがあり、いつも制服を着ている人が3割弱、私服の人が4割弱程度、残りは制服と私服を組み合わせていると説明しました。また、私服については、部活にそのまま行けるようにジャージを着ている人、実習着を着ている人や、街中にいる同年代の若者が着ているような服装の人がいると述べました。

 これに対し、内田氏は、制服を自由化したとして、亀谷氏の説明の通り、街中にいる若者がそのまま学校に来ているだけであるから、おとなたちは服装の自由化を恐れることはないと思うと述べました。

 

■教師の協力を得ることが難しい学校に通う生徒へのアドバイス

 亀谷氏は、教師に生徒の立場に立って考えてもらえれば、校則が変わるのではないかと述べました。例えば、雪の日にタイツが禁止という校則があり、少しでも考えれば問題があるのは分かるはずなのにその校則が残っているのは、教師がデメリットの方に焦点を当てすぎていることに原因があると亀谷氏は考えます。そこで、生徒側から教師に対してこの校則はおかしいと声掛けをして、異なる立場に立って考えてもらう機会を作ることで、教師の意見を変えるきっかけになるのではと提案しました。

 内田氏は、校則をおかしいと思っている教師はいるが、まだ生徒を抑えつけるような教師が権力を持っているため、教師から校則を改善するという声も挙げにくいと述べられました。だからこそ、教師が声を挙げることのできる環境を作りたいと考えていらっしゃいます。そして、今、教師に自分の声をなかなか聞いてもらえない生徒も、校則を変えたいと考えている教師を見つけることが最初の一歩になると話しました。

 

スピーチコンテストの入賞者によるスピーチの披露

当団体では、グレタ・トゥンベリさんのように若者自らが勇気を出して子どもの権利について発信することの意義を伝えていくということをコンセプトとして、毎年スピーチを実施しております。本年度は、世界や身の回りの人権について学び・考え・発信する機会を提供することを目的に国内外の中高生から作品を募集いたしました。そして、厳正なる審査の結果、3名の方が入賞いたしました。

 

最優秀賞 坂口くり果さん(Drumheller Valley Secondary School)

「明るい未来のために」


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優秀賞  芦田幸来さん(ケイ・インターナショナルスクール東京)

カンボジアの子どもたちと話して」


www.youtube.com

 

入賞  小池和さん(山梨県甲府西高等学校)

「人格で判断される世界に」

 

2日目のイベントでは、芦田さんと坂口さんに発表していただきました。(芦田さんはご都合が合わず、録画での発表となりました。)

上記のリンクにて、イベント2日目に披露されましたスピーチはご視聴いただけます。

 

 

閉会のあいさつ

 HRN伊藤事務局長より閉会のあいさつをいたしました。大使館の方々やスポンサーの方々をはじめ、ご登壇いただいた内田氏、亀谷氏、当日スピーチを披露してくださった芦田さん、坂口さん、スピーチに応募していただいたみなさま、その他協力いただいた方に、改めて感謝の言葉を述べました。そして、若い人たちの行動で社会は変えられると信じており、若者の権利が大切にされる社会を作るために、HRNは今後も人権問題についての活動を続けていきたいと思いますと締めくくりました。

 

おわりに

 このページでは、2日間にわたる「世界子どもの日キャンペーン」の2日目の議論の内容をまとめました。1日目の報告はこちらよりご覧ください。

 

「世界子どもの日キャンペーン」2日目にご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

 

クーデタから1年。ミャンマー市民の人権を守りたい、HRNの活動まとめ

民主化が進んでいたミャンマーで、2021年2月1日に国軍がクーデターを起こしてから1年が経ちます。当時、国軍は1年間の「非常事態宣言」を発令。国軍が事実上の政府トップで党首のアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相、ウィン・ミン大統領を拘束し、国軍出身のミン・スエ副大統領を大統領代理として署名しました。立法・行政・司法の全権はミン・アウン・フライン国軍総司令官が掌握しました。

 

クーデタ以降、民主主義をもとめ抗議の声を上げる市民、活動家、ジャーナリストへの弾圧が続き、2022年1月現在、国軍による弾圧の死者数が1400人を超えました。都市部だけではなく、地方部でも国軍と民主派の衝突が見られ、民間人の虐殺が続いています。ミャンマー経済の収縮も続き、事態はより一層悪化しています。

 

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(以下、HRN)は、ミャンマーの自由と民主主義を取り戻すため、様々な活動を行ってきました。

 

今回は、前回記事で紹介した活動のアップデートという形で、2021年5月以降のHRNのミャンマーに関する活動をまとめます。私たちの活動報告を通してミャンマーの状況を知り、ミャンマーの人々のためにできることを一緒に考えていただければ幸いです。

 

 

 

 

声明の発表

【第47回国連人権理事会・声明】” Governments and International Companies Globally and in Japan Must Take Action to Address the Human Rights Situation in Myanmar”

 第47回国連人権理事会にて、世界、日本政府、国際企業に対してミャンマーにおける人権侵害の解決に向けてアクションを起こすよう求める声明を提出しました。

 

 声明の全文は以下からご覧いただけます。

hrn.or.jp

 

【共同要請書】日本政府はミャンマーに対する経済協力事業の全面的な見直しを

HRNが賛同した要請書が、2021年6月1日に日本政府に提出されました。

HRNは、6月1日までに同様の共同要請に2回賛同しており、今回が3回目となりました。日本政府からは明確な回答がなかったため、継続的な働きかけを続けていました。

 

要請書の全文は以下からご覧いただけます

hrn.or.jp

 

【参考:過去の共同要請書】

  •         日本の対ミャンマー公的資金における国軍ビジネスとの関連を早急に調査し、クーデターを起こした国軍の資金源を断つよう求めます (2021.3.4)

http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20210304.pdf

  •         ミャンマー国軍を利する日本政府の経済協力事業を直ちに停止するよう求めます (2021.4.1)

http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20210401.pdf

 

【共同声明】「日本:ミャンマーでの不動産開発事業を停止せよ 暴力的な軍との商取引は人権を損なう」

 2021年7月15日に、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、日本国際ボランティアセンター(JVC)、Justice For Myanmar 、メコン・ウォッチと共同で声明を発表しました。本声明では、日本の事業者及び諸関係機関はミャンマーの暴力的な国軍が関与する不動産事業(Yコンプレックス開発)から撤退するよう求めました。

 

声明の全文は以下からご覧いただけます。

hrn.or.jp

 

【共同声明】「米国の制裁に抵触する恐れがある投資家/日本企業に対する声明」

 2021年12月20日に、ヒューマンライツ・ナウ、日本国際ボランティアセンター(VC)、Justice For Myanmar、メコン・ウォッチと共同で声明を発表しました。本声明では、ミャンマー国軍が関与する不動産事業(Yコンプレックス開発)への投資が、米国の制裁に抵触する可能性があるとして、日本の投資家に対し再度撤退するよう求めました。

 

声明の全文は以下からご覧いただけます。

hrn.or.jp

報告書の英訳公開

報告書「ミャンマーの人権侵害と日本企業の関与と責任~ビジネスと人権に関する指導原則の観点から~」

 

現在でも行われている市民への暴力や、ロヒンギャをはじめとする少数民族の迫害など、ミャンマーにおける数々の重大な人権侵害は、ミャンマー国軍による行為です。報告書では、日本企業が関与するミャンマーでの人権侵害の事例や企業が果たすべき人権上の責任を明らかにしています。

 

HRNは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の観点から、日本政府及び日本企業に対して事業活動をするなかで人権尊重を促進すること、現在も起こっているミャンマーでの深刻な人権侵害に加担せずに人権尊重への責任を果たすことを求めています。

報告書は日本語での発表のみでしたが、2021年10月に英訳版が公開されました。

 

全文(日本語・英語)は以下からご覧いただけます。

hrn.or.jp

 

ウェビナーの開催

ウェビナー「ミャンマーのクーデタ発生から4ヶ月 ~日本政府や企業に求められる対応とは~」を開催しました。

 

詳細・録画は下記からご確認いただけます。

hrn.or.jp

 

ミャンマーで国軍によるクーデタが発生してから4か月が経った6月1日、ウェビナーを開催しました。これまでの日本政府の対応と問題点について検証し、その背景にある「利権」の問題を取り上げています。また、クーデタ後の対立構造や少数民族をとりまく問題など、悪化し続ける現地の人権状況について報告しました。

 

本ウェビナーは、 ヒューマン・ライツ・ウォッチ (HRW)、メコン・ウォッチ、日本国際ボランティアセンター (JVC)、Tansaと共催で行われました。

 

笠井哲平さん(HRW)が日本政府の対応の遅れに関して指摘し、HRN佐藤暁子事務局次長は日本企業に対し国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権デューディリジェンス(人権DD)の実施を要求しました。木口由香さん(メコンウォッチ)は、人権DDの欠如の結果、官製ファンドの事業が国軍の資金となっている問題を指摘しました。関連して、渡辺周さん(Tansa)は日本の財界、各省庁、政治家が間接的に国軍に加担し、利権を貪る構造について言及しています。最後に、村主道美さん(学習院大学教授)から、軍政から民主主義への移行途中のミャンマー国内、国際社会の複雑な対立構造が解説され、ゾウーミントゥさん(在日ビルマロヒンギャ協会会長)は、日本国民と政府に対し、ミャンマーの国民統合政府と難民への支援をお願いしました。

 

記者会見

7月15日(木)11:00~「ミャンマーヤンゴン中心部における複合都市開発事業 (Y-Complex)」に関する記者会見

 

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、日本国際ボランティアセンター(JVC)、Justice For Myanmar、ヒューマン・ライツ・ウォッチメコン・ウォッチと共同で、「ミャンマーヤンゴン中心部における複合都市開発事業 (Y-Complex)」に関する声明を発表し、2021年7月15日に記者会見を実施いたしました。

 

詳細はこちらから:

hrn.or.jp

 

 

最後に

 

これからも、HRNは、ミャンマーの人権状況が少しずつでも改善するように、ミャンマー国軍の行為を批判し、日本政府や日本の企業への働きかけを続けていきます。

活動については、随時SNSやホームページで更新していきますので、ご覧ください。まずは私たちの発信を通して情報を知り、周りの人にぜひシェアしてください。関心を持ち続けること、それを広げていくこと、まずはそこから一緒にやっていきませんか。

 

(文責:羽星有紗

【イベント報告】世界子どもの日キャンペーン1日目

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、世界子どもの日に合わせて、11月20より2日間にわたる「世界子どもの日キャンペーン」を開催いたしました。 

当イベントの1日目では、インドと日本を中心に活動をする「ボーンフリーアートJapan」の共同代表・阪口史保氏とボーンフリーアートスクール・サポーター長谷千秋氏をゲストとしてお招きしました。そして、「考えてみよう!インドの子どもと自分の人権」というテーマで高校生含む参加者のみなさんとディスカッションを行いました。

 

 

開会の言葉、大使館からのメッセージ

 

まず初めに、当団体の理事長、新倉修より開会の言葉がありました。新倉理事長は、まず、すべての人が生まれながらに持つ権利を確認しました。生まれながらに持つ権利には、国籍、名前を持つ権利や未来を切り開く権利が含まれます。

 

このような権利を踏まえ、当団体が活動を通じて達成しなければいけないことも強調されました。それは、一人ひとりの人間の尊厳を守る社会をつくること、加えて、個人の尊厳が守られず、苦しみを生み出す仕組みが社会にあるのなら、それを取り除くことだとおっしゃられました。

 

最後に、2日間にわたる「世界子どもの日キャンペーン」で取り扱うテーマの中で、1日目に議論する「インドの子どもたちの権利」に関して、新倉理事長が過去のエピソードを述べられました。

 

昔、世界の法律家が集う会議がインドのニューデリーで開催された際に、手足に障がいがある子どもたちが法律家に物乞いをしていたそうです。インド出身の法律家たちは、物乞いしている子どもの存在を気にかけていなかったようでした。日本国憲法には「個人の幸福を追求する権利」というものが存在する一方で、インドの憲法にはその様な権利に関する記述はなかったそうです。新倉理事長は、現在子どもたちの権利は守られているのか知りたいと述べられました。

 

子どもの人権

 

当イベントで取り上げる「子どもの権利」についての説明がありました。

 

子どもの権利とは子どもの権利条約に定められている項目のことを指します。

 

子どもの権利条約は、18歳未満を子どもと位置づけ、おとなと同じ様に子どもがひとりの人間として持っている権利を認めている世界共通の約束事です。2021年11月現在、世界の196の国と地域が締結しています。

 

この子どもの権利条約は、次のような2つの考え方を背景として作られています。

①:弱い立場に立たされ、差別を受けてきた子どもたちを解放しよう

②:子どもはおとなとでは必要なものが違うので、その差異に配慮をして特別な保護を与えよう



この条約が定める権利は、大きく4つに分けられます。

 

・生きる権利

・育つ権利

・守られる権利

・参加する権利

 

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また、特に配慮が必要な子どもとして、難民や少数民族の子ども、障がいのある子どもを定めており、幅広く子どもの権利について規定している条約になっています。

 

この子どもの権利条約は1989年11月20日に国連総会で採択されました。

なので、毎年11月20日には、子どもの権利と子どもの福祉の認知向上を目的として、世界中で子どもが主体となって参加するイベントが行われています。当団体が毎年開催するスピーチコンテストや世界子どもの日イベントもその一環として開催しています。

 

ボーンフリーアートJapan 活動紹介

南インドバンガロールから特定非営利活動法人ボーンフリーアートJapan

共同代表の阪口(さかぐち)さんがお話をくださいました。

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ボーンフリーアートJapanとは?

 

南インドバンガロールにて、働く子ども、ストリートチルドレン、債務奴隷の子どもたちをアートセラピーという方法で労働や路上から救出保護し、子どもたちの社会復帰と自立を支えてているNGOでありボーンフリーアートスクールの理念を伝える団体です。また、子どもたちの実際の児童労働の経験のシェア、また子どもたちによって作成されたアートの紹介を行っています。

ビジョン:子どもの権利が守られる公正で平和な世界を築くこと。

ミッション:世界のどこにおいても児童労働をなくし、子どもの教育の権利を守ること。

公正で平和な世界を実現するために、自らの考えを表現し、行動できる人となること。



なぜ児童労働があるのか?

 

児童労働がある理由を考えるために、阪口さんが実際にインドで子どもたちや家族からヒヤリングした原因を共有いただきました。



児童労働がある理由:

 

生活費を稼ぐために労働をしなければいけない

ちいさな兄弟、お年寄りなどの家族の世話をしなければならない

机に座って勉強をした経験がない

学校にいってもついていけない

制服や鉛筆、ノートのような学用品を買うお金がない

 

児童労働の子どもへの影響

 

上記のような理由をもって子どもは労働に従事しています。物乞い、道で物を売る行為も労働とみなされています。さらに、児童労働が子どもに与える影響についても共有いただきました。それは、将来に対する絶望感、おとなへの不信感です。

 

まず、労働によって、家族や他の子どもたちと楽しい時間をすごす機会が奪われてしまうことを阪口さんは挙げられました。また、児童労働の根本には貧困の問題があり、貧困に関連して、空腹をまぎらわすためにドラッグを繰り返したり、盗みをしてしまったりすることがあるとのことでした。

 

一方、アルコール依存症の親を持つ子どもが労働に従事している場合が多く、アルコール依存症の影響で、親による家庭内暴力や家庭内不和が多く見られるとのことです。最悪の家庭状況の場合、子どもが家族が抱える借金の返済のために、債務奴隷として働かされたり、売春をせざるをえない状況になります。このような経験をした子どもは、PTSDや鬱といった心の傷を抱えたり、自傷行為をしてしまったりすることもあります。このような状況にある子どもは、小さい頃から、将来に対する絶望感、おとなへの不信感を抱いてしまうとのことです。



ボーンフリーアート・スクールについて紹介

インドのNGO、ボーンフリーアート・スクールについて紹介いただきました。

 

ストリートチルドレンや路上で労働をしている子どもたちに音楽、演劇、ダンス、創作、映像などのアートを通じた教育を行い、一度、正規の教育を受ける機会を失ってしまった子どもたちに、正規の教育を受ける機会を再び提供。

2005年8月に設立し、設立当時の子どもたちは既におとなとなり、アーティストとして活動している人もいるそうです。

プロジェクトの事例

インドのボーンフリーアート・スクールとボーンフリーアートJapanが共同して行ったプロジェクトについても紹介いただきました。

 

東日本大震災後に、福島県に住んでいる被災者の子どもたちと、インドで児童労働に従事している子どもたちが共同で、ピカソゲルニカよりもすこし大きなサイズの絵を制作したそうです。

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アートや平和教育によるエンパワメント

アートという表現手段を身に着け、制作活動を通じて、子ども時代を取り戻すことができると阪口さんはおっしゃいました。また、制作活動を通じて、トラウマから自分を解放することができたり抑え込んだ感情を受け入れることができたり、最後には自分も大切な存在なんだという自尊心を持つことができると説明されました。

 

これらのエンパワメントを通じて、最終的に子どもたちが新しい夢を持つこと、自ら路上生活を抜け出して教育を受けようとすること、そして子どもたちの自立を目指しているそうです。

 

また、アートに加え、平和教育も活動の柱の一つだそうです。子どもたちは、活動の中で広島、長崎について学ぶ時もあります。平和教育の目的は、世界で起こっている自分以外の子どもたちの状況に目をむけることです。

 

活動を通じた子どもたちの心の変化

このように、アートや平和教育に加え、子どもたちに愛情を注ぐことで、子どもたちは学習意欲をもつようになり、次第に将来への希望をもつようになります。

 

ここで、阪口さんたちが活動をする際に、重要としている方針を共有くださいました。それは、

「世界中のすべての子どもたちが自由になって初めて、一人ひとりの子どもが自由になる」ということです。この意味は、一人の子どもが児童労働から解放されたとしても、全世界のすべての子どもたちが児童労働から解放されないと意味がないということです。この考えは、子どもの人権にも共通していると阪口さんはおっしゃられました。

 

 Education for all childrenの活動

次に、今年の7月から始められた、Education for all children という新しい活動を紹介してくださいました。「すべての子どもの学びたいにこたえる」ためにスラムの中に学校を建て、運営する活動だそうです。この学校の名前は、ライト・ブルズ・スクールといいます。

 

阪口さんが活動されているスラムはバンガロールという都市にあり、田舎の州から収入を求めて移住してくる人も多い地域。

 

子どもたちの多くは、学校に今まで一度も行ったことがありません。そのため、ライト・ブルズ・スクールでの具体的な活動は、生活指導、集団行動といった生活の基本的なことから、他の州から引っ越しをしてきた子ども向けに、バンガロールで使用されるカンナダ語の文字の読み書きを教えます。また、英語の読み書き、算数、歌やダンス、ヨガといった活動、スポーツなども教えています。

 

お話の途中で、ライト・ブルズ・スクール内部の様子やそこで学んでいる子どもたちの様子を映した、約6分間の映像をシェアしてくださいました。

 

映像の中では、スラムの様子が映し出され、学校がどのような場所にあるか示してくださいました。また、子どもたちが歌を歌って、英語やカンナダのアルファベットを暗記する様子、九九の練習などをしている様子が映し出されました。

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また生徒たちが、ライト・ブルズ・スクールに通う様になって変化したことを話してくださいました。ある生徒は、「学校に通うようになってから、物乞いは午前中にすませ、午後からは学校でいろいろなことを学ぶようになりました。算数や、曜日、月など、また他の人を敬うことを学び、自分が将来何をしたいかを考えるようになりました」と語りました。

 

そのほかにお祈りすることを覚え、他にも水を節約するようになり、動物や植物を大切にすることを学んだ子、地球環境をまもるようになったという子もいました。生徒たちの保護者の内、学校に行き、学びを得ることをあまり良くおもっていない人もいるそうですが、子どもたちは「教育をうけることが楽しい」と話していました。

 

最後に、阪口さんはインドの憲法を作ったアンベードカル博士の「教育と食べ物とは同じである」言葉を引用し、教育の大切さをお話しくださいました。教育とは、ただ読み書きの能力をつけることではなく、人生に必要なものだと坂口さんは強調されました。


ワークショップ

阪口さんからインドでの活動のお話を聞いた上で、イベントの参加者全員で、ワークショップに取り組みました。

子どもの権利を認識する

まず初めに、子どもの権利を認識する・見出すために、思いつく限りの「子どもの権利」を各自で書き出してもらい、その後全員でシェアしました。

 

映像や発表を聞いて自分が権利だと認識していなかったもの、日々の自分の生活の中で権利だと改めて認識したものは、下記のようにまとめられました。

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子どもの権利の重要性を認識する

次に、上記の権利が保障されず、侵害された状態で子ども時代を過ごした場合、子どもにどのような悪影響があるのかを考えました。参加者は議論を通じて、子どもの権利が保護されない原因を考察し、また、守られる重要性を理解しました。

 

具体的には、教育を受ける権利を侵害された場合、自立ができなくなる、良い職につけずに貧困に陥る、またその貧困が次の世代に連鎖してしまうなどの意見がでました。

 

守られる権利が侵害された場合、心身の発達に影響がでるのではないかという意見がでました。それに紐づき、他の人と信頼関係を構築することが難しくなったり、自分がおとなになったときに、子どもを守る義務を放棄してしまい、暴力が連鎖してしまったりするのではないかという意見もありました。

 

自分の意見を聞いてもらえる権利、自分を表現する権利が失われた場合、自己肯定感が下がります。この影響はおとなになっても続き、犯罪や自傷行為などの形で悪影響が継続するのではないかという意見もでました。

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アクションカードの作成

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ディスカッションを通じて、子どもには主体的に考える権利、自分自身を表現する権利があり、それらは夢を持つ権利にもつながることも確認しました。

 

子どもの権利のうちの1つである「夢を持つ権利」を踏まえ、個人の夢を表現、アウトプットするために、参加者全員でアクションカードを作成しました。そして、それぞれの夢をみんなにシェアしてもらいました。



アクションカードは、ボーンフリーアートさんのインスタグラムにも投稿していただきました。

 

https://www.instagram.com/p/CXL6HT3P0f7/

 

https://www.instagram.com/p/CXJlwQmPJhh/

 

このアクションを通じて、参加者のメンバーはそれぞれの夢を達成しようとする気持ちになりました。また夢をシェアすることで、周りの人びとを勇気づけられたと思います。

 

スピーチコンテスト入賞者によるスピーチの披露

 

ヒューマンライツ・ナウ主催の、第7回「世界子どもの日」映像スピーチコンテスト入賞者の作品が披露されました。こちらのリンクにて、イベント1日目に披露されましたスピーチはご視聴いただけます。



小池和さん「人格で判断される世界に」

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阪口くり果さん「明るい未来のために」

www.youtube.com

 

閉会の挨拶

 

最後に、当団体副理事の伊藤 和子より閉会の挨拶がありました。

 

まず、本日の有意義なディスカッションの元となる情報を提供してくださいましたボーンフリーアートJapanさん、また協賛してくださいました企業や大使館への謝辞を述べられました。

 

その後、リーダーシップを発揮する若い世代を応援したいと伊藤副理事は述べ、ジェンダーに基づいた差別、コロナ禍で悪化した格差の問題など社会全体の不正義に対し、子どもたちや若い世代が、おとなに負けじと社会を変えていって欲しいと強調しました。

 

最後に、当団体としても、若者が声をあげやすい社会を実現するために、スピーチコンテストをはじめとする活動を継続していきたいという決意を表明されました。



おわりに

このページでは、2日間にわたる「世界子どもの日キャンペーン」の1日目の議論の内容をまとめました。

「世界子どもの日キャンペーン」1日目にご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

(文責:羽星有紗





【イベント報告】9/16開催ウェビナー「メガスポーツイベントにおけるビジネスと人権」

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は9月16日(木) 17時より、ビジネスと人権ダイアローグ第2弾「メガスポーツイベントにおけるビジネスと人権」を開催致しました。

 

当イベントでは、国際人権NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏、ロイドレジスタージャパン株式会社代表取締役冨田秀実氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、ビジネスと人権の観点から、東京2020大会をはじめとするメガスポーツイベントに関わるサプライヤーの人権について問いました。

 

開会の挨拶•ビジネスと人権についての動画 

まず、HRNの小園が開会の挨拶を致しました。次に、ビジネスと人権とは何かについての解説動画を放映しました。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

 

yout.be

土井 香苗氏「メガスポーツイベント(MSE)と人権」

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続いて、ゲストスピーカーの土井香苗氏に「メガスポーツイベント(MSE)と人権」というテーマでお話いただきました。

人権の観点からみた東京2020大会の重要さ

昨今の状況、メガスポーツイベント(以下、MSE)も、ビジネスの一環として扱われているという前提を話されたのち、過去の五輪開催と、開催に際して問題となった数々の人権侵害の紹介をされました。

 

例えば、2008年北京五輪では、インターネットへのアクセス制限と検閲、建設業の出稼ぎ労働者への人権侵害、強制立ち退き、市民活動家の発言封じが問題になりました。同様に、2014年ソチ五輪では、出稼ぎ労働者の搾取・差別の助長、市民活動家への弾圧、報道の自由の侵害が問題になりました。

 

このような過去の事例から、主要な人権侵害は以下の5形態でが行われることがわかると解説されました。

 

1:適正な手続きや補償のない強制立ち退き

2:出稼ぎ労働者への人権侵害•搾取

3:市民活動家や独立団体の発言封殺•活動の場の閉鎖

4:メディアへの規制やジャーナリストに対する脅迫や投獄

5:制度的差別

 

続いて、MSEが人権侵害を引き起こす一方、人権状態の改善を促す力にもなることを強調されました。過去の事例としては以下の内容を紹介されました。

 

国際オリンピック委員会はスポーツ界から差別の撲滅を目指してきたことから、アパルトヘイト時代に白人のみの選手団を派遣してきた南アフリカ共和国の出場を禁止した事例、タリバン政権下で女性への差別を行っていたアフガニスタンの選手団の出場を禁止したという事例です。

 

また、上であげたような北京五輪ソチ五輪に関する人権侵害批判を受け、2017年1月に国際オリンピック委員会は、開催都市契約の改訂をおこなったと強調されました。

 

この改訂開催都市契約では、国際オリンピック委員会が初めて、国連「ビジネスと人権の指導原則」について言及しました。この改訂版は2024年のパリ五輪より適用されます。ゆえに、東京2020大会では国連「ビジネスと人権の指導原則」に則っての運営は任意だったのですが、東京2020大会は自ら「ビジネスと人権の指導原則」に則って運営すると宣言したことを伝えられました。

 

よって、東京2020大会は国連「ビジネスと人権の指導原則」に則った初めての五輪だったと言えます。この意味では東京2020大会は重要な大会であり、東京五輪は人権を促進する機会になったのか、どの程度「ビジネスと人権の指導原則」に則って運営できたのかを、大会が終了した今のタイミングで振り返るべきであると土井氏は強調されました。

東京2020大会の振り返り

次に、東京2020大会が人権の概念を促進する機会になったかを検証するため、土井氏は2つのムーブメントを紹介されました。いずれのムーブメントも、世間からの注目が高まる五輪という機会を利用しようと高まった動きだったと言えます。

 

1つ目は、「#EqualityActJapan 日本にもLGBT平等法を」キャンペーンです。このキャンペーンは成功したのではないかと解説されました。根拠として、LGBTQの人を保護する企業の量的な増加、また議会や党首討論の場に議題として上がったことを挙げられました。

 

しかし同時に、このケースは五輪の影響力の限界も示したといいます。というのも、このムーブメントからはLGBTQ差別禁止法が日本では実現ならなかったからです。

これに対して土井氏は、東京2020大会が契機となり盛り上がったムーブメントこそが、小さなステップだったと後に振り返った時に言えるようにするために、今が頑張るときだとおっしゃられました。

 

2つ目に紹介されたムーブメントは、「スポーツに関わる子供、大人に対する体罰反対のムーブメントです。特に、日本におけるスポーツに関わる暴力、体罰の問題は注目がされており、IOC(International Olympic Committee)バッハ会長とJOC(Japanese Olympic Commitee)の山下会長が電話会談でこの問題について話し合うほどにまで注目されていると付け加えられました。

 

この「スポーツに関わる子供、大人に対する体罰反対キャンペーンは、現在も継続して行われているキャンペーンです。具体的には、スポーツの中での体罰について専門的に相談が可能な独立専門機関の設立を提起していると述べられました。

 

2つのムーブメントを紹介されのち、東京2020大会は「ビジネスと人権の指導原則」に則って人権侵害の予防を目指す動きと並行して、人権の改善を目指すムーブメントの契機にもなったと締めくくられました。

 

冨田秀実氏「Tokyo 2020 持続可能な調達コード」

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続いて、ゲストスピーカーの冨田秀実氏「Tokyo 2020 持続可能な調達コード」

というテーマで、東京2020大会の準備段階における調達、サプライチェーンの裏側に関連する人権問題についてお話いただきました。

 

東京2020大会とサプライチェーン上の問題

まず初めに、五輪のようなMSEでは、サプライチェーン上の労働者の人権問題に対する注目が高まることを、過去の事例をあげて説明されました。例としては、1997年に起きたナイキ社の商品に対する不買運動、そしてその後の2000年のアテネ五輪での、スポーツ用品会社のサプライヤーの人権問題へ取り組みに関する市民社会からの気運を挙げられました。

 

1997年のナイキ社の商品に対する不買運動は、おしゃれなスポーツブランドの裏側、つまりサプライチェーン上にいる労働者の人権問題が初めて注目されたきっかけといえます。この不買運動は、ナイキ社の委託先の東南アジアの工場で、児童労働や劣悪な労働環境下での長時間労働がされている事実を、メディアが報道したことで引き起こされました。

 

この潮流の中、2000年アテネ五輪でも同様に、スポーツ用品の会社に対してサプライヤーの人権問題に取り組むよう市民社会は声を上げました。というのも、五輪のようなMSEでは、特にナイキ社のようなスポーツ用品の会社がスポンサーシップやマーケティングを通して儲ける動きになっており、世間から注目されるきっかけになるからです。

 

東京2020大会に関しても、メディアによる人権問題への指摘が実際にあったことに言及されました。具体的には、新国立競技場の工事現場で管理業務に当たっていた社員の過労自殺の件、また新国立競技場設立の際に、コンクリートの型枠の木材にマレーシアから輸入された熱帯雨林の木が使われていた件を挙げられました。熱帯雨林をもとに生活している原住民の人権侵害に関わるのではないかといった指摘があったとのことです。

 

次に冨田さんはサプライヤーの構造を紹介しつつ、ブランド企業自らが人権侵害をしていなくとも、サプライヤーが起こした人権侵害にブランド企業は一定の責任があることを説明されました。そして、MSEの開催者も企業と同様に、サプライヤー下部の人権問題に関して責任を引き受ける構造になっていると説明されました。

東京2020大会における具体的な施策と課題

東京2020大会においては、組織委員会が大会運営に際して調達するモノやサービスのサプライチェーンにおいて、持続可能性、かつ人権侵害がないことを担保するため、持続可能な調達ワーキンググループを設置していたことを紹介されました。また、土井氏、冨田氏ともに、ワーキンググループメンバーの一員だったことを付け加えられました。

次に、そのワーキンググループが設定していた「持続可能性に配慮した調達コード」がどのようなものであったのかを紹介されました。4つの上位概念となる原則は以下の通りです。

 

1)どのように供給されているのかを重視する

2)どこから採り、何を使って作られているのかを重視する

3)サプライチェーンへの働きかけを重視する

4)資源の有効活用を重視する

 

この原則を踏まえて、より具体的な調達コードが作られていました。この具体的な調達コードはサプライヤーに対し遵守を要求しています。共通事項の項目の例として以下を紹介されました。

 

人権に関係する項目ー 国際的人権基準の遵守、尊重、差別•ハラスメントの禁止、地域住民などの権利侵害禁止、女性•障がい者•子供•社会的少数者(マイノリティ)の権利尊重

 

労働に関係する項目ー 国際的労働基準の遵守•尊重、結社の自由、団体交渉権、強制労働、児童労働の禁止、雇用及び職業のおける差別の禁止、賃金、長時間労働の禁止、職場の安全•衛生、外国人労働者、移民労働者の権利

 

最後に、冨田さんはMSEの調達における課題を共有されました。一般企業における持続可能性に配慮した調達と比較して、MSEにおける調達ならではの難しさがあったそうです。課題は大きく以下の3点に分類されたとのことです。

 

1つ目:関係者が非常に多く、調達者が多岐に渡るため、全体をカバーすることが難しかった。

2つ目:多様な調達品目があり、どこに人権リスクが潜んでいるかを探るのが難しかった。

3つ目:一過性のイベントであったため、定常的な運用が不可能であった。また時間的な制約が多かったため、業務が集中し、在庫のコントロールが難しかった。

 

パネルディスカッション・Q&A 

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パネルディスカッション様子



イベントの後半には土井氏と冨田氏とHRNビジネスと人権プロジェクトスタッフの小園でパネルディスカッション・Q&Aを行いました。

 

まず、冨田氏がお話された調達コードについて、土井氏から不服の申立ての制度がほとんど機能しておらず、アクセシビリティが低かったのではないかという指摘がありました。調達コードの存在をさらにオープンにし、グリーバンスメカニズムがきちんと働くようにすることができていれば、東京2020大会が人権問題に取り組めた大会だったと言えたのではないかと指摘されました。

 

次に、人権問題への取り組みに関して、東京2020大会で目に見える形で達成できたものがなかった理由を議論しました。土井氏は、LGBT平等に関する法律や制度を作るといったような、具体的な達成事項がなかった理由として、日本政府の受け止める意思がなかったことを指摘されました。

 

一方で、ポジティブな意見として、日本社会の基準を国際基準に近づけると言う小さな変化を東京2020大会開催を通じて経験できたことを提起されました。例として、組織委員会の森会長の発言による辞任や、ミュージシャンの小山田圭吾さんの辞任を挙げられました。

 

また、冨田氏もポジティブな意見として、東京2020大会で作成された「持続可能な調達コード」を例にあげ、調達コードが形として作られたと言うだけでも、今の日本の現状からすると先進的な取り組みであり、シンボリックなものとして機能したのではないかと述べられました。

 

一方、冨田氏からネガティブな意見として、持続可能な調達コードに関して、理論的な枠組みは理解されていたかもしれないが、実践にまで落とし込めなかったことを指摘されました。例えば、ミュージシャンの小山田圭吾さん辞任に関して、彼の問題となった発言は、いわば業務委託先の労働者が起こした人権問題であるといえます。この意味で、この辞任は、理論的に正しいことをサプライヤーの細部まで実践に落とし込むことの難しさを示したとのことです。今後、東京2020大会の失敗を糧に、再発防止に取り組む必要があることを主張されました。

 

続いて、東京2020大会は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った初めての五輪でした。このことで、何かポジティブな動きがあったのかについて議論しました。

 

冨田氏は、一部の基準、特に農業や漁業に関わる基準が国内に広く認識されるきっかけになったのではないかと意見されました。

 

一方、土井氏はポジティブな面とは言い切れない課題として、日本の政府レベルでの人権に関する理解力の低さを危惧されました。この低さは国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った五輪の運営、準備段階で浮き彫りになったと指摘され、今後も努力をしていくべきだとしました。

 

最後に、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が改訂により、五輪開催都市契約そのものに組み込まれることについて議論しました。

 

土井氏は、人権の尊重が中核的な問題として業務に組み込まれることになるので、MSEにおける人権問題への取り組みに対して、大きな変化をもたらすのではと期待感を表されました。

 

閉会の挨拶

閉会の挨拶で佐藤暁事務局次長は、東京2020大会のメディア報道に関して、メダルの数ばかりが注目され、大会を作り上げている一人一人の人権に関する報道が少なかったことが残念だったと述べました。そんな中、NGOに期待されていることは、東京2020大会の人権への取り組みに関する反省を今のタイミングで行い、次のステップに向けてその反省を活用する動きをとることだと締め括りました。

 

おわりに

このイベントはビジネスと人権ダイアローグの第2弾となりました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

 

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続きビジネスと人権に関するダイアローグの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。

 

次回のダイアローグもご興味がありましたら、ぜひご参加ください。
そして、ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

(文責:羽星有紗

 

 

 

 

 

 

 

【インターネットと人権に関するアンケート調査】〆切延長

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昨今のインターネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用に伴う人権課題等を踏まえて、ヒューマンライツ・ナウではインターネット・SNS関連事業者6社に対して人権に関する方針と実施状況に関するアンケート調査を下記の日程で実施しています。

人権課題の解決が企業の持続可能性へとつながるように、本アンケート結果は今後の企業との対話を進めていく上で参考となると考えております。

 

調査概要:「インターネットと人権に関するアンケート調査」

調査期間:2021年6月末〜

結果公表時期:2021年中(予定)

調査対象:日本のインターネット・SNS関連事業者 下記6社

アマゾンジャパン合同会社

Facebook Japan株式会社

グーグル合同会社

LINE株式会社(回答済)

Twitter Japan株式会社

ヤフー株式会社(回答済)

調査方法:各企業へアンケート協力の架電を行い,8月末を回答期限として代表又は担当者にアンケート用紙を送付。

調査項目:サービスに関する人権方針,人権デュー・ディリジェンス,人権侵害への対応,救済手続,ステークホルダーエンゲージメント,第三者との協力等。

◆調査に使用したアンケートはこちらよりご覧いただけます。

<HRN>インターネットと人権に関するアンケート調査

 

より多くの企業様にご協力いただくため、期限を延期しております。

企業の皆様と協力し、ビジネスにおける人権課題への取り組みを促進していきたいと考えております

まだご回答いただいていない企業様もぜひごアンケート調査へのご協力をお願いいたします。

 

HRNインターンに聞く④「人権問題への興味をただの興味で終わらせない!~どのように行動に移し、人権問題にアプローチしているのか~」

 

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ヒューマンライツ・ナウ(以下、HRN)でインターンをしている学生同士のインタビュー企画【「HRNインターンに聞く」シリーズ】。第4回目は、HRNの女性の権利プロジェクトで活動されている、松下真菜さんにインタビューしました。

今回は、松下さんがなぜ人権問題に興味を持ち、HRNのインターンを始めたのか、また活動への思いを語ってもらいました!

 

インタビュイー:女性の権利プロジェクトインターン 松下真菜

インタビュアー:ビジネスと人権プロジェクトインターン 石田琴音

 

 

人権問題に興味を持った理由

松下さんがHRNでインターンを始めた理由の一つは、もともと人権問題に興味があったからだそうです。何をきっかけに興味を持ち始めたのでしょうか?

 

松下さんの祖父母は戦争体験者ということもあり、第二次世界大戦についてや、戦時下の性暴力にが関心があったといいます。

 

大学1年時の2019年の夏には、ドイツへ赴き、3週間の環境保護の国際ボランティアに参加。その時に、ドイツの隣ポーランドにある、ナチス・ドイツユダヤ人を強制的に収容していたアウシュビッツ収容所に足を運んだそうです。

そこで、現代においての「人権」の起源のようなものに触れることができたそうです。

 

また、国際法のゼミで人権に関する模擬裁判の大会に参加したり、

大学の講義で人権問題について学んだりする中で、ますます人権問題に興味を持っていったといいます。

 

HRNでインターンを始めた理由と活動

 

そこで、松下さんは

”人権を学ぶだけではなく、認識をもって行動に移したい”

と思い、アドボカシー活動を行っている団体を探して、HRNに応募したそうです。

 

実は、インタビューの時、松下さんはHRNでインターンを始めて約2カ月。しかし、その2カ月で、松下さんはすでにたくさんの活動をされています!

  • ウェビナー「スポーツと機会の平等~タイトル9の理念をどう反映させるのか~」のイベント報告書作成。

【イベント報告】4/2開催「スポーツと機会の平等~タイトル9の理念をどう反映させるのか~」 | ヒューマンライツ・ナウ

 

  • 「性犯罪に関する刑事法検討会」のとりまとめ報告書案作成と記者レクイベントレポートの執筆。

*イベントレポート*4 月28日開催 記者レク「性犯罪に関する刑事法検討会」 取りまとめ報告書(案)を読む〜刑法改正はこれからどこへ向かうのか〜 - HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

 

  •  性的同意年齢と刑法改正についての投稿。

 

 

なぜ性的同意年齢の投稿を作ったのか。

 

女性の権利プロジェクトインターンの松下さん。どうして、このトピックを取り扱ったのでしょうか。また、どのような思いが込められているのでしょうか。

 

大学2年生のころまで、刑法改正についてあまり知らなかったそうですが、大学の講義で性的同意に関する問題にについて学び、先進国である日本でも隠れた人権侵害が多くあることを知ったそうです。

 

刑法改正についての様々な議論がある中でも、性的同意年齢に焦点を当てた理由は、”私たちにとても近い問題であるから”だそうです。

 

松下さんは、性的同意年齢が13歳という点について、

 

”自分が13歳だった時のことを考えると、自分は意見ははっきり言える方だけど、大人から言われたときにNOと言い、抵抗できるかと考えたときに怖く感じた。”

 

性教育をも十分に受けていない13歳であっても、意思表示をはっきりしなければならないのは難しいことと思う。学校の先生等に強制的に迫られてしまった場合でも、子ども側に抵抗したか、脅迫されたのかの説明責任が課される。そこが一番の問題点。”

 

こちらの投稿を見て、刑法改正の重要性や性的同意年齢の問題点について知った方、理解を深めた方も多いのではないでしょうか。松下さんの思いは、投稿を通してたくさんの人に伝わっていることでしょう!

 

 

日本の人権問題について

 

松下さんは、日本の人権問題について

 

 ”「日本は先進国だから」 、「日本は平和な国だから」ということで人権問題への対処はできていると思っている人も多くいると思うが、それは間違った認識であって、身近なところに問題は隠れているということを知ってほしい”

 

入管法など、日本には人権に関してグローバルスタンダードに到達していない法律や制度が多々見受けられます。他国で保護されている権利が日本で無視されている、という状況が決してあってはならない。”

 

と語りました。だからこそ、松下さんは日本の人権問題にフォーカスして、この現状を広めていきたいそうです。

 

松下さんが次のSNS投稿に取り上げる予定のトピックは「経口中絶薬」です。

”中絶を選ぶ過程には、望まない妊娠をしてしまったり、性犯罪の被害にあわれた方もいらっしゃいます。女性には中絶という選択をとる権利があるということを伝えたい。”

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ぜひ、インスタグラムで性的同意年齢の投稿をチェックしてみてくださいね!

 

(文=石田琴音)

 

【イベント報告】7/24開催ウェビナー「The Story of Plastic から考える環境問題と人権問題」

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ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は国際環境NGOグリーンピース・ジャパンと共催で、2021年7月24日、オンラインウェビナー「The Story of Plastic から考える環境問題と人権問題」を開催しました。

リサイクル率も9パーセントと低く、ほとんどがごみとして処理されているプラスチックは、あらゆる「環境問題」を引き起こすだけでなく、その問題から、私たちの生きる権利・健康への権利・安全な水への権利・食料への権利に直接関わってくる「人権問題」も引き起こしています。

本ウェビナーでは、ドキュメンタリー「The Story of Plastic」を題材に、プラスチック問題を環境問題や人権問題として正しく認識し、問題解決につながる行動を促進するために求められることについて、NGO団体・企業・学生団体で議論を深めるました。

開会の言葉・ドキュメンタリー「The Story of Plastic」の概要

本ウェビナーの司会を務めた、グリーンピース・ジャパンの儀同千弥氏よりドキュメンタリーの概要の説明がありました。

【ドキュメンタリー「The Story of Plastic」】

化石燃料の抽出とプラスチックの生産は、多くの汚染を拭き起こし、近隣の阻害されたコミュニティーの健康的な環境への権利を侵害しています。しかしながら、化石燃料事業は、過度なプラスチックの量に対応出来ない国などにも市場を拡大し、成長を続けています。映画では、石油・ガス業界が巧みに情報操作による世界的なプラスチック汚染危機に至ったタイムラインを、この問題の最前線で活躍する専門家や活動家へのインタビューを交えて解説しています。

Zero Waste Maldivesからのメッセージ

Zero Waste Maldivesという、モルディブで環境問題に取り組む団体より、モルディブのプラスチックごみによる環境や人々への影響や、団体の活動の説明、また、持続可能な社会の実現へ向けた重要なメッセージをいただきました。

HRN公式HPにて公開しましたので、併せてご覧ください。

hrn.or.jp

各団体・登壇者のプレゼンテーション

四国一小さな上勝町から広がるゼロ・ウェイスト

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上勝町ゼロ・ウェイストセンターを運営するBIG EYE COMPANYのChief
Environmental Officer・CEOである大塚桃奈氏より上勝町でのゼロ・ウェイストの取り組みの紹介をしていただきました。

上勝町ゼロ・ウェイストセンターとは

上勝町ゼロ・ウェイストセンターは、ゼロ・ウェイストを促進する半官半民の複合型公共施設として徳島県上勝町で2020年にオープンしたそうです。この施設には、役場によって運営されている、町の住民が利用するごみ収集場や、大塚氏が経営するBIG EYE COMPANYによって運営されている、ゼロ・ウェイストに取り組む店舗やゼロ・ウェイストの体験を提供する宿泊施設などがあると言います。

上勝町ゼロ・ウェイストタウンになるまで

かつてはごみだらけであり、1970年代後半から1997年までごみの分別のルールもなく、大きな穴を掘り野焼きで処理をしていたという上勝町の過去について説明がありました。しかし、環境保全のために、ごみとの向き合い方を変え、ごみを分別して燃やさずに資源にし、ごみの処理で発生するコストを減らすための取り組みを行うようになったと大塚氏は言います。そして、2003年に日本の自治体初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくすための最大の努力をしてきた、とのことです。

上勝町のゼロ・ウェイストの取り組み

上勝町では、分別をするとき「燃える、燃えない」ではなく「再生できる、再生できない」という考えで行っていると大塚氏は最初に述べました。そして、上勝町のゼロウェイストの特徴には、住民が持ちこんだごみをゴミステーションと呼ばれるごみ収集場で回収していることや、くるくるショップという店舗では、使い捨てない容器の貸し出しや量り売りなど、ゼロ・ウェイストのビジネスのあり方を実現させていることが挙げられました。


特に、プラスチックの分別に関しては、5種類に分けて分別を行っており、町民にはプラスチックの容器包装を洗って乾かして持ってきてもらっているというお話しがありました。洗って乾かすだけで、100分の1のコストでリサイクルできると説明をするなど、住民の協力を促すために、ごみの処理コストとごみの行き先を可視化する情報を発信していると大塚氏は言います。また、そもそもゴミを出さないために、住民へのインセンティブとして、自分の容器を使って量り売りで買い物をすると「ちりつもポイント」を付与し、地域で使える商品券などと交換できる仕組みを作り出したと言います。

以上の取り組みで、上勝町ではごみを資源に変え、80%以上のリサイクル率達成したと述べました。

上勝町のこれからの課題

そんな上勝町では、ゼロ・ウェイストの取り組みを引き続き行うのに、二つの課題があると大塚氏は言います。一つには、上勝町の住民の53%が高齢者であり、これまでできたことでも歳をとると分別にやりにくさを感じるなど、高齢者にとって分別が負担になっていることです。もう一つには、これまでゼロ・ウェイストの取り組みを行ってきたものの、複合的プラスチックはリサイクルができないなど、未だ20%のごみはリサイクルできずに残っていることです。こういった課題の解決のために、これから上勝町は、物をつくる側が住民に負担なく、ものを循環させるといった、循環型のビジネスやコミュニティーのあり方を目指し、企業、自治体、研究機関と協力して取り組んでいきたいと大塚氏は述べました。

SDGsとダイバーシティに取り組む学生団体TIPS

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学生団体TIPS 統括代表の三浦央稀氏より、学生団体が行う環境や人権への取り組みについてお話しいただきました。

設立のきっかけと主な活動

設立当時に、日本でSDGsについての取り組みがなかなか見られなかったことや、多様性に対する意識が低かったことに気づき、学生として取り組めることはないかと思いTIPSを立ち上げたと三浦氏は言います。そこで、SDGsやダイバーシティの促進を行う上で、「SDGsダイバーシティ×学生の成長」を活動テーマに掲げ、環境問題や人権問題の解決にもつながる様々な活動を行ってきたと話します。

また、団体独自の活動だけでなく、企業や団体と連携して、オンラインイベントやSDGsに関する情報発信を行うなどの取り組みを行ったり、インドネシアでプラスチック問題に関する教育活動の実施など、日本国内外での取り組みも行ったりしているとのことです。

今後の目標

学生団体として、一人一人ができる小さなアクションを提案していき、SDGSダイバーシティを軸に環境や人権が配慮された経済が回る社会になるように努めたいと述べました。

組成調査からみるプラスチック問題

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NPO法人木野環境の上田祐未氏より、プラスチックごみのリサイクル状況についての解説をしていただきました。

ごみの組成調査

NPO法人木野環境の活動の一つに、実際に出る家庭ごみを並べて、ごみの量や種類などを調査するという、ごみの組成調査があります。

その中で、インドネシアの所得の多い家庭と低い家庭の家庭ごみの比較を行った際に、所得の低い方が、小さいプラスチックごみが多いことが明らかになったと上田氏は言います。一日の出費を抑えるために、個別包装された製品を使うことが多いことから、結果的に割高であり、ごみも出やすいとお話しされました。

また、インドネシアでのプラスチックごみのリサイクルの状況は、白いプラスチックやペットボトルが売られており、日本よりも高値で取引がされているとのことです。その理由として、原料であるナフサの需要が供給を上回っていることを挙げられました。
一方で、ケニアウガンダでは、プラスチックごみを買ってくれる企業がいないので、誰も回収せずにリサイクルも行わないと言います。よって、地域でのナフサの需要とリサイクル企業の有無で、プラスチックごみがリサイクルされるかどうかが決まるということです。

日本の家庭プラスチックごみの行方

日本には、容器包装リサイクル法により、容器包装(プラマークがついているもの)を、自治体で回収し、リサイクル業者が買い取って、リサイクルしているという仕組みが促進されていると上田氏は話します。それ以外のプラスチックごみは、リサイクル法の対象ではないことから、リサイクルされていないこともあると言います。

また、日本は自治体によって、プラスチックごみの処理方法が異なり、容器包装以外もリサイクルしているところもあれば、焼却カロリーを増やすために容器包装も燃やしているところもあり、さらには埋め立てているところもあるそうです。

プラスチックごみのリサイクル方法

プラスチックごみの全部がリサイクルできるわけではなく、プラスチックの性質や色によってリサイクルのされ方は異なると言います。複合的に生産されたプラスチックは別の製品にリサイクルすると質が落ちることがあり、使い道が限られることもあると現在のプラスチックごみのリサイクル方法についての問題点も挙げられました。

プラスチックとの新しい向き合い方

最近では、社会でプラスチックごみを減らしたり、企業で使用量を減らしたりするためのアプローチとして、海ごみ問題や地球温暖化が重視されていると上田氏は述べます。そして、バイオマスプラスチックや生分解プラスチックなどの新しいプラスチックが出てきており、それぞれメリットやデメリットがあるが、用途を考えて企業は導入するべきと示しました。

これから、プラスチックの原料であるナフサが手に入りにくくなり、プラスチックが使えないときがでてくるかもしれないということも考え、私たちの生活に必要なプラスチックは植物からつくるのかどうかなど、プラスチックの今後についても考えていきたいと上田氏は話していました。

『量り売り』から拡がる未来のための今の暮らし

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株式会社斗々屋 広報担当、サステナビリティコンサルタント、のーぷら No Plastic Japan 代表を務める、ノイハウス萌菜氏より株式会社斗々屋がどのように環境問題や人権問題に取り組んでいるのかについてお話をいただきました。

株式会社斗々屋の量り売りショップができるまで

プラスチックごみについての問題が報道されているにも関わらず、プラスチックフリーや包装なしの商品の選択肢が増えていないということを問題視していた株式会社斗々屋。もともと卸売事業としてオーガニック食材などの輸入を行ってきたが、2019年9月に小売業を始め、量り売りショップができたとノイハウス氏は話します。

その当時は、ゼロウェイストという言葉がなかなか浸透していなかったが、モデルショップとしてオープンして様々な取り組みを行っていると言います。そして現在は、店を移転し、商品の数や営業日を増やし、どのようにごみを出さずに営業していくかを常に考え運営しているということです。そして、新たにオープンするスーパーマーケット規模のお店では、ゼロウェイストの納品と販売が可能であることを見せて、ビジネスモデルとしての可能性を示していきたいとノイハウス氏は言います。

環境問題や人権問題の解決には連携が必要

株式会社斗々屋だけが徐々に量り売りの店を増やしていっても、なかなか人々のライフスタイルにゼロ・ウェイストの考えが浸透していかないと指摘します。そこで、株式会社斗々屋では、量り売りの店を開きたいと考えているお店に、ビジネスプランの書き方から開業のサポート、広報のノウハウなどを、オンライン講座や店内研修などを通して伝える取り組みを行っていると言います。量り売りの店のネットワークづくりやノウハウシェアは、ゼロ・ウェイストの考えを広める上で欠かせないとノイハウス氏は話しました。

株式会社斗々屋が扱う商品とは

株式会社斗々屋では、ゼロ・ウェイスト、オーガニック、フェアトレードの商品を取り扱っていると言います。ノイハウス氏は、これら3つのキーワードは環境と人権の両方に配慮していると説明しました。特に、人権に関しては、フェアトレードは、公正な取引ということで、人々に優しいのは明らかですが、ゼロ・ウェイストはごみを収集する地域に住む人々への健康被害を防ぐことができたり、オーガニックは農薬を使わないために消費者と生産者どちらにとっても負担がかからないことができたりすると述べました。

株式会社斗々屋のこれから

株式会社斗々屋は、製品を買う側のみゼロ・ウェイストを意識するのではなく、製品を作る側も考える必要があると言います。そこで、地元の生産者とのゼロ・ウェイストを達成するための開発や、ゼロ・ウェイストでの納品方法を伝えるなど、生産者とも協力してごみを減らす取り組みを行いたいと話しました。ゴミを減らしていくことは、商品を作る方、売る方、買う方全員にとって、ウィンウィンであるということをノイハウス氏は最後に伝えました。

リサイクルから考えるプラスチック問題

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国際環境NGOグリーンピース・ジャパンのプラスチック問題担当である、大舘弘昌氏よりプラスチックごみのリサイクルの問題点について解説をしていただきました。

リサイクルシステムが抱える課題

世界でわずか9パーセントのプラスチックごみがリサイクルされておらず、その中でも、質や機能を落とさない効果的なリサイクルは2パーセントしか行われていないことを示しました。ペットボトルからペットボトルに生まれ変わって使われるような取り組みは日本では進んでいるほうだが、それでもそのリサイクル方法は日本で十数パーセントしか利用されていないと大舘氏は言います。また、プラスチックのリサイクルと言っても、一度だけでなく、循環させて何度も繰り返すのは困難であることから、リサイクルはプラスチックごみ問題の解決策にならず、対策の一部にしかならないと主張しました。

日本のリサイクル率に関する事実

日本のプラスチックのリサイクル率のうち、約60パーセントがサーマルリサイクルという、温水プールの熱として利用する方法が利用されており、国際的にはリサイクルとカウントされない方法であることを明らかにしました。また、マテリアルリサイクルという、別の製品に生まれ変わる方法は23パーセントを占めるが、そのうちの約4割が東南アジアに輸出され、日本はトップ3のプラスチック輸出大国であると述べました。国内のみでそのリサイクル方法の利用を見ると、全体のうち13パーセントのみであると言います。

日本のプラスチックごみが海外に与える影響

日本から海外に輸出されたプラスチックごみの中には、そもそもリサイクルできないものや、汚れたものが入っていることもあり、結局そういったものを処分するために野焼きや不十分な焼却、埋め立てが地域で行われていると言います。グリーンピースは、現地調査を行い、リサイクルできないプラスチックごみの処分によって、住民への健康被害、環境汚染といった問題に直面していると明らかにしました。近年、有害廃棄物の取引を規制するバーゼル条約が締結され、日本でも減ってきているが、未だに国際貿易では、違法で輸出が行われていると言います。国内でもこれからプラスチックはたまっていき、焼却していくしかないので、まずはプラスチックごみの量を減らし、脱却することが必要だと訴えました。

プラスチックごみを減らすために企業・消費者ができること

大舘氏は、企業と消費者である市民それぞれに問題解決のためにできることを提案しました。まず、企業ができることは、ビジネスモデルを変革し、リユースベースを用いることだと言います。また、企業に任せるだけでなく、市民ができることとして、今の状況の変化のために声を上げるのが大切だと話しました。

環境×人権 プラスチック問題における人権侵害

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HRNのビジネスと人権プロジェクトインターンである塚本氏より、プラスチックごみが引き起こす人権問題について解説をしていただきました。

プラスチック問題と人権

プラスチック問題が引き起こしている環境問題は、人権問題にも繋がっていることを明らかにし、具体的な人権侵害について説明がありました。そして、問題の解決は、環境に関する国際的な人権の枠組みやSDGsの各ゴールとの繋がりがあると塚本氏は言います。

企業や政府が行うべきアプローチ

塚本氏は、国際人権規範をもとに開発のプロセスを行うといった、人権ベースのアプローチが企業や政府に必要だと訴えます。具体的には、マイノリティがより被害を受けやすいなど、環境被害の不平等性を明るみに出すこと、環境汚染などの被害を受けやすい人々の声が聞かれる場をつくること、被害者も参加して、問題の解決策について企業や政府と議論を行うことを挙げました。このアプローチを行うと、環境問題が引き起こす人権侵害の解決に近づけられるといいます。

環境問題が関連する人権侵害の例

プラスチック問題の被害を受けているのは、先進国の人々よりも途上国の人々であることや、富裕層よりも貧困層であることを明らかにしました。ごみの処理を押し付けられる地域では、特定のマイノリティへの影響があると言います。具体的な事例を見ていくと、ドキュメンタリーの中で挙がっていたように、インドの女性への影響があったり、ドキュメンタリーでは取り上げられなかった、南スーダンの先住民への影響もあったりするとのことです。

そして最後に、環境を守ることは、人を守ることであるように、プラスチック問題を人権問題としても捉えることの重要性について訴えました。

パネルディスカッション・Q&A

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パネルディスカッションでは、HRNの小園杏珠氏がモデレーターを務め、それぞれの登壇者の視点から、プラスチック問題の解決のためにできることについて議論を深めました。

各登壇者のプレゼンを聞いて思ったこと

大塚氏は、ごみ問題の解決のためには、ごみを集めるだけでなく、ごみを集める場面で人が集まり話し合うのが良いのではないかと提案されました。また、上勝町では、外部から調達したものを買うなど、外部からの製品に頼った生活になっていることを挙げ、外部からのものを地域内で循環させる方法を考えていきたいと話しました。

次に、学生団体TIPSのメンバーである、山本亜美氏は、ドキュメンタリーの感想を述べました。学生などの経済的に余裕がない消費者が、環境保全の問題を意識せずに、価格や労力を第一に商品を購入しているのが現状であることから、商品の生産者サイドのプラスチックごみを増やさないための変化は不可欠であり、生産者サイドに買う側の選択肢を増やすことを訴えました

そして、NPO法人木野環境の丸谷一耕氏は、ドキュメンタリーは海ごみの問題を中心にプラスチックの問題を取り扱っているが、実際の大手企業はプラスチック戦略について考えているものの、海洋汚染の問題は深刻に捉えていないことを明らかにしました。企業は、現在のプラスチックに使われている原料のナフサが使えなくなった場合にどうプラスチック原料を調達するかということに焦点を当てて、真剣に脱プラを考えていると言います。しかし、海ごみについては、日本ではあまり被害を受けていないという考えや、消費者の問題であるという認識が企業にはあると述べました。海ごみの問題から、プラスチック問題について注目されつつあるが、セクターごとにどうプラスチックと向き合っていくかを細かく議論し、目的と行動計画などの明確なロードマップの作成を企業に求めました。

また、ノイハウス氏は、プラスチック問題は、自分以外の多くの人々が影響を受けていることの理解を踏まえた上で削減に取り組むべきと言います。中でも、ゼロウェイストの取り組みをビジネスとしての成功のために利用するのではなく、連携や情報共有を行い、ごみを出さない社会構造の構築に努めることを生産者に呼びかけました

プラスチックごみを増やさないために個人ができること

大塚氏は、自分たちが日常に出すごみの量や、ごみの行方を知ることが大切と話します。また、上勝町の取り組みのように、ごみの処理によって発生するコストや、処理されている場所をごみの種類ごとに把握し、可視化することが大切ではないかと問いかけました。

そして、儀同氏はグリーンピースが公開した、量り売りのお店を可視化して使いやすくするためのマップツールの活用も個人ができることだと言います。それだけでなく、消費者が社会に声を届けていくことの重要性について話し、政策提言や企業にアプローチしている団体の支援や署名活動に参加することを提案しました。

また、消費者が社会に声を届ける手段として、意見がある場合、直接企業に問い合わせたり、意見ボックスを利用したりすることをノイハウス氏は挙げました。その際に、企業への改善して欲しい点だけを伝えるのではなく、商品を選んだ理由などの良かった点も伝えていくことが大切だと言います。そうすることで、企業は、消費者の声を反映するようになり、よりサステナブルな社会になると期待を込めて述べました。

さらに、塚本氏は、企業にプラスチック戦略の目的を明確化することが求められている中で、様々な消費者の関心に沿った目的を設定することが必要ではないかと言います。消費者は、便利さを求めたり、環境への配慮を求めたりするなど様々な意見があるため、コミュニケーションを通してそれぞれの消費者の期待に応えるよう企業に求めました

海外地域で起こるごみ問題の解決のためにできること

日本などからプラスチックごみが輸出されて処理が行われている東南アジアでは、地域の人々が深刻な環境問題や人権侵害に直面していることから、日本が取り組むべきことについて議論が行われました。まず、山本氏は、海外で処理されるごみの実態について幼いころから学校で学ぶべきだと言います。環境教育のように、分別の仕組みやなぜ分別が必要かを子どもたちに教えることで、永続的に効果を発揮するのではないかと示し、教育への投資を求めました。

次に、丸谷氏は、世界的なモノづくりのためのルール作りが必要と言います。少ないCO2排出量で生産されたプラスチックでも、リサイクルができないという特徴があるにも関わらず、きちんと理解せずにそのプラスチックをエコだと認識している企業が多くあると言います。そこで、どのような目的を達成したいのかを設定して、目的別に企業の取り組みを決めていくことが大切だと話しました。また、プラスチックごみの問題は、一企業だけでも日本だけでも解決できない問題なので、グローバルにルールを決めることを提案しました。そのために、日本の中で大きな枠組みをどうやってつくっていくかを考える必要があると丸谷氏は言います。しかし、日本政府はプラスチック戦略について全く考えておらず、プラスチック戦略について考えている政治家や政党もいないので、個人が選挙に行くことから始め、政治家のレベルを育てるのも考えていく必要があることを訴えました。

プラスチックごみを減らす上ででてくる問題点

プラスチックごみを減らす取り組みの中で、別の問題がでてきているのか、またその問題をどのように解決をしているかについて議論がなされました。

まず、ノイハウスは、量り売りは初期投資が必要だと言います。例えば、量り売りの入れ物、重機の開発や仕入れなどを行わないといけなかったことが挙がりました。しかし、量り売りのようにごみを減らす取り組みを行う店や消費者にとっては、良い面のほうが見られると言います。例えば、生産者側の視点では、包装のための素材を買わなくてもよかったり、包装をしないためにごみの処理に負担がかからなくなったりすると述べました。また、消費者もごみの量が減ることにより、時間や手間が減ると示しました。

また、大塚氏は過去の上勝町の失敗例を挙げました。上勝町では、過去に住民の高齢化により量り売りの店の需要が少なく成り立たなかったと言います。アクセスのしやすさや、地域の特徴を考慮して、地域に合わせた取り組みを行えば、問題は出てこないのではないかと述べました。一方で、地域同士でのパートナーシップが量り売りの広まりには不可欠なため、地域同士が取り組むようにするために、住民が選挙に行くのも大事なのではないかと提案しました。

全国の行政や企業から取り組みが広まるためには

丸谷氏は、行政でリサイクルの取り組みを取り入れるのは、かなり難しいと言います。NPO法人木野環境が、市町村でのごみの分別について話し合うことがあるが、市町村はごみの分別をふやすことを一番避けたいものと考えていると明らかにしました。市町村にとっては、住民説明会を何百回とすることが大変なので、職員のなかでなかなかその話が通らないそうです。そこで、選挙権を持った有権者から盛り上げ、市民の方から働きかけることも重要だと述べました。

三浦氏は、企業内で取り組みが広まるためには、様々な切り口からなんとなく問題に気付いてくれる人を増やすことが大切だと述べました。一方で、学生の頃は環境問題などに関心があっても、そういった関心と仕事が結びつけられないために、社内での取り組みがなかなか出来ないという問題点があると三浦氏は話します。そこで、関心のある学生が社会人になっても、社内でも活動できるような場が必要であり、TIPSは、架け橋をつなげていきたいと示しました。

閉会挨拶

本イベントの企画から関わってきた塚本氏は、環境問題や人権問題を二つの別々の問題として捉えるのではなく、根本的には人が関係しているということに気づいた上でどちらも取り組む必要があることをイベント開催にあたり伝えたかったと言います。パネルディスカッションで挙がったように、プラスチックごみを減らすための具体的な枠組みの構築、地域での分別の拡大、個人の問題意識の向上が、プラスチックごみが引き起こしている問題解決のためには不可欠であると訴えました。また、プラスチックごみによる人々への影響に焦点を当てることの重要性も述べました。本ウェビナーのような議論の場を設けることで人々の問題意識を持つようになればと最後に挨拶を締めました。

おわりに

私たちHRNは、引き続き環境問題やそれに関わる人権問題についてのイベントの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。

ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

また、環境問題に関連する人権問題やプラスチック問題についてのSNS投稿を通して情報発信をしています。是非こちらもご覧ください!