HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、人権に関する学べるコラムやイベントレポートを更新します!

*イベントレポート*4 月28日開催 記者レク「性犯罪に関する刑事法検討会」 取りまとめ報告書(案)を読む〜刑法改正はこれからどこへ向かうのか〜

 

f:id:humanrightsnow:20210602135136p:plain

 

4月28日、ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は記者レク【「性犯罪に関する刑事法検討会」 取りまとめ報告書(案)を読む〜刑法改正はこれからどこへ向かうのか〜】を開催しました。

法務省に「性犯罪に関する刑事法検討会」 が設置されてから約一年が経過した現在、検討会の議論は取りまとめに入り、 取りまとめ報告書(案)が公表されました。

本イベントでは、HRNのメンバーが検討会における議論や残された課題について解説・議論をしました。

検討会で示された論点の検討

はじめにHRNメンバーの寺町東子弁護士より、刑事実体法と刑事手続法に関する論点の説明がありました。

取りまとめ報告書(案)では、まず総論的な事項として現行法がどのように運用されているか、性犯罪が適切に処罰されているかの二つが挙げられています。これついて寺町弁護士は、表に出ていない被害があることや、強い恐怖に直面した際の生物的な反応や虐待被害者の精神医学的な反応を理解した上で、性犯罪の規定のあり方について議論がなされるべきとの認識が確認された、と説明しました。

これを踏まえ、「性犯罪の処罰規定の本質は被害者が同意していないにも関わらず性的行為を行うことにある、との結論に異論ははなかった」というのが検討会での共通の認識となった一方で、性的同意の解釈については意見が分かれたといいます。これについて寺町弁護士は、国民の間でどのような共通認識ができていくのかが重要であることに関しては争いがない、と述べました。

 

次に、報告書で明示されているより具体的な論点について、寺町弁護士より説明がありました。

 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件

暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件については、「性犯罪の処罰規定の本質は被害者が同意していないにも関わらず性的行為を行うことにある」との認識を前提としつつも、処罰すべき行為を取り込み、かつ、処罰すべきでない行為を処罰対象に取り込まない構成要件の在り方が検討会で議論されました。

暴行・脅迫要件の解釈・運用にばらつきが生じ、被害届不受理、不起訴処分、処罰の間隙が生じていることなどから、安定的で適切な運用に資するような改正であれば検討に値するという点では、検討会委員の中ではおおむね異論はないといいます。その上で、刑法改正に向けては、処罰範囲がより明確となる要件を検討する必要があるとされました。行為者が用いる手段や被害者の状態を改正案において列挙することについては、肯定的な意見が多く見られ、また、列挙する場合の規定の在り方については、包括的な要件(受け皿条項)を設けるべきであるとの意見が多数を占めたといいます。

この包括的な要件(受け皿条項)の定め方として、

A「その他意に反する性的行為」と規定すべきである

B 「抗拒・抵抗が著しく困難」と規定すべきである、 「拒否・拒絶が困難」と規定すべきである

の2つが挙がっているところ、寺町弁護士の私見では、前者(A)は不同意を処罰するものと言いうるものの、後者(B)は被害者が抵抗することを前提にしたもので現行法とあまり変わらないのではないか、との解説がありました。

地位・関係性を利用した犯罪類型

地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方に関して、被害者が一定の年齢未満である場合や障害を有する場合には、そのような特性に応じた対処が必要であることについては、異論がありませんでした。各々の具体的な規定の在り方については検討会委員の中で意見が分かれた、と寺町弁護士より報告がありました。

性的同意年齢

性的同意年齢に関しては、「暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず強制性交等罪が成立する年齢を引き上げるべきか」が論点となっています。検討会の中では、被害者が一定の年齢未満である場合には、被害者が脆弱であることから、そのような特性に応じた対処の検討が必要であることについては異論がなかったものの、どこまでを絶対的に保護するのか、あるいは相対的保護で足りるのか、など意見が分かれました。

仮に、性交同意年齢を16歳まで引き上げた場合には、14歳以上の者は刑事責任能力(刑法第41条)を有するため、中学生同士が対等な恋愛関係の中で性的行為をすると双方ともが処罰され得ることになりますが、そのような場合までも犯罪とすべきでないことについては異論はありませんでした。その上で、同年代の者同士の性的行為を処罰対象から除きつつ、一定の年齢未満の者を保護するための規定の仕方・罰則の在り方については、検討会委員の中で意見がわかれたといいます。

強制性交等の罪の対象となる行為の範囲

強制性交等の罪の対象となる行為の範囲について寺町弁護士は、改正をする場合には、挿入するものや挿入する部位の性質等に鑑み、その当罰性・悪質性に応じた処罰が可能となるよう、適切な構成要件や法定刑の在り方について更に検討がなされるべきである、と検討会の中では方向性がまとめられていると説明しました。

 

続いて、HRNメンバーの中山純子弁護士より、同じく取りまとめ報告書(案)で明示されている、具体的な論点に関する説明がありました。

法定刑

法定刑において、「2名以上の者が現場において共同した場合について加重類型を設けるべきか」に関しては、現行法定刑の範囲内で適切に運用されているため、現時点では不要、との意見が検討会で出されています。また、「被害者が一定の年齢未満の者である場合」の加重類型の設置についても同様に、現時点では不要とされたといいます。

しかし、中山弁護士によると、特に子どもの保護の仕方については177条、178条、179条、性的同意年齢の規定部分で横断的に保護をする必要があるとの認識がほぼ共有されている、とのことです。

配偶者間等の性的行為に対する処罰規定

配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方に関して、「配偶者,内縁などの関係にある者の間でも強制性交等罪や準強制性交等罪が成立することを明示する規定を設けるべきか」という論点については、明示規定を設けるべきとの方向性が示されているとのことです。

性的姿態の撮影行為に対する処罰規定

性的姿態の撮影行為に対する処罰規定については、創設すべきであるとの認識は共有されているものの、どのような行為を規定の対象とするのかといった、具体的な規定の在り方については要検討する必要がある、とされたといいます。

また、「没収・消去 撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設けるべきか」という点について、中山弁護士より、有罪判決を前提としない没収(消去)の必要性は共有されており、具体的な既定の在り方を検討するべきとの方向性が示されたと説明がありました。

公訴時効

「強制性交等の罪について、公訴時効を撤廃し、又はその期間を延長すべきか」また、「一定の年齢未満の者を被害者とする強制性交等の罪について、公訴時効期間を延長することとし、又は一定の期間は公訴時効が進行しないこととすべきか」が論点とされています。検討会委員の間では撤廃については慎重な意見が多数あったものの、年少者は性的行為の意味が分からないために被害認識が困難であることや、大人でも被害認識や被害申告が困難な場合があることについて認識が共有され、性犯罪について公訴時効の完成を遅らせる改正をすることについては、性犯罪一般に対して遅らせるのか、又は一定未満年齢の者に限定するのか、証拠の散逸や法的安定性にも留意しつつ、具体的に検討する方向になったといいます。

レイプシールド

レイプシールドの在り方について、「被害者の性的な経験や傾向に関する証拠を公判に顕出することを原則として禁止することとすべきか」という点については、現行法の中で適切な運用をはかるべきであるとし、現時点で新たな規定の創設には慎重な姿勢を見せたといいます。

※レイプシールド・・・性犯罪被害者の過去の性体験やプライバシーを害する事項について、関係なく尋問されることがないようにするもの 【男女共同参画会議 女性に対する暴力に関する専門調査会 『「女性に対する暴力」を根絶するための課題と対策 ~性犯罪への対策の推進~ (案)より】

司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱い

司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いにおける、「その結果を記録した録音・録画記録媒体について,特別に証拠能力を認める規定を設けるべきか」という点に関しては、現時点での新たな規定創設に慎重な姿勢が示されています。その中では、特に子どもに対する尋問のあり方についても議論されたそうです。

刑法改正のこれから

以上の論点を踏まえて、寺町弁護士から刑法改正の今後の動向に関して説明がありました。基本方針として一致した部分はあるものの、具体的にどのような手段を採用するのかについては選択肢の論点整理に留まっている部分があるとの指摘がありました。この取りまとめ案を受けて、法務省がどの論点に関して法改正条文案を作成し、法制審議会に諮問するのか、が今後の議論の焦点になります。

 

閉会の挨拶において、HRNの雪田樹理理事は、ヒューマンライツ・ナウの刑法改正を目指したこれまでの活動内容を振り返り、被害当事者の実態に即した刑法改正を実現したいと強調しました。

f:id:humanrightsnow:20210602141051p:plain
 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

イベントについては、随時ホームページやSNSでお知らせしています!

ぜひHRNの各種SNSフォローをよろしくお願い致します♪

(文=松下真菜)