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*イベントレポート*4月2日開催「スポーツと機会の平等ータイトル9の理念をどう反映させるのかー」

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4月2日、ヒューマンライツ ・ナウ(HRN)はウェビナー「スポーツと機会の平等ータイトル9の理念をどう反映させるのかー」を開催致しました。

スポーツにおける男女平等はあらゆる点で遅れており、男性中心主義が教育とスポーツの現場でも貫かれています。HRNでは、「日本の教育機関における男女平等の推進」に関する報告書(【報告書】日本の教育機関における男女平等の推進 | ヒューマンライツ・ナウ)を2021年1月に公表しました。

同報告書は、アメリカ合衆国の連邦法で、学校における男女平等を目指すタイトル9のような法整備を行うことを提言しています。

本イベントでは、日本オリンピック委員会(以下JOC理事で筑波大学教授の山口香氏をお迎えし、スポーツにおける男女平等、そして日本版タイトル9実現のための施策について考えました。

イベントでは早速、ゲストの山口さんよりスポーツと機会の均等についてお話を頂きました。

その後、HRN後藤弘子副理事長とHRN三浦まり理事より、タイトル9とHRNの報告書「日本の教育機関における男女平等の推進」に関する解説がありました。そして最後は、三人のパネルディスカッションが行われました。

スポーツの機会と均等 山口香

女性スポーツの歴史

山口さんは、女性スポーツの歴史はまさしく差別と偏見への戦いだと仰います。山口さんが1978年第1回全日本女子体重別選手権大会(50kg級)で初優勝された当時は、女性選手の大会への参加が認められなかったり、「女性は守られるべき存在であり、激しい競技はできない」などの偏った考えが広く支持されており、女性がスポーツ選手として活躍する道が開かれていなかったといいます。現在でも、各種スポーツ大会の賞金における男女差など数々の課題が残っています。

「機会均等」とは

山口さんによると、機会の均等とは女性が男性基準に則することなく平等に機会を得られる状態を意味します。例えば、ラグビーやサッカーコートの大きさなど、競技におけるあらゆる規則は男性の身体を基準にして作られてきました。一般的に男性とは異なる身体的特徴を持つ女性にとって、既存のコートは自分のベストを出し切れる規格ではないのかもしれません。山口さんは、スポーツの機会均等は、男女の競技人口を同数にするだけでは達成できないと仰います。身体的特徴や女性特有の問題を考慮し、女性にとってプレーしやすい競技やルールを設けることでスポーツにおける男女の機会均等は実現されると強調されました。既存の競技やルールに女性を取り入れるだけでは、真の平等(=機会均等)とは言えません。

なぜ女性役員は重要か

現在スポーツ界で意思決定の場にいる女性の数は低迷しており、例えばJOCの役員における女性の割合は約20%、JOC加盟の67団体全体で約15%、さらにこの中には女性役員が0人の競技団体もあると言います。女性役員を増やすことが、現在のスポーツ界全体における急務であると考えられます。山口さんは、女性の身体や女性特有のスポーツに対する感覚は男性と大きく異なると仰います。このような違いをよく理解できる女性役員は、既存の女性のスポーツ人口の声を汲み取るだけでなく、幅広い層にスポーツを普及させるためにも非常に重要な存在だと訴えました。

スポーツが体現する他者理解を社会に

山口さんは、スポーツのフェアプレーの精神ノーサイドの精神が、社会における他者理解に繋がると仰います。フェアプレーとは、どんな相手にも忖度せず全力を尽くして戦うこと、ノーサイドとは、勝敗に関わらず相手を人として尊敬することを指します。このようなスポーツ精神は、全力でぶつかり合える相手がいるから、自分が成長できるという他者理解に基づいています。山口さんは、これを社会に当てはめ多様な意見を建設的に議論し、人々が共に進化していく社会を目指すべきだと訴えました。

 

山口さんは、女性に限らず全ての人にスポーツの平等な機会が与えられるよう努力してかなければならないとし、肌感覚ではなく、その達成度をきちんとチェックするタイトル9のような仕組み作りが必要だと締め括りました。

タイトル9と報告書「日本の教育機関における男女平等の推進」

タイトル9とは教育機関における男女の機会均等を定めたアメリカ合衆国の連邦法の修正法のことです。HRNが2021年1月に発表した報告書では、日本の教育機関における男女平等を推進し、性差別に対処するため、タイトル9と同様の法律を日本においても制定・実施することを文部科学省に対し勧告しています。

後藤副理事長は、日本の教育機関のスポーツ、入試、そしてセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)等の性暴力の分野における、タイトル9に習った勧告内容を解説しました。

後藤副理事長によると、学校スポーツに関しては各教育機関に男女のスポーツ機会均等の義化、入試分野においては性別に基づいて学生の教育機会を剥奪することの禁止などが必要であると強調されました。

また教育機関におけるセクハラや性暴力に関して、各教育機関に対し性差別に対処するための専門機関の設置を義務付ける他、実態調査の実施やその調査結果の公開を義務付けることなどが必要だと指摘しました。

現在、各大学によるセクハラや性暴力の防止対策や対処には、不十分な点が多いと言われています。

三浦理事によると、レイプや強制わいせつ、盗撮、デートDVなどに対する大学側の関心は低く、このような性暴力によって特に女性が教育機会にアクセスしにくくなっているという現状への理解も乏しいようです。

三浦理事は、タイトル9を参考に、日本でも同種の法律を制定し、性別・性的指向性自認を理由に学生の教育機会が奪われない環境を保障する責務を大学に負わせることが必要だと改めて訴えました。

 

その後パネルディスカッションでは、スポーツ団体の女性役員を増やすための方策や課題などについて議論が繰り広げられ、質疑応答では多様な質問が寄せられました。

 

 

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(文=國末りこ)