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12/15開催世界人権デー記念イベント「コロナ禍が映し出す女性の人権状況」*イベントレポート*

見出し画像12/15開催世界人権デー記念イベント「コロナ禍が映し出す女性の人権状況」*イベントレポート*
 

12月15日、ヒューマンライツ・ナウ関西グループは世界人権デーに合わせて、「コロナ禍が映し出す女性の人権状況」と題したウェビナーを開催しました。(主催:ヒューマンライツ・ナウ 関西グループ 共催:ヒューマンライツ・ナウ)

 

新型コロナウィルスの影響で世界中の人々の暮らしや人権に様々な制約が課せられる中、DVなどの女性に対する暴力の増加が指摘され、国連も懸念を示しています。

ゲストは2015年から2年間、国連の女性差別撤廃委員会委員長を務められた林陽子弁護士。ご自身の委員としての経験もふまえ、コロナ禍での女性の人権状況について語っていただきました。

 

コロナ禍で深刻化した女性の人権問題

始めに、コロナ禍で浮き彫りになった女性の人権問題をご紹介いただきました。日本では以下のような問題が深刻だそうです。

・女性の雇用の激減
・女性と若者の自殺者数の増加
・伸びない生活保護の受給者数
・一斉休校や高齢者施設の閉鎖による無償労働の増加
・DVなどジェンダーに基づく暴力の増加
・特別定額給付金が「世帯主」に支給されるという間接差別

 

ジェンダー平等諮問会議(GEAC)はG7各国の首脳に対し、適切な労働条件の確保や女性に対する暴力への対処、リプロダクティブ・ヘルスの確保などを求める声明を発表しました。

 

各国の女性保護政策

続いて、各国政府のコロナ禍での取り組みについてご紹介いただきました。内閣府男女共同参画局が11月に発表した緊急提言には、DV相談体制の強化やエッセンシャルワーカーの処遇改善の考慮などの対策が盛り込まれているものの、日本はG7各国に比べて政策が不十分であるという指摘がありました。


日本の政策は、ジェンダー視点・国際協力・「差別と闘う」姿勢のいずれも稀薄であり、女性差別撤廃条約の理念が浸透していないという問題があるそうです。日本のジェンダーギャップ指数は121位とアジアの中でも非常に低いにもかかわらず、日本政府はそれを「国民の意識の問題」と認識しており改善に前向きではないと、林氏は指摘しました。

 

日本の法律に残る女性差別

女性差別撤廃委員会は日本の刑法や民法女性差別が残っていると指摘しており、そうした状況の中に女性が置かれていることでコロナ禍の人権侵害がますます深刻になっていると、林氏は強調しました。

 

林氏はそうした状況を変えるために必要な以下の「三種の神器」があると言います。

 

①包括的な差別禁止法と国内人権機関
②クオータ制
③個人通報の批准

 

包括的な差別禁止法と国内人権機関
包括的な差別禁止法は、法律の効果が女性にもたらす間接差別や、人種や性自認など様々な要因が重なって起こる複合差別への対処を目的にしています。先進国の多くでは、包括的な差別禁止法が制定されています。また、差別を禁止する法律と同時に、差別を受けたときに相談できる人権機関が必要です。国内人権機関グローバル連合の統計によると世界124カ国が国内人権機関を設置していますが、日本にはまだ存在していません。

 

クオータ制
クオータ制は割り当て制とも言われ、中でもジェンダー・クオータは過少代表となっている女性を議会や企業取締役会に積極的に送り込んでいく政策です。日本では2018年に候補者均等法が制定され、政党に男女の候補者数をできるだけ均等にするよう求めています。しかし、2019年の参議院選挙では野党の多くが女性候補者を3割以上擁立したのに対し、自民党は14%、公明党は8%しか擁立せず、当選した女性は全体の22%に留まりました。

 

個人通報の批准
林氏は、日本に人権条約の個人通報制度が必要な理由として公務員の不足と疲弊があるといいます。日本は他国に比べて公務員が少なく、コロナ禍でさらに多忙になったことで、公務員だけで人権問題に対処することがますます難しくなっています。人権侵害を発見し救済するためには、被害当事者や支援者の力が不可欠だそうです。女性差別撤廃条約締約国189カ国のうちすでに114か国が個人通報制度を含む選択議定書を批准しており、日本のジェンダー政策の遅れが顕著となっています。

Generation Equality へ向けて

世界の国会議員に女性が占める割合はまだ24%、人身取引の被害者の70%が女性であるなど世界レベルでも問題は山積しています。Generation Equality(すべての世代の平等)を実現し、SDGsが掲げるジェンダー差別の問題を解消する鍵を握るのは、意思決定の場で男女の数を平等にする「50:50プラネット」であると林氏は指摘しました。また、差別問題に対処する資金調達のためには、富裕層の不当な税制優遇をやめ、租税民主主義の確立が必要であると伝えました。

重要なのは市民の力

林氏は最後に、人権を守るためにはヒューマンライツ・ナウのようなNGOと市民一人ひとりの存在が大切であり、政府に任せきりにせず声をあげていくことが重要であると締めくくりました。

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2020年もHRNの活動を応援していただきありがとうございました。2021年も様々なイベントで皆様とお会いできることを楽しみにしています!

(文=津吹茉辺留)