HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

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刑法性犯罪規定の改正に向けて~②HRNは地位関係性利用型性犯罪規定の創設を求めます~

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日本において同意がないまま性行為が行われたにも関わらず、加害者は罪に問われず、多くの被害者が泣き寝入りを強いられている事実を知っていますか?

2017年に始まった#MeToo運動を受け、日本でも性暴力被害者が声を上げ始めました。

2017年6月には、110年ぶりに性犯罪に関する刑法が大幅改正されました。

しかし日本の法制度はいまだ国際水準に遠く及んでいません。

 

2021年は、刑法性犯罪規定の改正に向けて重要な意味を持つ年です。刑法が改正され、性暴力の被害者が正当に守られる社会を実現するために今一度声をあげる必要があります。2021年が変化の年になるように、という思いを込めて#2021tochangeのハッシュタグを作成しました。

 

 

 

地位関係性利用型性犯罪とは

ヒューマンライツ・ナウは、当事者間の社会的な力関係を利用して相手に性的行為を強要することを地位関係性利用型性犯罪として処罰できるようにすることを求めています。

特に近年では、企業関係者から就活中の学生への性暴力が多く報告されています。また学校の教師が生徒(学生)に性加害をする事例が後を絶ちません。

前回の投稿でご紹介した通り、性的同意を確認する際には自分と相手が対等な立場にあることが必要不可欠です。教師やコーチと生徒、上司と部下、施設職員と入所者などを想像してみてください。先生に性的行為を求められているけれど、拒否したら成績を下げられるかもしれない。上司を拒絶したら給料を下げられてしまうかもしれない、もしかしたら仕事をやめさせられるかもしれない。施設で生活できなくなるかもしれない。権力関係を利用する場合、暴行や脅迫をしなくても、行為者が同意のない性的行為を相手に強いることは容易です。

 

このように支配的・権力的な地位関係を利用した性暴力を正しく処罰できる法制度が必要です。

 

法律はどうなっているの? 

刑法179条

「1.18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。

  1. 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。」

 

このように刑法179条では監護者、つまり、経済面や衣食住等の生活面・精神面で子どもを保護すべき者が、その子どもと性的行為をしたときは、暴行・脅迫の有無や抗拒不能を問わず犯罪としています。2017年改正で創設された監護者わいせつ罪監護者性交等罪です。しかし、これでは監護者の範囲が狭すぎるという問題があります。

行刑法の問題点

①監護者以外が地位関係性を利用して性交等をした場合は犯罪とならない。

  →例えば監護者以外の親族や兄弟、教師、アルバイト先の上司などがその地位関係性を利用して18歳未満の者に性交等をした場合、177条・178条に該当しない限り、刑法では処罰ができません。

 

②18歳以上の者に対する地位関係性を利用した性交等を処罰できない。

  →監護者が18歳以上の者に性交等をした場合でも、177条・178条に該当しない限り、刑法で処罰されません。

  →監護者以外の親族や兄弟、、例えば上司、教師、施設職員など権力関係を利用した者が18歳以上の者に性交等をした場合、177条・178条に該当しない限り、刑法で処罰されません。

 

このように現行法では18歳未満で、かつ、現に監護されている場合には、類型的に性的行為に同意しないと考えられるため、暴行・脅迫や抗拒不能を問わず、犯罪としています。しかし、地位関係性を利用した性暴力の本質は、加害者が自らの支配的・権力的な立場を利用して他者に性交等を迫ることにあります。現行法では守れない18歳以上の者が地位関係性を利用した性暴力を受けた場合にも、その被害を処罰できるようにする必要があります。

私たちが地位関係性利用型性犯罪規定の創設を求めている理由

台湾の刑法では「性交するために、家族、後見人、家庭教師、教育者、指導者、後援者、公務員、職業的関係、その他同種の性質の関係にあることが理由で、自身の監督、支援、保護の対象になっている者に対する権威を利用した者」を処罰することとしています。またドイツの刑法においても関係の性質を問わず、地位関係性を利用した性暴力を広く犯罪と規定しています。このように、性交等の強制に利用されうる地位関係性を「監護者と被監護者」に限定せず、また犯罪として処罰できる要件のうちから被害者の年齢を撤廃することで、現行法の下では泣き寝入りするしかなかった性暴力被害者を救えるようになります。

 

行刑法の犯罪成立要件が限定的であるために取りこぼされている性暴力を犯罪とし、より多くの被害者を守るためには被害者の年齢を問わず、地位関係性を利用した性犯罪規定の創設が急務です。ヒューマンライツ・ナウは、「18歳未満」という年齢制限を撤廃すること、同居する者、介護する者、親族、教師、指導者、上司など権力関係の利用が生じる者など具体的に処罰対象となる地位関係性を例示列挙すること、その地位や権限を濫用したあらゆる地位関係性を利用した性暴力を犯罪とする地位関係性利用型性犯罪規定の創設を求めます。

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【声明】被害の実態に沿った法改正という原点はどこへいったのか?性犯罪に関する刑事法検討会の取りまとめにあたって

 

刑法が改正されるかもしれない2021年、性犯罪被害の実態に沿った刑法改正の実現のためにもう一度声をあげる必要があります。今後も#2021tochange のタグをつけて、ヒューマンライツ・ナウが求める刑法改正のポイントをSNS・ブログにてご紹介します。

 

ヒューマンライツ・ナウの過去の活動はこちらからご覧いただけます。

【提言】私たちが求める刑法性犯罪規定改正案(改訂)

10か国調査 性犯罪に対する処罰 世界ではどうなっているの?〜誰もが踏みにじられない社会のために〜

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ヒューマンライツ・ナウは、日本発の国際人権NGOです。

世界でも最も深刻な人権侵害を調査し、声をあげられない被害者に代わって告発し、解決を求めて国際的な活動を展開しています。

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