HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

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刑法性犯罪規定の改正に向けて~③HRNは性交同意年齢の引き上げを求めます~

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同意がないまま性行為が行われたにも関わらず、加害者は罪に問われず、多くの被害者が泣き寝入りを強いられている事実を知っていますか?

2017年に始まった#MeToo運動を受け、日本でも性暴力被害者が声を上げ始めました。

2017年6月には、110年ぶりに性犯罪に関する刑法が大幅改正されました。

しかし日本の法制度はいまだ国際水準に遠く及んでいません。

 

2021年は、刑法性犯罪規定の改正に向けて重要な意味を持つ年です。刑法が改正され、性暴力の被害者が正当に守られる社会を実現するために今一度声をあげる必要があります。2021年が変化の年になるように、という思いを込めて#2021tochangeのハッシュタグを作成しました。

 

 

 

 


性交同意年齢とは?

 

性交同意年齢とは、性交等をするか否かを自ら決定できると見なされる年齢の下限のことを指します。日本の現行刑法では13歳が性交同意年齢と定められていて、13歳未満の者と性交等を含めた性的行為をすることは処罰の対象になります。性交同意年齢は性交等がそもそもどういう行為であるか、また性交等をした結果何が起きうるのか、そしてそれらを十分に理解した上で自分が性交等をしたいかどうかを判断できない子どもを性被害から守るために設置されています。

 

グルーミングってなに?

 

グルーミングとは、特に子どもへの性暴力が起こる前の段階で加害者が被害者に接近し、徐々に信頼を得ていく準備過程のことを言います。加害者が巧みな言葉で子どもを揺さぶり、加害者に心を許しきったところを利用して性加害をする事例が多数報告されています。グルーミングによる性暴力を受けた被害者は加害者を信用しきってしまっているため、自分が性被害に遭っていることに気が付くことができず、誰の助けも及ばないところで重大な被害に遭っている危険性があります。被害の実態に気が付いていない被害者が一見して性的行為に同意しているかのように見えること、このような心理的操作を用いれば性交等を強要するために暴行・脅迫をする必要がないことから、日本の現行刑法ではこういった性暴力を犯罪として立件するのが難しい実情があります。

 

こういった卑劣な性暴力から子どもを守るためには、同意や暴行・脅迫の有無に関わらず一定の年齢以下の子どもと性交等をすることを処罰対象とできるよう、性交同意年齢の引き上げが求められます。

 

法律はどうなっているの?

 

刑法176条

「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。」

刑法177条

「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)」をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」

 

 

日本の現行刑法では、13歳未満の子どもと性交等を含む性的行為をした場合、同意や暴行・脅迫の有無に関わらず強制わいせつもしくは強制性交等の罪に問われることとなっています。日本において性交同意年齢が13歳と定められたのは刑法性犯罪規定が作られた明治時代のことで、それ以来110年以上に渡って一度も性交同意年齢は変更されていません。立法当時には妊娠の可否など、女子の身体的成熟を根拠に法律で性被害から守られるべき年齢の下限は13歳と定められました。しかし現在では、誰と性的行為をするのか、またはしないのかを自由に決められる性的自己決定権は保護法益であると考えられています。つまり、その自由と権利を侵害しうる他者の行為を法律で処罰対象にすることによって、その権利を守ろうというのが現代の考え方です。

 

現在の日本では性交同意年齢が13歳と規定されており、また地位関係性を利用した性暴力を処罰する規定もありません。たとえば13歳以上の中学生が学校の教師などの大人から性暴力を受けた場合、暴行・脅迫があったかどうか、本当に抵抗ができなかったのかなどをその被害者が説明し、またそれが事実であったと認定されなければ犯罪として立件できません。

 

多くの先進国は性交同意年齢を16〜18歳としています。日本と同様に13歳を性交同意年齢としていた韓国やフランスでも、成人から少年少女への性暴力は子どもに対する深刻な人権侵害行為と捉えられ、韓国では2020年に性交同意年齢が16歳へ、フランスでは2021年に15歳へと引き上げられました。

 

性交同意年齢の引き上げに際して、若年者同士が恋愛をしお互いの性的同意を確認した上で性的行為をすることが処罰対象とならないよう、年齢差要件を設置を考慮する必要があります。そこで、お互いに18歳未満で、年齢差が2歳以内の2人がともに性的同意を確認しあい、暴行・脅迫や地位関係性の利用なく性交等をする場合には処罰対象としないなどの要件を設置するようヒューマンライツ・ナウは提案しています。しかし、検討会ではこれらに関する具体的な改正についての合意には至りませんでした。

 

私たちが性交同意年齢の引き上げを求めている理由

 

現在の日本の学校で行われている性教育などの内容に鑑みると、13歳の子どもに性交等の意味や行為の先に生じる責任、また性的同意に関する十分な理解を期待するのは現実的ではありません。判断能力や知識の乏しい子どもの脆弱性につけ込んだ性暴力は、子どもに対する深刻な人権侵害であり、子どもを守るためには性交同意年齢の引き上げが必須です。

 

大人ですらも性暴力を受けたときに驚きや恐怖から加害者に「NO」と言えないこと、また性暴力を受けたことがトラウマとなり、そのときのことが思い出せなかったり、そのときの状況を人にうまく説明できないことがあります。性暴力を受けたことがその後に人生に大きな爪痕を残し、被害者がPTSDなどの精神疾患を発症してしまう事例も多く報告されています。被害者を守れない法制度が仇となり被害が多発・中長期化している実情に向き合い、刑法改正の実現に向けて声をあげなければなりません。とくに判断力が乏しい中学生をはじめとする子どもが成年者から性暴力を受ける事例が相次ぎ、社会問題と化している今日、性交同意年齢を引き上げて子どもを守れる社会をつくることは早急に実現すべき社会課題の一つであると言えます。

 

性交同意年齢は、妊娠が可能かどうかの身体的習熟度ではなく、性的行為の意味や内容、行為の結果として起きうることに関する知識や理解といった社会的習熟度に基づいて設定されるべきという現代的・国際的人権基準に基づき、また義務教育を終えるまでの全ての子どもを性暴力から守るため、ヒューマンライツ・ナウは性交同意年齢を16歳に引き上げることを求めます。

 

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【声明】被害の実態に沿った法改正という原点はどこへいったのか?性犯罪に関する刑事法検討会の取りまとめにあたって

 

刑法が改正されるかもしれない2021年、性犯罪被害の実態に沿った刑法改正の実現のためにもう一度声をあげる必要があります。今後も#2021tochange のタグをつけて、ヒューマンライツ・ナウが求める刑法改正のポイントをSNS・ブログにてご紹介します。

 

ヒューマンライツ・ナウの過去の活動はこちらからご覧いただけます。

【提言】私たちが求める刑法性犯罪規定改正案(改訂)

10か国調査 性犯罪に対する処罰 世界ではどうなっているの?〜誰もが踏みにじられない社会のために〜

 

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ヒューマンライツ・ナウは、日本発の国際人権NGOです。

世界でも最も深刻な人権侵害を調査し、声をあげられない被害者に代わって告発し、解決を求めて国際的な活動を展開しています。

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