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10月1日開催 「学校における性被害から子どもを守るために今必要な変化とは」*イベントレポート*


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10月1日開催 「学校における性被害から子どもを守るために今必要な変化とは」*イベントレポート*

 

10月1日、ヒューマンライツ・ナウは、文科省に対して、教師による性暴力の予防や再発防止のための政策を提言している石田郁子氏をゲストに迎え、学校での教師による性暴力の実態そして子どもたちを守るためには何が必要であるのかを考えるイベントを開催しました。

(イベントアーカイブ動画はこちら

 

教師やコーチによる地位関係性を利用した性暴力被害について、ようやく話し合われるようになってきました。しかし、現行法では、教師による性暴力を処罰することが困難なため、新たな加害が繰り返されてしまいます。

今回のイベントレポートでは、ディスカッションの内容のポイントをお伝えします。

 

目次

  • 1. 教師による児童生徒への性暴力の実態  
  • 2. 意思表示と被害者認識の難しさ
  • 3. 相談しにくい環境
  • 4. これからの対策
  • 5. 教師の処分の要求
  • 6. まとめ
  • 最後に

1. 教師による児童生徒への性暴力の実態  

石田氏が5月実施した、学校での性暴力に関するアンケートの結果を解説して下さいました。

回答者の約4割が学校教師からの性暴力の被害にあった経験があると答え授業や日常生活の延長で被害にあうケースが多い

 

体罰や指導の延長上: 

小学校で名札を忘れるとその度、罰として体を触られるという被害報告がされました。この様に、密室ではなく教室のような公共の場所でも大勢の生徒が同時に長時間にあうケースもあり、複数の生徒が被害を受けていても声をあげにくい環境があると、石田氏は語ります。特に、被害者が忘れ物をしているからと自分に負い目を感じること、被害がクラスで日常化していたこと、先生の立場の利用などの理由から、被害の意識を持つ事が難しいそうです。

 

また、教師が好意や恋愛を口実に性行為をすることがある、という報告がありました。小学生の場合は、先生から気に入られていると思い込み、中学生や高校生の場合は恋愛関係にあると思い込んでしまうことから、生徒たちが責任を感じてしまい、被害を認識することが難しい場合が多いそうです。

 

2. 意思表示と被害者認識の難しさ

被害当時は、それまで生徒と教師として信頼関係を築いてきた相手から性行為を求められ、「自分に起こっていることは本当だったのだろうか」と現実に対しての驚きが大きいため、はっきりと言葉で意思表示できない被害者が多いとの解説がありました。石田氏によると、被害当時の経験が性的な経験であるとは理解していたとしても、それが性暴力であるという認識はないため、自分を被害者と認識しない人が多いそうです。 

 

その背景には、教師と生徒という上下関係があり、生徒には「先生が悪いことをする」という発想がなく、性行為に関する事も「学校の先生」が言うこととして、最もらしいことに聞こえることが説明されました。 また、「性行為は好き同士の大人がすることである」「子供なのに、大人がすることをしている自分は悪い」と、自分自身を批判してしまう背景から、自分を被害者であると思わない場合も多いそうです。

 

3. 相談しにくい環境

被害に合った後、被害者が他人に相談できない理由として、性行為について話すこと自体がタブーとされている社会が挙げられました。石田氏自身も、被害当時は、「性行為については人に言うことではないと思っていたため、親に相談できなかった。」そうです。

 

勇気を持って親に相談しても怒られたり、学校は見て見ぬふりをして、行動を起こしてくれなかったりするケースが多いそうです。

 

4. これからの対策

どうしたら子どもが相談できる環境が作れるのかについて、石田氏と伊藤事務局長の意見交換が行われました。

 

石田氏は、

子どもへの教育も大切であるが、大人への教育にも注力していくべき

と述べました。子どもが性被害に気づくことができても、大人・教員が被害の声をしっかり聞き、正しく連携していくための知識と意識を持っていなければ、子どもを守ることは出来ない。このことから、大人への教育が重要である、と説明しました。

 

伊藤事務局長は、

子どもの意思の有無に関係なく、教師と生徒の性行為は絶対にやってはけないことであるという、社会の認識を高めることが大切である

と述べました。子どもだけに「NO」と言えるようにする教育など、子ども任せの対策ではなく、教師や親への教育を行なっていくことが必要だと訴えました。

 

5. 教師の処分の要求

現状として、教育委員会は懲戒処分には非常に慎重であると、石田氏は説明しました。懲戒処分を受けた教員が後に、不当処分だと訴訟を起こす場合があり、その場合委員会は裁判に負けることを回避するため、確実な証拠があっても、教員自身が認めたり警察による逮捕などがない限り、懲戒処分にしない場合が多いそうです。グレーの状態で教員を学校においていることは、生徒の安全よりも裁判で負けることを考慮した行為であると、石田氏は訴えました。

 

石田氏の文部科学省への政策提言

  •  文部科学省による懲戒処分の基準•調査方法の統一。現卒、懲戒免職を求める。
  •  第三者委員会による調査を必須とする。
  •  教員免許の再取得を不可とする。

  現状:免許失効後、3年後に再申請が可能

  •  依頼退職・異動によって教師に責任を回避させない。追跡調査できる仕組みを作る。定年退職した教師に対しては、退職金返納など何らかの罰則を設ける。
  •  他の教師による通報の義務化、連携できる職場環境を作る。
  •  疑いのある教員を一時的に現場から離れさせる。
  •  教員への、性暴力やその対応に関する研修。
  •  生徒及び教員への定期的な実態調査。
  •  教員採用時に、子どもへの性暴力への可能性をチェック。
  •  恋愛など教師と生徒以外の関係の禁止。

 

6. まとめ

現在の刑法では、強制性行為罪が成立するためには「暴力」または「脅迫」という要件、準強制性行為罪が成立するためには「心神喪失」または、「抗拒不能」という要件が必要です。日本の刑法では、「むりやり性行為をされた」「意に反して性行為をされた」というだけでは、犯罪と認められません。 

 

また、日本の学校では、教師に言われた事は守らなければいけないという意識が強いため、教師から性行為が犯罪であるとして生徒が被害者意識を持つ事が難しく、被害者意識を持っていても、相談しにくい現状があります。 

 

児童・生徒に対して、大きな権限を持つ立場にいる教師による性被害は、教育現場、教育委員会文部科学省が、子どもの側に立った教師の処罰をする必要があります。

 

そして、暴行・脅迫がなくても、「同意のない性行為はいけない」、「暴行・脅迫がなくても、同意がない性行為は犯罪である」という人々の意識を育て、生徒が声を上げやすい環境をつくるために、教師・周囲の大人への教育を広めていくことが重要です。

 

最後に

・石田氏が取り組んでいる署名活動の紹介

石田氏は、文部科学大臣に教師による生徒への性暴力の防止に必要な法改正・法整備を求める署名活動をされています。

 

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‘’ 教師による性暴力は、「教育」ではなく「安全」の問題です。それも、「児童・生徒の安全」です。「教育の裁量権」として各教育委員会に委ねるのではなく、文部科学省が主導して全力で児童生徒を守るべきです。”

 

署名活動の詳細と署名はこちらのサイトから:

http://chng.it/xRqCvjN5cT

 

・今後のイベント情報

11月中旬に、オンライントークイベント第二弾を予定しています。

詳細は、近日中に弊団体のHPSNSで公開します。

みなさまのご参加をお待ちしています!