HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

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【後編】8/5開催「みんなで変えよう!日本の性犯罪規定における問題点」*イベントレポート*

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【後編】8/5開催「みんなで変えよう!日本の性犯罪規定における問題点」*イベントレポート*

 

8月5日、ヒューマンライツ・ナウは、JANIC共生ファンドの中間報告イベント『みんなで変えよう!日本の性犯罪規定における問題点』を開催しました!

 

HRNで女性の権利問題に関わる声明や改正案の作成をしている教授1名及び弁護士5名が登壇し、現行の性犯罪規定の問題点と私たちが求める改正案について、事例を用いて解説しました。

 

今回の記事では、当イベントの後半、現行法の問題点(後半)・検討会に関する報告をお伝えしていきます。(noteではイベントで紹介した事例の一部を取り上げます。)

 

【前編】こちらをご覧ください。

 

まず、雪田弁護士が、地位関係性利用 性的行為罪/性交罪について事例と共に問題点を説明しました。

暴行・脅迫がなければ不起訴、という現状

 

<事例4>

 

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中学2年生の女子生徒Aが、男性教師Bから性的暴行を受けた構成事例。

 

Aは友人関係の悩みをきっかけに、学校の人気者で憧れの男性教師BとLINEをするようになった。その後、学内の相談室に呼び出されるようになった。

 

相談室に行ったAは、教師Bから胸を触る等の性的行為、さらには口淫をさせられた。憧れを抱いていた教師からの呼び出しであり、友人関係の悩みの相談を聞いてもらっていたため、AはBの要求に応じた。

 

しかし、次第に疑問を持ち始め、友人に相談して発覚。

 

暴行・脅迫がないため、立件不可と判断された。

 

現在の法律では…

監護者性交等罪の「監護者」

=「その者を現に監護する者」(親など)と、範囲が非常に狭い。

 

18歳未満の者に対して、

被害者が抵抗できない地位関係を利用した性暴力の場合でも、

暴行脅迫などがなければ、加害者を罪に問うことができない。

▼▼▼

 

HRNは、現に監護する者の定義を拡大して教師を含むことで、教育関係者による性暴力を処罰することを求めます。

 

【改正案】179条 監護者等性的行為罪・監護者等性交等罪(拡大)

1項  18歳未満の者に対し、同居する者、もしくは、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、監督、保護、支援の対象になっている者に対する影響力があることに乗じて性的行為をした場合は、176条3項の例による。

 

2項  18歳未満の者に対し、同居する者、もしくは、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同 種の性質の関係にある者が、監督、保護、支援の対象になっている者に対する影響力があることに乗じて性交等をした場合は、177条3項の例による。

加害である義父は、娘からの「同意」があったと主張し不起訴に…

 

<事例5>

 

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9歳の被害者Aが、同居する義父Bから継続的に性的暴行を受けた事例。

 

被害者AとBは自宅で「リベンジポルノ」に関するTV番組を見ていた。BがAに対し「(Aは)彼氏に裸の写真を送ったことないんか?」と聞くと、Aが「ある」と答える。すると、Bは激怒して午前4時頃まで怒鳴り、殴る蹴るの暴行を加えた。

 

このことをきっかけに、BはAと元交際相手とのLINE履歴を読み、Aが元交際相手と性交渉をもっていたことなどがわかると、さらに激怒。Aの服を脱がせ、殴る蹴るなどの暴行を加えた。そして、「(元交際相手に)こんなんされとったんか!!」などと言い、LINEに記載があった「体位」を取ることを強要したり、Aの胸や陰部を触ったりした。

 

それからBはAに毎日のように性的行為・性交を強要するようになった。深夜、Bはリビングで寝ているAの服を脱がし、「家に居たいなら受け入れろ。」と脅した。Aは恐怖とこれからの生活を考え、うなずくしかなかった。BはAに馬乗りになり、陰茎を挿入し射精した。その後も、車内での口淫や手淫を強要したり、Aの下着を捨てて「ノーブラ」や「ノーパン」で大学に通学させたり、生理中にもかかわらずAに性行為を強要し挿入行為を行うこともあった。

 

AはBの度重なる行為に耐えられなくなり、相談機関に相談し警察に被害届を提出。Bは強姦罪、強制わいせつ罪で逮捕・勾留の後、処分保留で釈放。数か月後、Bは不起訴処分になった。

 

本事例の不起訴理由は公表されていないが、「行為が連続しており事実の特定が難しいこと」「BはAの同意があったと述べていること」が理由であると考えられる。(Bは民事調停で自分の非を認め、損害賠償金を支払った。)

現在の監督者性交等罪は、被害者が18歳未満の場合に限定している。

 

加害者が「離婚等の理由で親権のない親、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員」などの権力関係を利用して性交等に及んでも

 暴行脅迫がなければ処罰対象にならない

▼▼▼

 

HRNは、18歳以上のものに対する地位関係性を利用した性暴力を処罰すること、監護者の類型を拡大することで、被害者が抵抗できない地位関係性を利用した性暴力から、18歳以上の者も保護することを求めます。

 

【改正案】新設 179条の2 地位関係利用性的行為罪・地位関係利用性交等罪

1項  18歳以上の者に対し、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、その地位や権限を濫用して性的行為をした場合は、176条1項の例による。

 

2項  18歳以上の者に対し、その者を現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員その他同種の性質の関係にある者が、その地位や権限を濫用して性交等をした場合は、177条1項の例による。

 

6月から法務省で始まった検討会の論点が決定

2020年6月から法務省で行われている法務省・性犯罪に関する刑事法検討会の様子と、法改正に至るまでのプロセスについて、寺町弁護士より報告がありました。

 

2017年6月、110年振りに刑法性犯罪規定が改正され、この法律の施行後3年を目途として、見直す必要がある場合には検討をすることを決めました。

 

2017年6月 前回刑法改正の附則第9条

第9条 政府は、この法律の施行後3年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 

2018年4月 法務省・性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループが設置され、性犯罪被害の概況と被害者心理等に関する研究をはじめとする7項目の調査が実施されました。調査結果はこちら

 

そして2020年4月、規定改正の見直しが必要であるとして、法務省・性犯罪に関する刑事法検討会の設置が決定しました。

 

新型コロナウイルスの影響で実際に検討会が始まったのは6月。2回に分けてヒアリングが行われた後、今後話し合う論点の叩き台が公開されました。(その後8月の検討会で、論点が決定しました。)

 

今後は、以下のプロセスで、法改正が進んでいきます。

<法改正に至るプロセス>

1.法務省・性犯罪に関する刑事法検討会

 

① 論点整理

② 議論

③ 取りまとめ(2020年度内か)

 

2.法制審議会・刑事法部会

④ ③に基づきつつ論点整理・議論

⑤ 改正法案・取りまとめ

3.国会審議

 

⑥ 法案審議(衆議院参議院) ➡ 可決成立!

今回の検討会は、前回の検討会とは異なり、被害当事者が委員に選任され、被害者心理・被害者支援に知見のある精神科医臨床心理士、弁護士

委員に加わっています。寺町弁護士は、2017年の検討会とは異なり、改正しなければならないという空気が強いと感じていると、報告しました。



今後の検討会の様子はこちらからご覧ください。

刑法改正の山場はここから

検討会での論点整理が済み、いよいよ議論が始まります。

長い道のりになりますが、ここからの議論で、具体的に改正する内容が決定します。

検討会委員に私たちの声を届けるべく、一緒に世論を盛り上げていきましょう。

 

ヒューマンライツ・ナウ、Spring、Voice Up Japanは、法務大臣へ刑法改正を求める署名活動を行っています。

法務大臣へ、性犯罪における刑法改正を求めます。

刑法改正を目指して共に活動しているSpringは、刑法改正を求める声を募集しています。

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