HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、人権に関する学べるコラムやイベントレポートを更新します!

【イベント報告】2022年2月「ビジネスと人権アカデミー」

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2022年2月に全4回にわたる連続研修「ビジネスと人権アカデミー」をオンラインにて開催しました。ご参加頂いた皆様ありがとうございました。

 

本イベントの概要

2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されてから、企業も人権問題について取り組むべきであるという考えが国際的に広がり、2020年には日本でも国別行動計画(NAP)が策定され、投資家もESG投資という形で各企業の取組みを注視するようになりました。各企業がビジネスと人権に真剣に取り組む必要性がますます高まっているといえます。ビジネスと人権に取り組むにあたって各企業が検討するべきは、事業リスクではなく、「人権リスク」です。

 

そこで本セミナーでは、ビジネスに関わる現場の「人権リスク」に着目することを目的に、8つのトピックについて当該分野の第一線で活躍する講師の方々に、ビジネスと人権の国際人権基準や基本的な考え方、また現場で実際に起きている人権侵害の実態まで、最新の動向をもとにわかりやすく解説いただきました。

 

講師紹介

セミナーは次の8名の講師によって行われました。

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菅原 絵美氏(大阪経済法科大学国際学部教授)

佐藤 暁子氏(弁護士 / ヒューマンライツ・ナウ事務局次長)

小山 正樹氏(JAM労働相談アドバイザー / 在日ビルマ市民労働組合(FWUBC) 顧問)

木口 由香氏(メコン・ウォッチ事務局長 / 理事)

渡邉 彰悟氏(弁護士 / 在日ビルマ人難民申請弁護団代表)

田中 竜介氏(ILO駐日事務所 / プログラムオフィサー 渉外・労働基準専門官)

高橋 宗瑠氏(大阪女学院大学教授) 

阿古 智子氏(東京大学大学院総合文化研究科教授) 

 

各講座の概要は以下の通りです。

 

DAY1-1「国際人権法と企業:総論」

講師:菅原 絵美氏(大阪経済法科大学国際学部教授)

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菅原氏は、国際人権法の定義と仕組みを説明し、多様なアクターによる多層的な国際人権法の実施が見られるようになったと昨今の潮流を紹介しました。理論上、国際人権法(条約と国際慣習法)は企業に直接の働きかけは行えず「国家」を介す必要があります。しかしグローバル化により企業の力が増大、法的枠組み(国際・国内法)と社会的責任(市場やレピュテーション)の結びつきにより、企業は国際人権基準の遵守を社会から直接期待されていると述べました。また英国のスマートミックス政策として、国家領域の内外、法規制と企業や市民社会による自主的な動きの垣根を越える政策が手探りで取られ始めていることが紹介されました。

 

DAY1-2「ビジネスと人権:総論」

講師:佐藤 暁子氏(弁護士 / ヒューマンライツ・ナウ事務局次長)

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佐藤氏は、指導原則に関わる議論の進展をグローバル・日本国内の視点から概説した上で、日本企業が直面する課題示しました。指導原則発行から10周年を迎え、欧米では人権DDの義務化が進んでいます。日本では投資家の関心が高まっている一方で、人権を中心に据えた視座からの取り組みが日本企業では遅れていることが課題だと述べました。企業はステークホルダーとの対話をもとに事業活動全体を俯瞰し人権リスクを分析するべきだと考えています。また救済へのアクセスの担保、人権リスクの把握を対外的に示すための情報開示の重要性を強調し、企業に対するベンチマークの報告書をグローバル基準とのギャップ確認に活用することも有用と述べました。

 

DAY2-1「技能実習生」

講師:小山 正樹氏(JAM労働相談アドバイザー / 在日ビルマ市民労働組合(FWUBC) 顧問)

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小山氏は技能実習制度が孕んでいる構造的な問題を説明されました。母国からの送り出し機関に借金をしているため、雇用主による脅迫・監視・暴力などを我慢せざるを得ない環境に技能実習生が置かれている実態があります。こういった技能実習生の受け入れ環境の一因は、技能実習生を受け入れている企業の約80%が従業員規模50名以下の零細企業であることを説明しました。取引先との価格交渉力の欠如のため、低賃金・長時間労働技能実習生を酷使せざるを得ない受け入れ企業の現状が構造的な問題と指摘しました。サプライチェーン上、発注側の企業については、製造現場に入り込む難しさも理解する一方で、実態把握への努力をしていかなければならないと主張しました。制度の抜本的な見直しのため、特に企業には「サプライチェーンにおける外国人労働者の労働環境改善に関するガイドライン」の活用を呼びかけました。

 

DAY2-2「開発と人権」

講師:木口 由香氏(特定非営利活動法人メコン・ウォッチ)

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木口氏は生態系破壊・人権侵害をおこす大規模なインフラ事業に間接的に関わる企業・投資家は、資金の流れ、人権リスクの管理、救済方法を確立する責任があると強調しました。メコン下流域で進んでいるダム開発を事例に、自然資源やそれに頼る人々の暮らしは数値化が難しく、開発の現場では過少評価されることが多いこと、また、一党独裁体制の政権下では市民の抗議や苦情の声が届かないことを説明しました。ダム建設、道路建設、灌漑事業などに関わるプラント建設、建設部品のサプライヤーなどの企業・投資家は負の影響に留意して事業を行うべきと呼びかけました。

 

DAY3-1「ミャンマーとビジネスと人権」

講師:渡邉 彰悟氏(弁護士 / 在日ビルマ人難民申請弁護団代表)

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渡邉氏は1960年以降のミャンマー情勢と関連する日本政府や企業の動きを説明した上で、日本ではミャンマー人の人権への配慮よりも、経済や政治が優先されてきた実態に疑問を投げかけました。2011年に新政権が樹立した後、日本ではミャンマーは民政移管したとみなされるようになり、日本におけるミャンマー人の難民保護が減少しました。同時に多くの日系企業ミャンマーに進出したと説明。民政移管後もクーデター以前から国軍による人権侵害が行われていたという実態があるなかで、当時の人権デュー・ディリジェンスが十分だったのか検証も必要だと指摘しました。

 

DAY3-2「労働者の人権」

講師:田中 竜介氏(ILO駐日事務所 / プログラムオフィサー 渉外・労働基準専門官)

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田中氏は、労働者の権利としてのディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について説明しました。ディーセント・ワークを達成する手段としての国際労働基準、中核的労働基準を紹介し、その策定の背景について解説しました。また、日系企業が人権デュー・ディリジェンスを実施する際の課題を示した上で、各国における人権に関する取り組みがさらに浸透する前に日系企業が対応を強化しなければ、今後投資家や国際社会への説明が困難になる恐れもあると指摘しました。労働者の権利について、企業はNAP規定で示されている労働基準を活用し、足りない部分については政府に働きかけることが大切だと述べました。

 

DAY4-1「パレスチナにおけるビジネスと人権」

講師:高橋 宗瑠氏(大阪女学院大学教授) 

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高橋氏は、イスラエルによる組織的な人権侵害は、パレスチナ人の移動の自由を制限し、資源略奪や軍法による恣意的な法執行など、さまざまな国際法違反行為に及んでいると説明しました。イスラエルによる人権侵害については、国際的に強く批判されはじめており、ボイコット運動が日本企業を対象にするのも時間の問題であると指摘しました。そして、イスラエルの企業・機関でアパルトヘイトに関連しないものはないため、日本企業はそれらと提携すべきではないとの考えを述べました。

 

DAY4-2「ウイグルとビジネスと人権」

講師:阿古 智子氏(東京大学大学院総合文化研究科教授) 

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阿古氏は同化政策、強制収容・強制労働といったウイグル族への人権侵害の実態を具体的に紹介しました。中国の東部と少数民族の多い西部の経済格差解消のためと銘打ち、最低賃金以下での労働や労働者に対する厳しい管理状況を地方政府が宣伝する状況があると言います。そして、欧米諸国や日本の有名ブランドに関わるサプライチェーンでもウイグル族への強制労働に関与しているとの調査結果が出ていることを指摘しました。日本は人権、民主主義といった普遍的な価値観を重視し、長期的視野を持って戦略的に中国との関係を構築すべきであり、企業や専門家と連携した調査、民主主義における熟議、法律の制定、政策立案などが必要であると訴えました。

 

受講者の感想

連続研修「ビジネスと人権アカデミー」は好評のうちに終えることができました。全講座を受講してくださった受講生の方々からは以下のような感想を頂きました。

 

・私はビジネスと人権について少し知見があるレベルの企業人ですが、より学びを深め、具体的にビジネスにどう適応していくか考える良いきっかけになりました。

 

・人権のセミナーは今、毎週たくさん無料で開催されているが、本講座はさらに深く講義をお聴きでき、有料だが参加して良かったです。

 

・全体像の把握と各種テーマに分かれていた構成だったので、情報の整理と理解を深めるのに有益でした。

 

・カリキュラムの構成が良かったと思います。国際人権法とビジネスと人権の総論から始まり、国内人権問題、そして国際人権問題と繋がるところがよかった。

 

・人権に関する情報がまとまって聞けてとても有意義でした。定期にこのようなセミナーがあると情報が得られ助かります。

 

おわりに

今後も「ビジネスと人権」の分野への注目がますます増加すると予想されます。このような社会的ニーズにお答えするためにも、これからもヒューマンライツ・ナウは「人権リスク」を中心に据えた形で「ビジネスと人権」に関する情報を発信していきます。今後開催予定のイベントにもぜひご参加ください。

 

【イベント報告】3/9開催ウェビナー「Yes Means Yes!の実現を求めて」〜国際女性デーイベント〜

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2022年3月9日(水)に3月8日の国際女性デーに合わせて、「Yes Means Yes!の実現を求めて〜国際女性デーイベント〜」を開催いたしました。

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本イベントでは、性暴力について取材をされているライターの小川たまか氏、目白大学心理学部心理カウンセリング学科専任講師で臨床心理士公認心理師/博士(心理学)でもある斉藤梓氏、Speak Up, Sophia 共同代表である山崎彩音氏、Speak Up, Sophiaメンバーの加藤真央氏をゲストスピーカーに迎え、HRN副理事で千葉大学教授の後藤弘子の司会のもと、日本での同意に基づく性犯罪法(「Yes Means Yes」法)の実現に向けて、現状の課題や想いをお話ししました。

 

 

開会の挨拶

HRN理事、女性の権利プロジェクトリーダーであり弁護士の雪田樹理が開会の挨拶をし、同プロジェクトの取り組みについて紹介しました。

 

HRNは2017年の刑法改正以前から、性暴力や刑法改正の問題に取り組んできました。(当団体の刑法改正に関する活動の詳細は以下のリンクよりご覧になれます。https://hrn.or.jp/activities/project/women/womensrights-2020/ )

 

その後、フラワーデモなどを経て、社会に性暴力被害者の声が広がり、法制審議会での議論がようやく昨年から始まりました。

 

またHRNは、諸外国の法制度の実態調査を行い、世界の法制度の流れが「No Means No」型*1 から「Yes Means Yes」型*2に変わりつつあることを認識しています。現在、法制審議会では「No Means No」を勝ち取ることを目的としていますが、さらに我々が目指すべき「Yes Means Yes」を実現するためにどうすれば良いか、ということをゲストスピーカーの方と議論していきます。

中山純子「No Means NoからYes Means Yesへ 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会について」

HRN女性の権利プロジェクトメンバーで弁護士の中山純子からは、法制審議会刑事法部会における刑法改正に関する現在の議論状況についての報告がありました。

法制審議会の概要

2021年9月16日に法制審議会第191回会議において「性犯罪に対処するための法整備に関する諮問第117号」を刑事法(性犯罪関係)部会に付託して審議し、部会から報告を受けたあと改めて総会で審議することが決まり、現在その会議を受けて法制審議会で議論がなされています。

 

諮問第117号には主に10個の論点があり、全論点について1巡目の審議が終わっています。

  1. 177条暴行・脅迫要件、178条心身喪失・抗拒不能要件の議論
  2. いわゆる性交同意年齢の引き上げ
  3. 地位関係性利用等罪の新設
  4. わいせつな挿入行為の取扱の見直し
  5. 配偶者間における177条等の成立の明確化
  6. グルーミング罪の新設
  7. 公訴時効の見直し
  8. 司法面接の録音録画媒体に証拠能力を認める特則の新設
  9. 性的姿態の撮影・提供に係る罪の新設
  10. 性的姿態の画像等の没収・消去

 

2022年1月26日時点の委員構成としては以下の通りです。

 

役職 人数
部会長 1
委員 16
幹事 (議決権なし) 12
関係官 1

 

内訳 

刑法学者 9人
刑事訴訟法学者 2人
検察庁 1人
裁判官 1人
被害者支援弁護士 2人
刑事弁護士 2人
精神科医 1人
臨床心理士 1人
被害当事者 1人
関係省庁 9人

(関係省庁:法務省警察庁最高裁判所事務総局・内閣法制局

177条暴行・脅迫要件、178条心身喪失・抗拒不能要件の議論状況

以下の2点については共通認識が形成されているとのことでした。

①性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにある

②例示列挙と包括要件の二段構えで規定する

 

例示列挙と包括要件の具体的に挙げられている候補は以下の通りです。

(中山のスライドより)

 

177条

178条

例示列挙の候補

暴行

脅迫

威力

威迫

監禁

偽計・欺罔

不意打ち

驚愕させる

人の無意識

心身の障害

睡眠

アルコールや薬物の影響

精神的・継続的虐待

同一性の錯誤・行為意味内容の錯誤

洗脳(心理的支配)・宗教の影響

包括的要件

「又はその他意思に反する」

(検討会報告書p9)

「抗拒・抵抗が著しく困難」

「拒否・拒絶が困難」

「又はその他の脆弱な状態に乗じ」

「その他の意思形成、意思伝達又は意 

 思に従った体の制御が困難な状態を 

 作出し、又は利用して」

「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じ」

 

ドイツ・スウェーデンの法律状況

続いて、No Means No 型の性犯罪規定をもつドイツ、Yes Means Yes型の性犯罪規定をもつスウェーデンにおける法律の状況を説明しました。

 

ドイツでは刑法第177条で明確な不同意を条文に規定しています。

スウェーデンはレイプ罪について規定している刑法第6章第1条の冒頭で「任意で参加しないものに対し」と定め、任意であるか否かについて明確な規定がなされています。加えて、Yes Means Yes 型の特徴として、過失レイプ罪を制定しています。過失レイプ罪とは、他人が自発的に性行為に参加していないという事情に関して注意を著しく怠った者が問われる罪です。それが認定された過去の事案では、スウェーデンの裁判所が「自分の意に反して性的侵害の対象となった者には、Noと言う、あるいは不本意であることを表現する責任はない」と言う立場を表明していると中山は述べました。

小川たまか氏 「被害当事者が見ている社会とは〜暴行・脅迫要件のハードルは『ほとんどない』わけない〜」

『告発と呼ばれるものの周辺で』、『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』の著者で、主に性暴力問題を取材されているライターの小川たまか氏からお話を伺いました。

 

まず、性被害を受けたと認識している人だけでなく、潜在的により多くの人が性被害当事者であり得るという指摘がありました。なぜかと言うと、記者や支援弁護士に辿り着ける被害者は少数派であり、警察で被害が認められないことや、そもそも被害者が自責の念にかられて告発できなくなる場合があるからです。

 

次に小川氏は、EUで同意なき性行為が強姦とみなされるニュースについてのネット上の反応を紹介し、日本社会の認識と現状の差について懸念を示しました。 

暴行脅迫要件のハードルの高さ

続いて、現在の日本では「性的行為」と「性犯罪」を分けるものは「性的同意」ではなく「暴行・脅迫の有無」であり、被害者にとって暴行脅迫要件のハードルがどれだけ高いか、ということを2つの事例を用いて訴えました。

 

例1)7年ぶりに実の娘(13歳)に会った父親が車の中で性的行為を行った事件

この事件で、加害者である父親が課されたのは条例違反に対する罰金のみでした。

理由は以下の通りです。

①被害者は、実の父親がそのような行為をするということに驚き体が固まってしまい、暴行脅迫がなかったため「強制わいせつ罪」は認められなかった。

②被害者と父親が会ったのは7年ぶりで、監護していた事実がなかったため「監護者わいせつ罪」も認められなかった。

当時女の子は13歳でしたが、もし12歳であれば「強制わいせつ罪」が認められていたはずでした。

 

小川氏は、「性的同意年齢を引き上げずとも淫行条例があるから良い」とは言えないと主張しました。淫行条例は罰金刑のみである上に、暴行脅迫要件のハードルの高さを議論している被害当事者にとっては全く筋違いであるからです。

 

例2)19歳の女性がスポーツクラブで会った初対面の男性に誘われ飲酒の上、自宅に連れ込まれた事件

この事件では、加害者の男による「うるせえ、殺すぞ」という発言や、被害者の女性が毛布で口と鼻を塞がれたという事実がありましたが、

①行為を撮影していた動画で「やめて」と女性が言っているが、それは性行為の拒否ではなく撮影の拒否である、とみなされ、「強制性交」が認められなかった。

②意識があり、抵抗できているから「準強制性交」も認められなかった。

という判断の結果、不起訴になりました。

 

被害者にとって暴行脅迫要件、抗拒不能という要件がどれだけハードルが高いかが顕著に表れている事件であると小川氏は指摘します。

不同意性交等罪の必要性

さらに小川氏は、不同意性交が罪になると認められたとしても、不同意を証明する責任は基本的に被害者側にあるのだから、被害者の負担はほとんど減らないのではないか、という議論をイギリスで聞いたことを共有しました。

しかし、不同意性交等罪が認められるような法改正によって、日本社会にある「明確な脅しや暴行があった場合のみが性暴力である」という認識が、「性行為には同意が必要だ」「暴行脅迫がなくても性暴力であり得る」という方向へ改善されることを期待すると述べました。

 

最後に、小川氏個人の所感として、日本社会では冤罪のなかでも性犯罪についてのみ注目度が高いことについても疑問を呈しました。

 

斉藤梓氏「性暴力被害に直面した際の被害者の心理について」

目白大学心理学部カウンセリング学科専任講師の斉藤梓氏は、子どもから大人までを対象に、殺人や性暴力被害といった出来事によるトラウマやPTSD、外傷性の悲嘆などの問題について研究や臨床を行っている専門家です。現在、法制審議会のメンバーとして刑法改正の議論にも参加されています。心理職の立場から、性暴力被害に直面した時に人はどのような状態になるのかについてお話しいただき、今後の刑法改正でどのような実態を踏まえてほしいかを示されました。

性暴力被害に遭遇した際にどのような行動をとるのか

はじめに、男性も女性も積極的な抵抗をしていないという研究結果を示されました。また、たとえ抵抗するといっても、性暴力の被害は長時間続く場合もあるので、被害に遭遇している最中ずっと抵抗をしているわけではないことを強調しました。

 

続いて、研究や臨床治験をもとに、脅威に晒された時の一般的な反応について報告がありました。

 

まず、身体の安全の危機に晒された時は、凍りつき頭が真っ白になる。(Freeze) 

次に意識的にも無意識的にも状況を打開することを考え、闘ったり逃げたりする。

(Flight or Fight)

それでも状況を打開できないとなると、相手を宥めたり友好的な態度を取るといった慣れ親しんだ対処法を取る。(Friend)

それでも危機を乗り切られないとなった時は、意識を切り離す、つまり意識は鮮明だが体が動かない、自分の体から意識が切り離されてふわふわと夢を見ているような状態になったり、自分が身体から離れて遠くからその光景を見ているような気がする、という反応を示すことがある。(解離、Tonic immobility 擬死状態)

そうした被害が継続的に繰り返されると、自分はこう言った状況をどうにもすることができないという感覚(学習性無力感)を感じたり、相手に従う方がまだ危険(殴られたり首をを締められたりすること)が少ないと感じ、加害者に従ったり宥めたりという言動がなされることもある。(Fawn)

 

このように、脅威に晒された時の反応はさまざまであり、「抵抗する」というのはそれらのうちのほんのひとつの行動パターンであるといえます。

 

関係性における抵抗不能

グルーミング 

グルーミングとは、加害者が子どもの環境や重要な他者(親など)に働きかけ、子どもの信頼、依存心や好意を利用して性加害に及んでいくという、「性的手懐け」のことです。

好意や依存心を利用して徐々に近づいていくため、被害者は自分が被害に遭っていることを自覚しにくく、他人への相談がしづらいということが大きな問題点であると斉藤氏は指摘しました。現在法制審議会でも議論されています。

エントラップメント

エントラップメントとは、日常生活の中で加害者が自分の価値を高め、権威づけ、被害者を貶め弱体化し、逃げ道を塞ぎ、突然性的な話題にすり替えて性交を強要することです。女性は従順であることがよしとされる、または、人間関係で波風を立てるべきではない、といった文化規範もあり、被害者は拒絶することが難しいといいます。

 

斉藤氏は、自身が所属する研究チームのメンバーの方の研究を元に、地位関係性を利用した性被害発生のプロセスを説明しました。

 

フェイズI: 性被害が生じる前の加害者と被害者の関係 

加害者は被害者を評価指導する立場で周囲からも被害者からも信頼を集めている場合が多い

フェイズII: 性被害が生じる前段に見られる加害者の動き

加害者が被害者に対してセクハラ・モラハラを行ったり、飲酒させたり、密室を作るといった予兆的行動を取るが、被害者は上下関係やコミュニティにいられなくなる懸念から明確な抵抗ができない

フェイズIII:  性被害の発生

加害者が被害者に性加害をするが、被害者は受け流そうとしたりやんわりもしくは明確に抵抗する場合もあれば、上下関係やハラスメントが行われている状況の中で抵抗すらできない状況に追いやられている場合もある。

※このような状態を「重大な不利益を憂慮される洗脳(心理的支配)、驚愕・困惑・不意打ち」という文言で表現できるかということも法制審議会で議論中だそうです。

フェイズIV: 性被害が生じた後に見られる加害者の動き

加害者は性加害を恋愛感情・好意の表明、指導者の義務、被害者への心理的依存などだとして正当化し、被害者はそれを被害だと認識してしまうとコミュニティにいられなくなると恐れたり、加害者の巧妙な誘導により自己責任化したりしてしまうため、加害者の正当化の一時的受容をすることがある。被害者は身体的精神的不調をきたす場合がある。

フェイズV: 被害者による性被害の自覚と告発

被害者に加害者が愛情をもっていないことが露呈したり、被害者があまりにも深刻な心身の不調から第三者に相談して被害が発覚することがある。

 

加えて、斉藤氏は、一見対等に見える関係性でも性暴力が起こり得ることを指摘し、関係性のある加害者から被害を受けた方々がそれを性暴力だと認識することは今の日本では非常に難しいと訴えました。

性暴力前の予兆行動

関係性のある加害者の場合「予兆行動」が見られる

 

上下関係がある場合

→さまざまなハラスメントをする・飲酒させる・密室を作る等

 

対等な関係の場合

→上下関係を作り出す(被害者を下にみる言動)・事前に性的な誘い、性的でない遊びの誘いを繰り返す・飲酒させる等

 

「暴行・脅迫」のある性暴力はごく一部で、それらを使わずに巧妙に強要する場合や、困惑・驚愕を利用して強要する場合が多い、と斉藤氏は強調しました。これらをできるだけ適切に法律の言葉に落としこむために法制審議会で発言している、と斎藤氏は述べました。

Speak Up, Sophia 「性的同意ってなんだろう」

続いて、上智大学エンパワーメントサークルSpeak Up, Sophia の山崎彩音氏、加藤真央氏のお二人にお話しいただきました。

性的同意を文化にする

まず性的同意を紅茶に例えた動画をご紹介いただきました。


www.youtube.com

 

Speak up, Sophiaとしては、性的同意とは全ての性的な行為について確認されるべき同意のことであり、非強制性、対等性、非継続性が確認されるべき性的行為についての同意であると主張しました。さらに、はっきりNoと言っている場合以外は同意があるとする現在の日本の社会通念を捉え直し、はっきりYesと言っている場合以外は同意がないとすべきであると訴えました。

大学生にとっての性的同意

大学生には、性別問わず性的同意の重要性についての共通認識はあるが、性的同意の具体的内容への理解は不十分であると山崎氏は主張しました。特に、カップル、夫婦、パートナーなど、親密な関係における性的同意の重要性への認識が不十分なのではないかといいます。実際には、顔見知りからの性暴力被害が多数をしめるにもかかわらず、いまだに日本社会では、夜道に1人で歩いているところを襲われるといったレイプ被害のみが性暴力であるといった間違った認識が支配的なのではないかということです。実際に授業内で行ったアンケートの結果によると、性的同意について正しい認識を持っている学生は少ないと懸念を示しました。

 

加藤氏は、日本の性教育の不十分さによって、学生は実際どのように性的同意をとればいいか、性的同意がとれているか、がわかっていないと指摘しました。また、「毎回性的同意を聞くのはムードが壊れないか?」「性行為に対してNOということ=相手を嫌いだと表明すること」のように捉えている学生について言及しました。加藤氏は性的同意をそこまで堅苦しいものではなく、相手をよく知るコミュニケーションの一環だと捉えているといい、性的同意について正しい認識を持っていない学生が多いのは、知る機会が少ないためではないかといいます。Speak Up, Sophia はこの状況を改善するために、大学のオリエンテーションキャンプで性的同意について知らせる試みをしているそうです。

 

パネルディスカッション・Q&A

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イベントの後半には、小川氏、斎藤氏、山崎氏、加藤氏の他に、HRNの伊藤和子、後藤、中山が加わり、パネルディスカッション・Q&Aを行いました。参加者からも興味深いご質問をお寄せいただき、議論も大変盛り上がりました。

 

小川氏と斉藤氏は、性的同意について確実に社会の認識が変わって来ているのは、若い世代の活発な働きかけも一因であると述べ、それに比べて遅れている法制度の改善の必要性を再度訴えました。また、山崎氏は性暴力を女性のみの問題にしてしまうことに疑問を呈しました。中山は、法制審議会で同意について言及されてはいるが、「同意とは一体何なのか」についてより真摯に議論され、共通認識が形成されることを望むと述べました。伊藤は、法制審議会では加害者と被害者の対等性についてや、不同意性交についての現実を正しく認識されていないのではないかと指摘しました。

法の言葉の問題点について

斎藤氏は、法律においては時間のプロセスを幅広くとらえることが困難であり、直前の状態や関係性、行動を言葉にするような作り方しかできないことを問題点に挙げました。小川氏は、法律の言葉が警察官によって現場で被害者を救うために適切に運用される必要性を指摘しました。伊藤は、法改正はただ言葉を変えるだけでなく、実際に被害者を救うような運用をされなければならないと述べ、後藤は、近しい関係に起こった性暴力を訴えることのハードルの高さと、被害者の負担軽減のための法改正が必要だと述べました。

伊藤和子「刑法改正の提案 No Means No から Yes Means Yesまで」

HRN副理事の伊藤和子が、当団体が昨年12月に発表した「刑法性犯罪規定の改正に関する要望書」に基づいて、刑法改正の提案について報告しました。

 

要望書の詳細は、以下のリンクからご覧になれます。

https://hrn.or.jp/news/21204/

 

閉会の挨拶

閉会の挨拶で伊藤は、ゲストスピーカーへの感謝と、刑法改正とYes Means Yes の実現に向けた連帯への期待を述べました。最後に、国際女性デーに寄せて、現在ウクライナミャンマーで過酷な状況に置かれている女性への連帯を呼びかけました。

 

終わりに

このイベントにご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

 

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続き刑法改正、さらにYesMeansYesの実現にむけて、政策提言、調査報告、イベントの開催等を続けて参ります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願い致します。

 

(文・髙理柰)

 

*1:「No Means No」 型の法制度とは、被害者の同意のない性行為は全て「性的暴行」として処罰する法制度のこと(出典:HRN「性犯罪に関する各国法制度調査報告書」)

*2:「Yes Means Yes」型の法制度とは、相手方の自発的意思が明示・黙示に表現されていない場合に性交等をすることを処罰対象とする法制度のこと(出典:同上) 

【イベント報告】2/22開催ウェビナー「デジタル性暴力の現状と課題~大塚咲さんを迎えて~」

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2022年2月22日(火)、ヒューマンライツ・ナウはウェビナー「デジタル性暴力の現状と課題 ~大塚咲さんを迎えて~」を開催いたしました。

 

本ウェビナーでは、NPO法人ぱっぷす理事長の金尻カズナ氏、写真家の大塚咲氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子副理事と共に、デジタル性暴力の現状と課題についてお話しいただきました。

 

 

金尻カズナ氏「~AV出演強要 デジタル性暴力の現状~ ぱっぷすによる報告」

はじめに、ゲストスピーカーの金尻氏に、「~AV出演強要 デジタル性暴力の現状~ ぱっぷすによる報告」というテーマでお話しいただきました。

 

性暴力の被害事例

性的搾取とは、「他者の利益のために、自分の性的同意が侵害されコントロールが奪われた状態のとき」を指します。その種類として、①ポルノグラフィー、②性行為、③その両方が挙げられます。デジタル性暴力は③に該当します。

 

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また、このような性的搾取がはびこる社会的要因についてもお話いただきました。

 

金尻氏は、社会の無関心をボトルネックとして、「性的搾取の深化」「性的搾取に関する法の未整備」「性的搾取を容認する社会」の負のサイクルがあると指摘されます。

 

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性的搾取対処の戦略基盤

次に、性暴力に対処するために重要な戦略基盤について、国連の報告書をもとに説明いただきました。

 

性的搾取の対処の戦略基盤として、「5つのP」と「3つのR」が挙げられました。

具体的な内容は以下の画像の通りです。

 

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ぱっぷすの活動

最後に、金尻カズナ氏が理事長を務めるNPO法人ぱっぷすについて、活動内容とその戦略基盤をお話しいただきました。

 

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活動報告では、2020年以降、若者の経済的困窮などを原因とした団体への新規相談件数が急激に増加している現状についてもお話ししていただきました。また、2022年4月からの成人年齢引き下げによって、18~19歳のさらなる被害増加が見込まれることに懸念を示されています。

 

このようにデジタル性暴力の問題には、まだまだ改善の余地があることが分かります。

金尻氏は、性的搾取の問題は正しく対処することで解決可能であると言います。

 

「性的搾取を自分たちの世代で終わらせるために、共に活動していこう」という力強いメッセージとともに、お話を締めくくられました。

 

大塚咲氏「肖像権と尊厳を守る戦い ~大塚咲さんを迎えて~」

金尻氏に続いて、デジタル性暴力被害の当事者であり現在は写真家として活動されている大塚氏から、インタビュー形式でお話を伺いました。

AV業界の現状

はじめに、AV業界の性暴力被害の現状について、ご自身の経験からお話しいただきました。

 

AV業界においては、業界内の人権侵害に対処する団体としてAV人権倫理機構が2017年に設立されました。しかし、大塚氏によると、まだまだ人権が守られているとはいえない現状があるといいます。

 

例えば、過去の出演作品について、出演者はAV人権倫理機構に販売停止を申請することができます。しかし、その申請にあたっては、以下のような問題点があります。

 

  • 出演作品を自身で探しまとめないといけないこと
  • 実際に削除されるまでに時間がかかること
  • 削除にいつまでも対応してくれないメーカーがいること
  • 販売停止申請ができるのを知らない出演者がいること

 

このようにAV人権倫理機構が発足したものの、十分に機能しきれていないことがわかります。

 

また、出演作品が同意なしでネット上に出回っていることも多く、AV出演者に対する重大な人権侵害が起こっています。



デジタル性暴力被害について

大塚氏自身の被害経験についてもお話しをいただきました。

 

大塚氏は、AV出演を引退して7年後の2019年、無許可で自身の素材がネットに挙げられたことを知りました。元々その素材をもっていたのが既に廃業したプロダクションであったために、大塚氏への連絡も一切なかったそうです。

 

AV業界には、「一度出演許可したのだから後々何をされてもいい」という考えが残っています。しかし、偶然得た性的な素材を無許可で使用することは出演者の人権の侵害に他なりません。

 

被害当時、大塚氏は既に写真家としての新しい活動を始めていました。それにもかかわらず無許可で過去の自身の素材を使用され、自分自身を踏みにじられているように感じたと言います。

 

裁判にかけた想い

また、大塚氏は、自身の素材を勝手に使用したメーカーを裁判で訴え、実質的勝利としての和解を成し遂げています。

 

裁判に至った背景として、出演者の人権を侵害し続けるAV業界の現状を見て「このままでは何も変わらない、何かしなければ」と思ったことが大きかったと言います。

 

裁判で引退後の肖像権が認められたことで、同じようなデジタル性暴力の被害発生に対する抑止力になるのではないか、と大塚氏は締めくくりました。

 

伊藤和子「AV強要とデジタル性暴力の課題解決に向けて」

最後に、ヒューマンライツ・ナウ副理事の伊藤和子から、「AV強要とデジタル性暴力の課題解決に向けて」というテーマでお話をしました。



AV出演強要問題の現状と課題

はじめに、AV出演強要問題の現状について説明しました。

 

2016年3月、ヒューマンライツ・ナウはAV出演強要の深刻な人権侵害状況をまとめた報告書を発表しています。その結果AV出演強要は以前より広く認知され、政府が緊急対策をまとめるに至っています。

 

しかし、政府の対策が以前より進んだにも関わらず、AV出演強要問題には未だ多くの課題があります。

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具体的な課題の1つに、AV出演における「ワンチャンス主義」が挙げられます。

 

通常、著作権は作成後も長く保障されるものですが、性的な画像に関しては「一度使用許可をすればその後は何をされてもいい」というワンチャンス主義が蔓延しています。*1

 

デジタル性暴力被害を防ぐためにも、著作権法について改正し、ワンチャンス主義の修正が必要であると主張しました。

 

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解決に向けて

また、ヒューマンライツ・ナウが提言する具体的な解決案についても説明しました。

 

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本ウェビナーでは特に、契約をいつでも取り消しできるようにすること、児童ポルノと同様の拡散防止措置をとることが主張されました。

 

また、2022年4月の成人年齢引き下げの影響についても触れました。これまで未成年であった1819歳は契約取消権を行使できたものの、2022年4月からは18歳以上が成人として扱われ取消権を使うことができなくなります。*2このことにより、新たに18~19歳を対象にしたAV出演強要被害が増加するおそれがあります。

 

さらなる被害増加を防ぐためには、一刻も早い対策が必要です。

 

閉会の挨拶

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イベントの最後には、登壇者全員からイベントの感想・今後の抱負などが述べられました。

 

そのなかで、コロナ禍による若い女性の困窮化がデジタル性暴力被害に繋がっている現状や、成人年齢引き下げに伴う若者の被害増加のおそれについても話がありました。

 

デジタル性暴力の問題は、まだまだ多くの課題を残しています。

一丸となって引き続き取り組み続けよう、という意思表示でイベントが締めくくられました。

 

おわりに

 

本ウェビナーにご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

 

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続き女性の権利に関するイベントの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

(文・大谷理化)

*1:ワンチャンス主義とは、「実演家の著作隣接権の一つである録音権・録画権について、映画の製作時に自分の実演を録音・録画することを了解した場合には、以後その実演を利用することについて原則として権利が及ばないとする主義」のことです。(出典:東京都行政書士会HP)

*2:未成年の契約取消権とは、「成年者と比べて知識や判断能力の未熟な未成年者が、あやまって契約によって不利益を被らないよう契約を取り消しできる権利」のことです。

【第1弾】ビジネスと人権プロジェクトインタビュー企画 「私たちこうやって『ビジネスと人権』に取り組んでいます」

企業の「ビジネスと人権」の取り組みについて現場の声を伝え、多様なステークホルダーがどのような課題を抱えているのかを共有し、ビジネスと人権の取り組みを促進することを目的としたビジネスと人権インタビュー企画第1弾。ユニ・チャーム株式会社のESG本部 ESG推進部の方々にインタビューをさせていただき、「ビジネスと人権」に取り組む中での課題や葛藤をお話いただきました。

なお、本インタビュー企画は、多様なステークホルダーの活動促進のきっかけ作りとして、各企業のビジネスと人権にかかる取り組みを紹介させて頂くものですが、インタビュー実施以上の事実調査は行っておらず、その取り組みの具体的内容すべてを当団体として保障・賛同するものではございません。

 

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取り組みの現状ときっかけ

ユニ・チャームは、創業当初より経営方針に「人権尊重」を掲げ、2017年には「ユニ・チャームグループ人権方針」を制定するなど人権重視の経営を長年続けていたそうです。より具体的なアクションを強化する様になったのは、2018年1月より「現代奴隷法」が施行されたオーストラリアの現地法人での取り組みがきっかけとなっています。

その後、世界的なESGへの関心の高まりを踏まえ、より積極的に経営課題として取り組むべく、複数部門に分散していたESGに関連する機能を統合し、2020年にESG本部を設置しています。

 

Q:ユニ・チャームにおける「ビジネスと人権」に関する取り組みの現状について教えてください。

人権に関するステートメントを公表しています。具体的には2017年に「ユニ・チャームグループ人権方針」(以下、人権方針)を制定しています。この人権方針をより具体的に推進するために、2009年に制定した「ユニ・チャームグループCSR調達ガイドライン」を「調達基本方針」に昇格させ、合わせて「ユニ・チャームグループサスティナブル調達ガイドライン」を制定しました。

これら方針・ガイドラインを実践する上では、会員制のオンラインプラットフォームに加盟し、このサービスが、企業がグローバルサプライチェーンにおける労働条件を管理・改善し、責任を持って調達できるように提供している実用的なツール、サービス、コミュニティ・ネットワークを活用しています。いくつかの現地法人で以前からサプライヤー会員としてこのプラットフォームを活用していましたが、2020年7月にユニ・チャームグループとして改めてバイヤー・サプライヤー会員として加盟をし直しました。現在は、仕入れ先であるサプライヤー様にも入会を推奨し、入会されたサプライヤー様とはプラットフォーム上でリレーションを結び、人権と持続可能性等に配慮したバリューチェーン構築に取り組んでいます。

なお、ユニ・チャームでは「内から外への原則」という独自の考え方があり、サプライヤー様にこのプラットフォームへの入会・利活用を推奨するには、まず我々がしっかりと実践することが大切だと考えて、自社の工場での利活用を徹底することを第一優先取り組み事項としています。

 

このように、まずは自分たちができることをしっかりやりながら、サプライヤー様とのリレーション締結を進めています。現在、約半数のお取引先様とリレーションを結ぶ段階まで進んでいます。COVID-19の影響もあり、プラットフォーム上でリレーションを結んだお取引先様への監査は延期しており、現地での直接的なデューデリジェンス等を直近2年間は行えておりません。

過去には、タイにおけるペットフードの原料調達先を対象に人権デューデリジェンスを行いました。

 

取り組みの中での課題

どのような点を課題に感じているかを伺いました。取引先のサプライヤーに対しては、購買部などと協力しながら調査を依頼し、プラットフォームの仕組みを活用したり、一社ごとにリモート面談を実施したりするなどして自社のバリューチェーン上の実態把握を進めているそうです。社会的な人権に対する意識の高まりもあり、多くのサプライヤーが協力的だと言います。

しかしながら、調査を進める中で発見された課題に対処することの難しさを感じていると言います。例えば先述の監査において、サプライヤーの工場などの建物に問題が見つかった場合、これを解決するには投資が発生することがあります。投資額の多寡によっては、短期間での是正が難しい場合もあるそうですが、「伝え続ける」ことが重要であり、中長期的に腰を据えた取り組みが必要だと言います。

また、直接取り引きをしている一次サプライヤーに留まらず、二次、三次と末端まで調査を求める風潮が強まる中、どこまで進めるべきかという葛藤もあるようです。担当者は、実際の調査を進めるなかで下記のような懸念点があると言います。

  • 指導力を発揮すればするほど統制機能が強くなり、サプライヤーの自立を損なうリスクが懸念される。
  • 是正要求をくり返している問題に対して改善が見られない場合、具体的なアクション(取引量の減少や、取引停止など)をとる可能性があるが、これによりサプライヤーの従業員に不利益が発生するなど負の影響が懸念される。

 

「ビジネスと人権」浸透の障壁

「ビジネスと人権」についてなかなか浸透しない背景は何かという問いについては、次のような消費者の商品選択が影響していると言います。

  • SDGsの浸透等により、環境への意識は高まっているが、実際に購入する際に「環境に良い」ことが商品選択の理由にはなりにくい。(同じ性能、同じ価格であれば、環境に良いものを選ぶが、性能低下や価格上昇を伴う場合は敬遠される)
  • 「人権に配慮していない」は企業や商品を拒否する理由にはなるが、「人権問題に取り組んでいる」ことが、積極的にその企業や商品、ブランドを選択する理由になるところまで現時点では至っていない。

「人権に配慮したバリューチェーン構築」に取り組んでいることが消費者の商品やサービスを選択する際の理由とならない限り、企業がより積極的に「ビジネスと人権」にコミットする動機づけは発生し難いのでは? と考察されていました。

また、人権に関しては世代間の認識の違いも大きいと話します。50歳以上の世代は人権を「触れ難い、触れたくない」と感じるのに対し、ミレニアルやZ世代の人たちは人権問題について感度が高く、行政はもちろんNPO/NGOや企業にも積極的な対応を期待していると言います。ミレニアルやZ世代の若者は、学校の授業でSDGsを学ぶなど、環境問題や社会課題について豊富な認識を有し、自分たちが積極的に取り組むべきと考えているそうです。しかしながら、意識は高いながらも、20代、30代は経済面で余裕がない場合が多く、社会課題解決に貢献しているからといって、割高な商品・サービスを選択できないケースがあると指摘します。

 

人権への意識を変えるために

社会全般はもちろんビジネス界に人権に関する意識がなかなか高まらない中で、どのような取り組みが求められているかについて考えを伺いました。まず「政府・行政の働きかけが重要」と指摘した上で、次の2点を挙げています。

  • 人権に対して一人ひとりが正しく理解することが大切。義務教育の一環で「道徳」「倫理」を学ぶ機会はあるが「人権」に深く言及した授業は世界的な潮流に比べて拡充する余地が大きい可能性がある。また「人権」という言葉からは「人権運動」等"過去の話し"を思い浮かべる人も一定数存在し、世界的に求められている「ヒューマンライツ(人権)」について、全ての世代が学び直す必要があるのではないか。
  • 企業側は、ステークホルダーが求めている情報開示については対応を進めざるを得ない。また、法制化に至らずとも、「ソフトロー」として一定程度の影響を及ぼす事象にもしっかりと対応していくことが大切。

このような人権に対する幅広い理解に関する重要性は「ビジネスと人権」を勉強する中でも感じると話します。

例えば、消費者の人権リスクである「製品の誤った使用による事故」「不十分な品質チェックや違法検査による製品サービスの安全性欠如」について、ユニ・チャームとしては相当の対応を継続していると考えているそうですが、「人権と関連づけて認識する」といった観点は改善すべきと考えているそうです(認識)。「社員一人ひとりが『今やっている仕事は、どれも人権につながっている』と意識して仕事してもらえるように伝えていかなくてはと思っている」と述べました。

 

今後に向けて

最後に「ビジネスと人権」に取り組む担当者として感じている今後の展望について伺いました。

Q: 今後の展望について教えてください。

基本的に我々が一つのユニ・チャームとして共通の基準で動けることです。その国・地域によって法律、祝日の数も違うのでその地域の行政の指導に従って、適切な企業運営をすることを前提として、なるべくユニ・チャームグループとしてより高い、より厳しい基準で人権も含めた対応をしていきたいと思っています。エシカルカンパニーという言葉も聞かれますが、エシカルな会社とは何かを考え続けることがとても大切だと思います。

 

編集後記

インタビューの中では「取り組みはまだまだ」という言葉が度々登場したのが印象的でした。取り組んでいるからこそ、ゴールなき「ビジネスと人権」への取り組みの難しさを感じていらっしゃるのではないでしょうか。お話を通して、ビジネスにおける人権に取り組む中ではサプライヤー、社員、消費者との関係の中で複雑に絡み合った障壁があるように感じました。同じように現実と理想の狭間で戦う同業他社、他業界、他セクターと葛藤を共有し、ネガティブな方向ではなく、ポジティブな方向へと考え、行動につなげることができるような場が多くの企業に求められているのではないかと思います。

また、人権についての理解を促進することの重要性も再認識しました。まだまだ人権という言葉は私たちの生活と結びつかないことが多いです。身近にあるものだということを様々な角度から伝え続けることが弊団体の重要な役割でもあると感じました。結果として、「人権を意識するビジネスの当事者かつ人権を商品選択の理由とする消費者」が増え、「ビジネスと人権」の取り組みにつながっていくのではないでしょうか。

当団体も引き続きウェビナー等を通じたエンパワーメントに加え、私たちNPOを含めた異なるセクターがつながる場づくりを促進していきたいと思います。

 

(文責:土方薫)

【イベント報告】1/11 開催共催ウェビナー ビジネスと人権ダイアローグ「企業が取り組むべき人権問題としての気候変動」

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ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は1月1日(火) 17時より、ビジネスと人権ダイアローグ第4弾「企業が取り組むべき人権問題としての気候変動」を開催いたしました。

当イベントでは、FoE Japan気候変動・エネルギー担当スタッフの深草 亜悠美氏、第一生命ホールディングス経営企画ユニットフェロー兼第一生命保険運用企画部フェローの銭谷美幸氏、青年環境NGO Climate Youth Japan副代表の黒瀬陽氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、ビジネスと人権の観点から、企業が取り組むべき人権問題としての気候変動についてお話しいただきました。

 

 

開会の挨拶•ビジネスと人権についての動画  

開会の挨拶に引き続き、ビジネスと人権に関する解説動画を流しました。
ぜひご覧ください。


www.youtube.com

 

深草亜悠美氏 「気候変動と人権」

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続いて、ゲストスピーカーの深草亜悠美氏に「気候変動と人権」というテーマでお話いただきました。

気候危機は人道の危機 -歴史的責任(Historical Responsibility)と公平性(Equity)-

気候危機に関しては国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で議論されました。また、IPCCレポート(国連気候変動に関する政府間パネル)の第1作業部会が昨年発表され、近年日本でも気候変動に関する議論が多くなってきたとのことです。

国連環境レポート「排出ギャップレポート (21年英語版)」によると、産業革命時より2度近く平均気温が上昇しており、この数値はパリ協定の定めている1.5度を上回っています。また、現状の削減対策では2.7度の温度上昇の予測になっているので、より包括的で協力的な取り組みが必要とのことです。温室効果ガスの排出に関しては、富裕層(世界人口の約10%)が全体の50%を排出しており、格差問題は気候問題の中でも顕著に見られるとのことでした。

「共通だが差異ある責任原則」にもあるように、資源開発や発展により気候変動を引き起こしてきた一部の先進国や大企業には歴史的責任がある一方、被害は気候変動にもっとも責任のない排出の少ないいわゆる途上国の貧困層や将来世代が受けているため気候正義の視点も重要だと述べました。

化石燃料開発と人権侵害

約8割の二酸化炭素排出が化石燃料を使用することに起因していることから、化石燃料の使用を抑えることが気候変動の対策において重要となってくるとのことです。

ネットゼロ宣言(「温室効果ガスの大気への人為的排出量が、指定された期間の人為的除去量とバランスとれている状態」(IPCC) )が相次いでいますが、化石燃料の生産を縮小させていく具体的な計画がまだ伴っていないのが現状と述べました (Production Gap Report)。

日本政府も2050年ネットゼロ宣言を行っています。化石燃料依存型社会からの転換のための道筋づくりと、転換を支えるための施策をおこなう必要があるとのことです。

また、「対策」への人権・環境配慮を促進していかなければならないというメッセージを最後にいただきました。

例えば、北米で行われた先住民族の抗議活動が挙げられます。ブリティッシュコロンビア州(カナダ)のガス事業に日本の企業や銀行が関与していますが、先住民族の土地を通っており、反対運動が起こっているのが現状です。人権侵害又は弾圧に関係している可能性があるので、開発事業(インフラ等)に関しては人権保護の観点から守られているのか特に確認する必要があるとのことでした。

 

銭谷美幸氏 「機関投資家が期待する企業への気候変動対応」

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続いて、ゲストスピーカーの銭谷美幸氏に「機関家が期待する企業への気候変動対応」というテーマでお話いただきました。

企業が気候変動対応を加速しなければならない理由

ダボス会議等の議題を見ても世界の経営者が認識しているリスクとして気候変動に関する事例が多くなってきているとのことです。そのような流れも考慮して、機関投資家は生物の多様性を含める地球温暖化に関わる包括的な気候変動の問題に関して取り組む必要があると述べました。

ESG投融資に関する日本国内の動き

日本では、2014年スチュワードシップコード(SSC)、2015年コーポレートガバナンスコード(CGC)が制定され、それぞれ3年毎に改訂されることになっています。昨今ではサステイナブルファイナンスが主流になってきており、融資・事業性評価においてもESG視点を取り入れた評価が普通になってきているとのことでした。

第一生命は機関投資家としてどんなことをしているのか

世界中の幅広い資産を保有する「ユニバーサル・オーナー」として、多様なステークホルダーを意識した資産運用を推進しているとのことでした。生命保険会社としての投資原則として、「収益性・安全性・流動性・公共性」を重視し、責任投資を推進することで、中長期的な投資リターンの獲得と社会課題の解決の両立を目指しているそうです。

気候危機対応として投資家が観ているもの

下記が銭谷様より共有いただいた投資家が注目している問題や取り組みです。

  • TCFDの開示
  • 気候関連開示プロトタイプ(Value Reporting Foundation
  • 気候危機対応と関連する生物の多様性の重要性(TNFD)
  • 海洋プラスチック問題
  • COP26
  • 気候変動と訴訟

*より詳しい内容はこちらからも確認できます

https://blog.digitalgrid.com/ 

黒瀬陽氏 「COP26とライフスタイル変革」

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続いて、ゲストスピーカーの黒瀬陽氏に「COP26とライフスタイル変革」というテーマでユース団体としての活動に関してお話いただきました。

COP26と国際社会・日本の状況

日本を含む100カ国以上の国が2030年までに森林破壊を終了させる共同声明を出したこと、また、グラスゴー気候協定内で1.5度目標の明記したことに関して注目をしているとのことでした。

但し、主要会議「ブルーゾーン」の議題に「食」に関する項目があったなかで日本の立場が曖昧だったことを懸念していると述べました。

温室効果ガス排出に占めるフードシステム由来の割合は26%に上り、畜産など動物性食はそのうち58%(全体の約15%)になっているそうです。日本では環境省が「COOL CHOICE」プロジェクトの一環として消費者のアクションとして「旬の食材、地元の食材でつくった菜食を取り入れた健康な食生活」を推奨しています。

プラントベースプロジェクト

次に消費者やサプライヤーベジタリアンショップ、企業など)へのインタビューを通じて、現在、植物性食生活(プラントベース)の実践を妨げている要因を調査した結果を共有していただきました。

個人的な要因としては、周囲の理解の欠如、アレルギー、又は心理的なハードルを挙げました。経済的な要因としては、消費者と供給側の双方が納得いく価格帯や販売経路の確保が難しいとのことでした。社会的、文化的な要因としてはベジタリアンの考え方が普及しておらず偏見もまだあると述べました。

「意識」を変えることに加え、消費者を取りまく情報環境、経済状況、人間関係など「社会的な基盤」を整えてゆくことが必要で、これらは消費者、企業、又は政府が共に取り組む課題になっていると考えているそうです。

パネルディスカッション・Q&A

イベントの後半には深草氏、銭谷氏、黒瀬氏とHRNビジネスと人権プロジェクトスタッフの小園でパネルディスカッション・Q&Aを行いました。参加者からも興味深いご質問をお寄せいただき、議論も大変盛り上がりました。

 

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閉会の挨拶

閉会の挨拶で深草氏は気候変動の問題は人権問題と多方面かつ密接に関わってきていることを再度確認できるウェビナーだったと述べました。また、佐藤暁子事務局次長は気候変動の問題は国際機関、政府、企業、又は市民団体が共に包括的な取り組みを行っていくべきだと締め括りました。

おわりに

このイベントはビジネスと人権ダイアローグの第4弾となりました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続きビジネスと人権に関するダイアローグの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

また、HRNのインスタグラムでも、気候変動についての投稿を4つしているのでそちらもあわせてご覧ください!

 
 
 
 
 
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【イベント報告】 11月16日 ビジネスと人権ダイアローグ 「ビジネスと人権に則ったLGBTQフレンドリーな職場 」

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ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2021年11月16日にビジネスと人権ダイアローグ第3弾「ビジネスと人権に則ったLGBTQフレンドリーな職場」を開催いたしました。

当イベントでは、認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀氏、入間市議会議員の細田智也氏、株式会社JobRainbow代表取締役CEOの星賢人氏をスピーカーとして迎えました。「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」の観点から職場のダイバーシティ&インクルージョンの現状を学び、企業や社員としてその促進にどのように貢献できるのか考えました。

 

ビジネスと人権に関する動画

開会の挨拶に引き続き、ビジネスと人権に関する解説動画を流しました。ぜひご覧ください。


www.youtube.com

村木真紀氏「データで見るLGBTQと職場」

f:id:humanrightsnow:20220308173445p:plainLGBT の世界・日本の現状

まずはじめに世界・日本でのLGBTの現状についてお話いただきました。LGBTであることを犯罪とみなす国もあればLGBTの差別が法律で禁止されている国もあり、LGBTを取り巻く環境は世界で大きく異なっています。日本では国レベルでの法整備は進んでいませんが、自治体レベルでのLGBT施策は進んでいます。日本人口の40%以上をカバーする自治体で同性パートナーシップが制定されており、登録は200組を超えているとのことです。2015年から始まったこの制度がここまでの広がりを見せているのは、自治体に住む当事者が声をあげ続けてきたことの成果だと村木氏は言います。

職場におけるLGBTの実態

続いてアンケートのデータを参照しながら、現在の職場におけるLGBTの実態についてお話いただきました。

LGBT施策を行なっている企業は全企業の約10%で、大企業に比べ中小企業が取り残されていると言います。

また、コロナ禍ではLGBTを取り巻く環境は悪化しており、2020年に行われた調査ではトランスジェンダーの多くが「預金残高1万円以下」を経験しており、なかでも、生まれが女性でトランスジェンダーの方が他の属性と比較して年収が低いことが示されています。その原因としては出生時の性別、非正規雇用、転職の多さ、メンタルヘルス、年齢(Xジェンダーと回答する人は若い傾向にある)があげられます。さらに付随する問題として男女の賃金格差、教育・職場からの排除、就職差別があると言います。トランスジェンダーの中には職場でなかなか自分のことが言い出せず、職場を転々としてしまう人が多くいると言います。

LGBTの当事者が望まず、他人にセクシュアリティをバラされてしまう「アウティング」のリスクも潜んでいると村木氏は指摘します。

職場での差別的言動は未だに多く、LGBTのモチベーションにマイナスの影響を与えていることが明らかになっています。逆に差別的言動を抑制することができれば、働き続けることができる人も増えるため、差別をどう抑制していくかが課題だと強調しました。

LGBT施策の数が多いほど、そして職場にLGBTのアライ(同盟者・支援者)がいる場合に心理的安全性が高いことが明らかになっています。複数の施策を重ね、「アライの見える化」を進めていくことが大切だと言います。

「ビジネスと人権に関する指導原則」からみたLGBT施策

最後に村木氏が考えるLGBT施策の最低限必要なラインについて指導原則の三本柱である「保護」「尊重」「救済」の観点から紹介していただきました。

  • 保護(国家の義務)

企業は現在のLGBTQに関する法制度を確認

  • 尊重(企業の責任)

企業内での人権方針を、日本の法律の基準ではなく、人権に関する取り組みが進んでいる国に合わせたグローバルな基準で設定、人権リスクを洗い出してその予防を行う人権デュー・デリジェンスを自社だけではなくお客様や取引先についても実施

  • 救済

人権被害が発生した時に対応できるさまざまな相談先を用意、LGBTQの従業員グループの支援

村木氏はこれらの取り組みは最低基準であり、さらに施策を進めるためには、そもそものジェンダー平等の推進、国の法整備の後押し、自治体施策への協力、LGBTQの生活課題に関する商品やサービスの支援、LGBTQ支援団体の支援などに同時に取り組んでいく必要があると強調しました。

 

細田智也氏「入間市パートナーシップ、ファミリーシップ導入について」「日本と世界の現状:職場でのLGBTQの人々に対する差別への取り組み」「LGBTQの人々の権利尊重のための行政機関の責任」

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入間市パートナーシップ、ファミリーシップ導入について

入間市は「性別にとらわれず、一人一人がお互いの人権を尊重し、多様な生き方や価値観を認め合い、誰もが自分らしく、生き生きと生活ができる社会」の実現を目指して令和3年9月1日からパートナーシップ、ファミリーシップを導入しています。

同性パートナーがいることを可視化し、人々の人権意識を変えることも目的としています。令和3年9月1日現在で2組のカップルが届け出ています。

続いて、地方自治体における同性パートナーシップ制度導入に見られる共通した課題を紹介いただきました。大きく分けて以下のの5点があげられます:

①法的な効力や社会保障がない

 ・婚姻の場合に認められるような相続の権利

 ・税法上の扶養

 ・医療行為の同意

 ・遺族厚生年金の対象にならない など

②全国で統一された基準がない

③転入・転出の際には転入先で改めて宣誓しなければならない

④民間企業の方が公的機関よりもサービス適用が進んでいる

⑤制度の認知が低く、市内の事業所で配偶者として対応してもらえるかは未知数

日本と世界の現状:職場でのLGBTQの人々に対する差別への取り組み

続いてLGBTQへの取り組みについて日本と世界の状況を比較してお話いただきました。

同性間での合意に基づく性行為を禁止する国がある一方で、世界では80以上の国や地域で性的指向による雇用差別を禁止しています。G7の中で法的にLGBTへの差別を禁止していないのは日本だけです。

日本は性的指向と差別撤廃に関する法整備を国連の人権条約機関から再三勧告されていますが、いまだ実現されていません。2021年、オリンピック・パラリンピック東京大会の直前にはLGBTに関する法案の成立が期待されていましたが、自民党の反発などにより法案提出が見送られてしまいました。

LGBTに関する取り組みが着実に進んできている国際社会から日本は取り残されてしまっていると細田氏は警告します。

LGBTQの人々の権利尊重のための行政機関の責任

最後にLGBTQの人々の権利尊重に関する行政機関の責任についてお話いただきました。

まず、国の法整備が必要だと強調します。意識啓発は当たり前で、人権侵害を予防し、発生した場合の救済措置が必要であり、法律にはその実効性が求められていると指摘されました。

また地方自治体においては、以下のような制度の充実が重要だと述べられました。

自治体の条例及び計画に基づく施策

・企業の取り組みを可視化し雇用創出する施策

・電話相談窓口の開設・意識啓発

・パートナーシップ制度

上記の施策に対応するような、入間市での具体的な施策もご紹介いただきました。

・性的マイノリティに限定した心理カウンセラーを設置して悩み事相談ができる

・支援団体の設置をバックアップした行政と支援団体の両輪での取り組み

入間市として国に少しでも働きかけられるような取り組みを進めていきたいと細田氏は今後の意気込みを述べました。

星賢人氏「Job Rainbowについて・一社員としてのアクション・LGBTQ+フレンドリーな会社」

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就活生・転職者に起きている問題

まずはじめに、星氏が代表取締役CEOを務めるLGBTフレンドリーな会社に特化した求人プラットフォーム Job Rainbow を紹介いただいた後、LGBTの就活生・転職者に起きている問題についてお話いただきました。

彼らの悩みに真っ先にあがるのは、ロールモデルがいないことや、不安を共有できるコミュニティが見つけられず孤独になってしまうことのようです。職場環境の中で孤立してしまい、転職する方も多く、職が安定しない課題もあります。また面接のなかで当事者がカミングアウトした際に、面接官の配慮にかける言動があった事例も報告されています。89%のLGBTの志望者がフレンドリーな環境を求めており、企業の取り組みが求められています。

取り組みを行なっている企業の例として、人手不足に悩むタクシー業界や飲食店業界がLGBTの採用を促進し、その取り組みによってさらに会社内部の環境を改善していく動きや、鉄道業界でのEラーニングの受講によりLGBTに対する理解度が高まった事例などを紹介いただきました。

一つひとつの取り組みが企業環境を変えていき、それが企業の魅力になるということがだんだんと広がりつつあると星氏は言います。

社員としてできること

次に一社員として何ができるのかについてお話いただきました。

アライになると聞くと、積極的に何かすることを想像しますが、消極的に「しない」ことも大切だと星氏は指摘します。

具体的には:

・偏見に基づいた言動を行わない

・相手がLGBTQ+だとわかっても態度を変えない

・当事者がいるかもと思っても本人の同意なく性自認性的指向を質問しない(当事者自らがカミングアウトしやすい環境を作っていく)

また、積極的な行動は以下のものがあげられます:

・困っている人がいたら話を変えて助け舟を出す

・周りに自分がアライであることをさりげなく表明する

・周りの人の言動にフィードバックし、自身も受け入れる姿勢を持つ

そしてこのような一人ひとりの行動が会社の事業そのものを変えると言います。

実際に薬局会社では社内研修など取り組みの結果、新たなデザインの生理商品の開発に繋がったそうです。またメッセージを出して世の中の変革を促すようなインクルーシブ・マーケティング*の動きも広がっていると言います。

どのように組織変革に繋げていくのか

最後にどのように組織変革を行なっていくのかについてお話しされました。自社がダイバーシティに関して今どんな状況に置かれているのか客観視し、「なぜやるのか」という幹の部分をしっかりと作った上で、自発的に行動する社員を増やしていくことが求められると述べました。

その際、グループ、部署、役職を超えたコミュニケーションを取る「コミュニティドリブン」の組織づくりが大切です。経営陣とダイバーシティ推進室だけではなく、一般社員の中の当事者、または当事者を支援したいと思う社員などのアライコミュニティの方々が積極的に参加し、全社を巻き込んだ体制を作っていくことの重要性を星氏は強調しました。

パネルディスカッション・Q&A

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発表の後、登壇者3名とビジネスと人権プロジェクトスタッフの小園でのパネルディスカッション・Q&Aセッションを行いました。参加者からも興味深いご質問をお寄せいただき、議論も大変盛り上がりました。

閉会の挨拶

閉会の挨拶で佐藤暁子事務局次長は、アライでいることを心の中で思うだけではなく可視化することの大切さが再認識したとコメントしました。また一企業だけの取り組みでは足りず、願わくは政策提言まで声を上げることにつながればと述べました。

ヒューマンライツ・ナウとして今後もLGBTQに関する取り組みを促進するための後押しをし、団体としてもアライであることを発信していきたいと締めくくりました。

おわりに

このイベントはビジネスと人権ダイアローグの第3弾となりました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続きビジネスと人権に関するダイアローグの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

*インクルーシブ・マーケティング:社会における人々の多様性を価値として積極的に捉え、クライアントのマーケティング活動全体の核心を目指すもの

出典: 「インクルーシブ・マーケティング」Showcase(ショーケース)-電通ウェブサイト

 

 

(文責 土方薫)

【イベント報告】10/12開催提言書公表ウェビナー「中小企業における実効的なグリーバンスメカニズムの導入について」

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ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は10月12日、提言書公表ウェビナー「中小企業における実効的なグリーバンスメカニズムの導入について」を開催いたしました。

ウェビナーに先立って公表した提言書「中小企業における実効的なグリーバンスメカニズムの導入について」の内容をHRNの佐藤暁子事務局次長が紹介し、中小企業家同友会全国協議会斉藤一隆氏よりコメントを頂戴しました。

 

ビジネスと人権では、サプライチェーンの問題が注目されており、人権問題に取り組む必要があるとの認識が広まるにつれ、サプライヤーとして日本の生活全体を支えている中小企業に大きな影響が出てくると考えられます。また、大企業がビジネスと人権の問題に取り組む際には、サプライヤーである中小企業とともに課題解決を目指すことも想定されます。そこで、HRNは中小企業における救済制度(以下グリーバンスメカニズム)の導入について提言書を作成しました。

(提言書はこちらからご覧いただけます。https://hrn.or.jp/news/20640/

 

 



ビジネスと人権とは

こちらのリンクからビジネスと人権についての解説動画をご確認いただけます。中小企業での取り組みの一助として、ぜひご覧ください。(ビジネスと人権基礎知識)


www.youtube.com

 



国連ビジネスと人権に関する指導原則(以下指導原則)の3つの柱は、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、救済へのアクセスの確保です。本ウェビナーでは、3つめの救済へのアクセスの確保に重点を置きました。

 

企業による人権侵害のリスクはゼロにはできないので、可能な限り人権リスクを最小化するために、人権侵害の被害者に適時に適切な救済へのアクセスを提供する必要があります。ビジネスによる人権侵害は、経営上のリスクに直結するため人の権利を保護するという観点を中心に置くことが重要であると佐藤氏は強調しました。

 

グリーバンスメカニズム

日本政府は、2020年に指導原則に基づき、どのようにしてビジネスと人権を日本に浸透させるかという計画を示したロードマップ「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(以下NAP)を作成しました。日本政府が企業に対して期待していることは、人権方針の作成、人権デューデリジェンスの実施、グリーバンスメカニズムの構築です。



グリーバンスメカニズムの対象となる権利は、国際人権基準で認められている全ての権利です。

 

例えば、強制労働の禁止・社会保障を受ける権利・児童労働の禁止・差別を受けない権利・公正かつ適切な労働基準で労働する権利などが挙げられます。法務省人権擁護局が作成した「いま企業に求められる『ビジネスと人権』への対応」でも具体的な権利の一覧が記載されており、救済へアクセスすること自体も権利の一つとされています。救済施策にアクセスすることおよび侵害されている権利が守られることの両方が重要となります。

 

ビジネスと人権と中小企業の関係

指導原則は企業の規模を問わず、中小企業にも適用されます。

また、日本企業全体のうち、中小企業が占める割合は99.7%であるため、市民生活に非常に大きな影響を持っており、自社の従業員の人権を尊重した持続的な事業が期待されています。さらに、取引先、特に大企業から、中小企業が人権を尊重する活動を実践していることを評価される可能性があります。

 

どのようなグリーバンスメカニズムを構築すべきか

企業がグリーバンスメカニズムを構築する際に、どのような要素を備えるべきなのでしょうか。指導原則31は、以下の要素を含む制度の構築を求めています。

(a)正当性がある

(b)アクセスすることができる

(c)予測可能である

(d)公平である

(e)透明性がある

(f)権利に矛盾しない

(g)継続的学習の源となる

(h)エンゲージメントおよび対話に基づく

 

各要素につき、HRNとして対応方法を提言します。

 

(a)正当性

利用者が安心してグリーバンスメカニズムを行使できるようにするために、通報対応の管理をする責任部署を明確化するなどの正当性を備える必要がある(b)アクセスすることができる

グリーバンスメカニズムへアクセスする障壁を除去するために、利用者からの認知の不足、外国人労働者の使用言語、どこに通報内容を集約させるか(海外にも支店がある場合などは、特に重要になる)という問題に取り組む。

 

(c)予測可能である

まず通報対応プロセスが確立される必要がある。どのように自分の申立てが取り扱われるか、どれぐらい時間が掛かるのかが、きちんと利用者にとって明確になっている必要がある。そのためにも、企業内部において制度をきちんと整備する必要があり、通報対応プロセスとしては以下のようなものが望ましいと考えられる。

 

①人権侵害の申立ての受付

②人権侵害の程度が深刻か否かに応じて(経営リスクに応じてではない)、対応の具体的なプロセスを決定する

③一方当事者からの申告であるため、事実を調査する

④当事者との対話により、申告者がどのような解決を望んでいるのかを把握する

⑤是正措置の決定

⑥是正措置の実施、モニタリング

 

(d)公平である

制度の利用者が公平な条件のもとで、情報・助言・専門知識へのアクセスができるようにする。グリーバンスメカニズム利用者と企業では、専門知識や財源に格差があるため、必要に応じて第三者が関与する。

 

(e)透明性がある

申立てに対する進捗状況の共有・事例の研究・具体的な事案への対応に関して詳細な情報の共有が必要となる。中小企業においてリソースが限定されている場合には、情報共有など実行に関して課題も予想されるが、制度が機能していることを示すことは企業の信頼性を高めるため、取り組む必要がある。

 

(f)権利に矛盾しない

救済のプロセスおよび救済結果が、国際的な人権基準に合致する必要がある。例えば、研修などを行い国際人権の内容を共有する。

 

(g)継続的学習の源となる

通報の頻度、パターン、要因を定期的に分析して、制度が実際に機能しているか確認し、より良い仕組みにするための改善点を探る。

 

(h)エンゲージメントおよび対話に基づく

ステークホルダーとの対話により、より良い制度を目指す。まずは従業員と対話し、さらにNGOとの対話により、どのようなグリーバンスメカニズムを構築することが望ましいのかを検討し、制度の実効性を担保する必要がある。



グリーバンスメカニズムの取り組みのポイント

①人へのリスクを経営リスクと同様にシビアに考える必要がある。

②信頼され、実際に使用される制度設計を目指す。

 

実際に使用される制度を目指すために、まずは利用者が、権利を侵害されている状態なのかを自覚できることが前提となります。つまり、グリーバンスメカニズムの利用を促すために、利用者自身がどのような権利を持っているのか認識していることが重要です。そうした権利を知る機会が得られるよう企業側が配慮することも求められます。

 

中小企業に対する提言

・優先順位付け

申立・提言・通報がどの権利侵害にあたるかを確認し、深刻度によって取り組む優先順位をつける。

 

・既存の制度を活用する

経営会議などの場を指導原則に沿った形で運用していく。

 

・簡易な方法からスタート

どの規模の企業でも全ての要素を満たすのは難しい。目安箱などを設置することなどのステップを踏み、最終的なゴールを設定する際には、提言の内容を踏まえて検討していく。

 

・第三者との協働

外部企業または業界全体で協働する。

 

ステークホルダーとの対話

中小企業ならではの対話の方法もあり得る。



政府への提言

中小企業だけでは、実効的なグリーバンスメカニズムの構築に限界があるため、HRNは日本政府に対しても以下の3点を提言します。

 

・中小企業が参加できる公的なグリーバンスメカニズムの設置

・中小企業の特性を考慮した情報発信 

政府機関等による現在の情報発信の内容が必ずしも中小企業に適しているとはいえないため、中小企業への聞き取りを通じて、実効性を担保できる発信を行うことを期待する。

・中小企業によるグリーバンス導入への支援

 

通報のフォーマット案

提言書とともに、通報のフォーマット案も公表しました。

※こちらよりダウンロードが可能です。https://hrn.or.jp/news/20640/

 

当フォーマット案を使わなければならないということではありませんが、このまま使用することも可能です。また、当フォーマット案を使用して、通報の内容についてどのような項目があると利用しやすいか、通報方法は紙でいいのか、オンラインがいいのかなど、従業員との対話のきっかけにしていただければと思います。

 

斉藤氏からのコメント

提言書の作成の際には、斉藤氏からお話を伺い、コメントを頂戴しました。そして、当ウェビナーにおいても、提言書についてコメントを頂きました。

 

斉藤氏は、中小企業家同友会全国協議会に所属しており、同会は中小企業の経営者が自主的に設立した団体で、全国4万6000名の経営者が参加し、人間尊重・人を活かす経営を目指して活動しています。まず、指導原則の理解については、同会の中心役員には広まりつつあるが、まだまだ一般の会員である経営者に関してはこれからとの問題意識を共有していただきました。

 

また、様々な団体が中小企業の立場から発言してもらうことは中小企業にとっても有益であり、中小企業におけるグリーバンスメカニズムの構築についての提言は示唆に富んでいるとの評価をいただきました。

 

特に、「優先順位をつける」、「既存の制度を利用する」、「簡易的な制度から始める」という提言については、中小企業の現状を反映しているといえると感想を述べていただきました。

さらに、政府に対する提言については、中小企業家として、提言内容が政府によって実行されることを期待していると述べられました。





おわりに

 私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続きビジネスと人権に関するイベントの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 当ウェビナーで紹介した提言書「中小企業における実効的なグリーバンスメカニズムの導入について」も、SNS等でのご共有をお願いいたします。