HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

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【第1弾】ビジネスと人権プロジェクトインタビュー企画 「私たちこうやって『ビジネスと人権』に取り組んでいます」

企業の「ビジネスと人権」の取り組みについて現場の声を伝え、多様なステークホルダーがどのような課題を抱えているのかを共有し、ビジネスと人権の取り組みを促進することを目的としたビジネスと人権インタビュー企画第1弾。ユニ・チャーム株式会社のESG本部 ESG推進部の方々にインタビューをさせていただき、「ビジネスと人権」に取り組む中での課題や葛藤をお話いただきました。

なお、本インタビュー企画は、多様なステークホルダーの活動促進のきっかけ作りとして、各企業のビジネスと人権にかかる取り組みを紹介させて頂くものですが、インタビュー実施以上の事実調査は行っておらず、その取り組みの具体的内容すべてを当団体として保障・賛同するものではございません。

 

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取り組みの現状ときっかけ

ユニ・チャームは、創業当初より経営方針に「人権尊重」を掲げ、2017年には「ユニ・チャームグループ人権方針」を制定するなど人権重視の経営を長年続けていたそうです。より具体的なアクションを強化する様になったのは、2018年1月より「現代奴隷法」が施行されたオーストラリアの現地法人での取り組みがきっかけとなっています。

その後、世界的なESGへの関心の高まりを踏まえ、より積極的に経営課題として取り組むべく、複数部門に分散していたESGに関連する機能を統合し、2020年にESG本部を設置しています。

 

Q:ユニ・チャームにおける「ビジネスと人権」に関する取り組みの現状について教えてください。

人権に関するステートメントを公表しています。具体的には2017年に「ユニ・チャームグループ人権方針」(以下、人権方針)を制定しています。この人権方針をより具体的に推進するために、2009年に制定した「ユニ・チャームグループCSR調達ガイドライン」を「調達基本方針」に昇格させ、合わせて「ユニ・チャームグループサスティナブル調達ガイドライン」を制定しました。

これら方針・ガイドラインを実践する上では、会員制のオンラインプラットフォームに加盟し、このサービスが、企業がグローバルサプライチェーンにおける労働条件を管理・改善し、責任を持って調達できるように提供している実用的なツール、サービス、コミュニティ・ネットワークを活用しています。いくつかの現地法人で以前からサプライヤー会員としてこのプラットフォームを活用していましたが、2020年7月にユニ・チャームグループとして改めてバイヤー・サプライヤー会員として加盟をし直しました。現在は、仕入れ先であるサプライヤー様にも入会を推奨し、入会されたサプライヤー様とはプラットフォーム上でリレーションを結び、人権と持続可能性等に配慮したバリューチェーン構築に取り組んでいます。

なお、ユニ・チャームでは「内か外への原則」という独自の考え方があり、サプライヤー様にこのプラットフォームへの入会・利活用を推奨するには、まず我々がしっかりと実践することが大切だと考えて、自社の工場での利活用を徹底することを第一優先取り組み事項としています。

 

このように、まずは自分たちができることをしっかりやりながら、サプライヤー様とのリレーション締結を進めています。現在、約半数のお取引先様とリレーションを結ぶ段階まで進んでいます。COVID-19の影響もあり、プラットフォーム上でリレーションを結んだお取引先様への監査は延期しており、現地での直接的なデューデリジェンス等を直近2年間は行えておりません。

過去には、タイにおけるペットフードの原料調達先を対象に人権デューデリジェンスを行いました。

 

取り組みの中での課題

どのような点を課題に感じているかを伺いました。取引先のサプライヤーに対しては、購買部などと協力しながら調査を依頼し、プラットフォームの仕組みを活用したり、一社ごとにリモート面談を実施したりするなどして自社のバリューチェーン上の実態把握を進めているそうです。社会的な人権に対する意識の高まりもあり、多くのサプライヤーが協力的だと言います。

しかしながら、調査を進める中で発見された課題に対処することの難しさを感じていると言います。例えば先述の監査において、サプライヤーの工場などの建物に問題が見つかった場合、これを解決するには投資が発生することがあります。投資額の多寡によっては、短期間での是正が難しい場合もあるそうですが、「伝え続ける」ことが重要であり、中長期的に腰を据えた取り組みが必要だと言います。

また、直接取り引きをしている一次サプライヤーに留まらず、二次、三次と末端まで調査を求める風潮が強まる中、どこまで進めるべきかという葛藤もあるようです。担当者は、実際の調査を進めるなかで下記のような懸念点があると言います。

  • 指導力を発揮すればするほど統制機能が強くなり、サプライヤーの自立を損なうリスクが懸念される。
  • 是正要求をくり返している問題に対して改善が見られない場合、具体的なアクション(取引量の減少や、取引停止など)をとる可能性があるが、これによりサプライヤーの従業員に不利益が発生するなど負の影響が懸念される。

 

「ビジネスと人権」浸透の障壁

「ビジネスと人権」についてなかなか浸透しない背景は何かという問いについては、次のような消費者の商品選択が影響していると言います。

  • SDGsの浸透等により、環境への意識は高まっているが、実際に購入する際に「環境に良い」ことが商品選択の理由にはなりにくい。(同じ性能、同じ価格であれば、環境に良いものを選ぶが、性能低下や価格上昇を伴う場合は敬遠される)
  • 「人権に配慮していない」は企業や商品を拒否する理由にはなるが、「人権問題に取り組んでいる」ことが、積極的にその企業や商品、ブランドを選択する理由になるところまで現時点では至っていない。

「人権に配慮したバリューチェーン構築」に取り組んでいることが消費者の商品やサービスを選択する際の理由とならない限り、企業がより積極的に「ビジネスと人権」にコミットする動機づけは発生し難いのでは? と考察されていました。

また、人権に関しては世代間の認識の違いも大きいと話します。50歳以上の世代は人権を「触れ難い、触れたくない」と感じるのに対し、ミレニアルやZ世代の人たちは人権問題について感度が高く、行政はもちろんNPO/NGOや企業にも積極的な対応を期待していると言います。ミレニアルやZ世代の若者は、学校の授業でSDGsを学ぶなど、環境問題や社会課題について豊富な認識を有し、自分たちが積極的に取り組むべきと考えているそうです。しかしながら、意識は高いながらも、20代、30代は経済面で余裕がない場合が多く、社会課題解決に貢献しているからといって、割高な商品・サービスを選択できないケースがあると指摘します。

 

人権への意識を変えるために

社会全般はもちろんビジネス界に人権に関する意識がなかなか高まらない中で、どのような取り組みが求められているかについて考えを伺いました。まず「政府・行政の働きかけが重要」と指摘した上で、次の2点を挙げています。

  • 人権に対して一人ひとりが正しく理解することが大切。義務教育の一環で「道徳」「倫理」を学ぶ機会はあるが「人権」に深く言及した授業は世界的な潮流に比べて拡充する余地が大きい可能性がある。また「人権」という言葉からは「人権運動」等"過去の話し"を思い浮かべる人も一定数存在し、世界的に求められている「ヒューマンライツ(人権)」について、全ての世代が学び直す必要があるのではないか。
  • 企業側は、ステークホルダーが求めている情報開示については対応を進めざるを得ない。また、法制化に至らずとも、「ソフトロー」として一定程度の影響を及ぼす事象にもしっかりと対応していくことが大切。

このような人権に対する幅広い理解に関する重要性は「ビジネスと人権」を勉強する中でも感じると話します。

例えば、消費者の人権リスクである「製品の誤った使用による事故」「不十分な品質チェックや違法検査による製品サービスの安全性欠如」について、ユニ・チャームとしては相当の対応を継続していると考えているそうですが、「人権と関連づけて認識する」といった観点は改善すべきと考えているそうです(認識)。「社員一人ひとりが『今やっている仕事は、どれも人権につながっている』と意識して仕事してもらえるように伝えていかなくてはと思っている」と述べました。

 

今後に向けて

最後に「ビジネスと人権」に取り組む担当者として感じている今後の展望について伺いました。

Q: 今後の展望について教えてください。

基本的に我々が一つのユニ・チャームとして共通の基準で動けることです。その国・地域によって法律、祝日の数も違うのでその地域の行政の指導に従って、適切な企業運営をすることを前提として、なるべくユニ・チャームグループとしてより高い、より厳しい基準で人権も含めた対応をしていきたいと思っています。エシカルカンパニーという言葉も聞かれますが、エシカルな会社とは何かを考え続けることがとても大切だと思います。

 

編集後記

インタビューの中では「取り組みはまだまだ」という言葉が度々登場したのが印象的でした。取り組んでいるからこそ、ゴールなき「ビジネスと人権」への取り組みの難しさを感じていらっしゃるのではないでしょうか。お話を通して、ビジネスにおける人権に取り組む中ではサプライヤー、社員、消費者との関係の中で複雑に絡み合った障壁があるように感じました。同じように現実と理想の狭間で戦う同業他社、他業界、他セクターと葛藤を共有し、ネガティブな方向ではなく、ポジティブな方向へと考え、行動につなげることができるような場が多くの企業に求められているのではないかと思います。

また、人権についての理解を促進することの重要性も再認識しました。まだまだ人権という言葉は私たちの生活と結びつかないことが多いです。身近にあるものだということを様々な角度から伝え続けることが弊団体の重要な役割でもあると感じました。結果として、「人権を意識するビジネスの当事者かつ人権を商品選択の理由とする消費者」が増え、「ビジネスと人権」の取り組みにつながっていくのではないでしょうか。

当団体も引き続きウェビナー等を通じたエンパワーメントに加え、私たちNPOを含めた異なるセクターがつながる場づくりを促進していきたいと思います。

 

(文責:土方薫)