HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

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【イベント報告】 11月16日 ビジネスと人権ダイアローグ 「ビジネスと人権に則ったLGBTQフレンドリーな職場 」

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ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2021年11月16日にビジネスと人権ダイアローグ第3弾「ビジネスと人権に則ったLGBTQフレンドリーな職場」を開催いたしました。

当イベントでは、認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀氏、入間市議会議員の細田智也氏、株式会社JobRainbow代表取締役CEOの星賢人氏をスピーカーとして迎えました。「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」の観点から職場のダイバーシティ&インクルージョンの現状を学び、企業や社員としてその促進にどのように貢献できるのか考えました。

 

ビジネスと人権に関する動画

開会の挨拶に引き続き、ビジネスと人権に関する解説動画を流しました。ぜひご覧ください。


www.youtube.com

村木真紀氏「データで見るLGBTQと職場」

f:id:humanrightsnow:20220308173445p:plainLGBT の世界・日本の現状

まずはじめに世界・日本でのLGBTの現状についてお話いただきました。LGBTであることを犯罪とみなす国もあればLGBTの差別が法律で禁止されている国もあり、LGBTを取り巻く環境は世界で大きく異なっています。日本では国レベルでの法整備は進んでいませんが、自治体レベルでのLGBT施策は進んでいます。日本人口の40%以上をカバーする自治体で同性パートナーシップが制定されており、登録は200組を超えているとのことです。2015年から始まったこの制度がここまでの広がりを見せているのは、自治体に住む当事者が声をあげ続けてきたことの成果だと村木氏は言います。

職場におけるLGBTの実態

続いてアンケートのデータを参照しながら、現在の職場におけるLGBTの実態についてお話いただきました。

LGBT施策を行なっている企業は全企業の約10%で、大企業に比べ中小企業が取り残されていると言います。

また、コロナ禍ではLGBTを取り巻く環境は悪化しており、2020年に行われた調査ではトランスジェンダーの多くが「預金残高1万円以下」を経験しており、なかでも、生まれが女性でトランスジェンダーの方が他の属性と比較して年収が低いことが示されています。その原因としては出生時の性別、非正規雇用、転職の多さ、メンタルヘルス、年齢(Xジェンダーと回答する人は若い傾向にある)があげられます。さらに付随する問題として男女の賃金格差、教育・職場からの排除、就職差別があると言います。トランスジェンダーの中には職場でなかなか自分のことが言い出せず、職場を転々としてしまう人が多くいると言います。

LGBTの当事者が望まず、他人にセクシュアリティをバラされてしまう「アウティング」のリスクも潜んでいると村木氏は指摘します。

職場での差別的言動は未だに多く、LGBTのモチベーションにマイナスの影響を与えていることが明らかになっています。逆に差別的言動を抑制することができれば、働き続けることができる人も増えるため、差別をどう抑制していくかが課題だと強調しました。

LGBT施策の数が多いほど、そして職場にLGBTのアライ(同盟者・支援者)がいる場合に心理的安全性が高いことが明らかになっています。複数の施策を重ね、「アライの見える化」を進めていくことが大切だと言います。

「ビジネスと人権に関する指導原則」からみたLGBT施策

最後に村木氏が考えるLGBT施策の最低限必要なラインについて指導原則の三本柱である「保護」「尊重」「救済」の観点から紹介していただきました。

  • 保護(国家の義務)

企業は現在のLGBTQに関する法制度を確認

  • 尊重(企業の責任)

企業内での人権方針を、日本の法律の基準ではなく、人権に関する取り組みが進んでいる国に合わせたグローバルな基準で設定、人権リスクを洗い出してその予防を行う人権デュー・デリジェンスを自社だけではなくお客様や取引先についても実施

  • 救済

人権被害が発生した時に対応できるさまざまな相談先を用意、LGBTQの従業員グループの支援

村木氏はこれらの取り組みは最低基準であり、さらに施策を進めるためには、そもそものジェンダー平等の推進、国の法整備の後押し、自治体施策への協力、LGBTQの生活課題に関する商品やサービスの支援、LGBTQ支援団体の支援などに同時に取り組んでいく必要があると強調しました。

 

細田智也氏「入間市パートナーシップ、ファミリーシップ導入について」「日本と世界の現状:職場でのLGBTQの人々に対する差別への取り組み」「LGBTQの人々の権利尊重のための行政機関の責任」

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入間市パートナーシップ、ファミリーシップ導入について

入間市は「性別にとらわれず、一人一人がお互いの人権を尊重し、多様な生き方や価値観を認め合い、誰もが自分らしく、生き生きと生活ができる社会」の実現を目指して令和3年9月1日からパートナーシップ、ファミリーシップを導入しています。

同性パートナーがいることを可視化し、人々の人権意識を変えることも目的としています。令和3年9月1日現在で2組のカップルが届け出ています。

続いて、地方自治体における同性パートナーシップ制度導入に見られる共通した課題を紹介いただきました。大きく分けて以下のの5点があげられます:

①法的な効力や社会保障がない

 ・婚姻の場合に認められるような相続の権利

 ・税法上の扶養

 ・医療行為の同意

 ・遺族厚生年金の対象にならない など

②全国で統一された基準がない

③転入・転出の際には転入先で改めて宣誓しなければならない

④民間企業の方が公的機関よりもサービス適用が進んでいる

⑤制度の認知が低く、市内の事業所で配偶者として対応してもらえるかは未知数

日本と世界の現状:職場でのLGBTQの人々に対する差別への取り組み

続いてLGBTQへの取り組みについて日本と世界の状況を比較してお話いただきました。

同性間での合意に基づく性行為を禁止する国がある一方で、世界では80以上の国や地域で性的指向による雇用差別を禁止しています。G7の中で法的にLGBTへの差別を禁止していないのは日本だけです。

日本は性的指向と差別撤廃に関する法整備を国連の人権条約機関から再三勧告されていますが、いまだ実現されていません。2021年、オリンピック・パラリンピック東京大会の直前にはLGBTに関する法案の成立が期待されていましたが、自民党の反発などにより法案提出が見送られてしまいました。

LGBTに関する取り組みが着実に進んできている国際社会から日本は取り残されてしまっていると細田氏は警告します。

LGBTQの人々の権利尊重のための行政機関の責任

最後にLGBTQの人々の権利尊重に関する行政機関の責任についてお話いただきました。

まず、国の法整備が必要だと強調します。意識啓発は当たり前で、人権侵害を予防し、発生した場合の救済措置が必要であり、法律にはその実効性が求められていると指摘されました。

また地方自治体においては、以下のような制度の充実が重要だと述べられました。

自治体の条例及び計画に基づく施策

・企業の取り組みを可視化し雇用創出する施策

・電話相談窓口の開設・意識啓発

・パートナーシップ制度

上記の施策に対応するような、入間市での具体的な施策もご紹介いただきました。

・性的マイノリティに限定した心理カウンセラーを設置して悩み事相談ができる

・支援団体の設置をバックアップした行政と支援団体の両輪での取り組み

入間市として国に少しでも働きかけられるような取り組みを進めていきたいと細田氏は今後の意気込みを述べました。

星賢人氏「Job Rainbowについて・一社員としてのアクション・LGBTQ+フレンドリーな会社」

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就活生・転職者に起きている問題

まずはじめに、星氏が代表取締役CEOを務めるLGBTフレンドリーな会社に特化した求人プラットフォーム Job Rainbow を紹介いただいた後、LGBTの就活生・転職者に起きている問題についてお話いただきました。

彼らの悩みに真っ先にあがるのは、ロールモデルがいないことや、不安を共有できるコミュニティが見つけられず孤独になってしまうことのようです。職場環境の中で孤立してしまい、転職する方も多く、職が安定しない課題もあります。また面接のなかで当事者がカミングアウトした際に、面接官の配慮にかける言動があった事例も報告されています。89%のLGBTの志望者がフレンドリーな環境を求めており、企業の取り組みが求められています。

取り組みを行なっている企業の例として、人手不足に悩むタクシー業界や飲食店業界がLGBTの採用を促進し、その取り組みによってさらに会社内部の環境を改善していく動きや、鉄道業界でのEラーニングの受講によりLGBTに対する理解度が高まった事例などを紹介いただきました。

一つひとつの取り組みが企業環境を変えていき、それが企業の魅力になるということがだんだんと広がりつつあると星氏は言います。

社員としてできること

次に一社員として何ができるのかについてお話いただきました。

アライになると聞くと、積極的に何かすることを想像しますが、消極的に「しない」ことも大切だと星氏は指摘します。

具体的には:

・偏見に基づいた言動を行わない

・相手がLGBTQ+だとわかっても態度を変えない

・当事者がいるかもと思っても本人の同意なく性自認性的指向を質問しない(当事者自らがカミングアウトしやすい環境を作っていく)

また、積極的な行動は以下のものがあげられます:

・困っている人がいたら話を変えて助け舟を出す

・周りに自分がアライであることをさりげなく表明する

・周りの人の言動にフィードバックし、自身も受け入れる姿勢を持つ

そしてこのような一人ひとりの行動が会社の事業そのものを変えると言います。

実際に薬局会社では社内研修など取り組みの結果、新たなデザインの生理商品の開発に繋がったそうです。またメッセージを出して世の中の変革を促すようなインクルーシブ・マーケティング*の動きも広がっていると言います。

どのように組織変革に繋げていくのか

最後にどのように組織変革を行なっていくのかについてお話しされました。自社がダイバーシティに関して今どんな状況に置かれているのか客観視し、「なぜやるのか」という幹の部分をしっかりと作った上で、自発的に行動する社員を増やしていくことが求められると述べました。

その際、グループ、部署、役職を超えたコミュニケーションを取る「コミュニティドリブン」の組織づくりが大切です。経営陣とダイバーシティ推進室だけではなく、一般社員の中の当事者、または当事者を支援したいと思う社員などのアライコミュニティの方々が積極的に参加し、全社を巻き込んだ体制を作っていくことの重要性を星氏は強調しました。

パネルディスカッション・Q&A

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発表の後、登壇者3名とビジネスと人権プロジェクトスタッフの小園でのパネルディスカッション・Q&Aセッションを行いました。参加者からも興味深いご質問をお寄せいただき、議論も大変盛り上がりました。

閉会の挨拶

閉会の挨拶で佐藤暁子事務局次長は、アライでいることを心の中で思うだけではなく可視化することの大切さが再認識したとコメントしました。また一企業だけの取り組みでは足りず、願わくは政策提言まで声を上げることにつながればと述べました。

ヒューマンライツ・ナウとして今後もLGBTQに関する取り組みを促進するための後押しをし、団体としてもアライであることを発信していきたいと締めくくりました。

おわりに

このイベントはビジネスと人権ダイアローグの第3弾となりました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続きビジネスと人権に関するダイアローグの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

*インクルーシブ・マーケティング:社会における人々の多様性を価値として積極的に捉え、クライアントのマーケティング活動全体の核心を目指すもの

出典: 「インクルーシブ・マーケティング」Showcase(ショーケース)-電通ウェブサイト

 

 

(文責 土方薫)