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【イベント報告】2/22開催ウェビナー「デジタル性暴力の現状と課題~大塚咲さんを迎えて~」

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2022年2月22日(火)、ヒューマンライツ・ナウはウェビナー「デジタル性暴力の現状と課題 ~大塚咲さんを迎えて~」を開催いたしました。

 

本ウェビナーでは、NPO法人ぱっぷす理事長の金尻カズナ氏、写真家の大塚咲氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子副理事と共に、デジタル性暴力の現状と課題についてお話しいただきました。

 

 

金尻カズナ氏「~AV出演強要 デジタル性暴力の現状~ ぱっぷすによる報告」

はじめに、ゲストスピーカーの金尻氏に、「~AV出演強要 デジタル性暴力の現状~ ぱっぷすによる報告」というテーマでお話しいただきました。

 

性暴力の被害事例

性的搾取とは、「他者の利益のために、自分の性的同意が侵害されコントロールが奪われた状態のとき」を指します。その種類として、①ポルノグラフィー、②性行為、③その両方が挙げられます。デジタル性暴力は③に該当します。

 

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また、このような性的搾取がはびこる社会的要因についてもお話いただきました。

 

金尻氏は、社会の無関心をボトルネックとして、「性的搾取の深化」「性的搾取に関する法の未整備」「性的搾取を容認する社会」の負のサイクルがあると指摘されます。

 

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性的搾取対処の戦略基盤

次に、性暴力に対処するために重要な戦略基盤について、国連の報告書をもとに説明いただきました。

 

性的搾取の対処の戦略基盤として、「5つのP」と「3つのR」が挙げられました。

具体的な内容は以下の画像の通りです。

 

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ぱっぷすの活動

最後に、金尻カズナ氏が理事長を務めるNPO法人ぱっぷすについて、活動内容とその戦略基盤をお話しいただきました。

 

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活動報告では、2020年以降、若者の経済的困窮などを原因とした団体への新規相談件数が急激に増加している現状についてもお話ししていただきました。また、2022年4月からの成人年齢引き下げによって、18~19歳のさらなる被害増加が見込まれることに懸念を示されています。

 

このようにデジタル性暴力の問題には、まだまだ改善の余地があることが分かります。

金尻氏は、性的搾取の問題は正しく対処することで解決可能であると言います。

 

「性的搾取を自分たちの世代で終わらせるために、共に活動していこう」という力強いメッセージとともに、お話を締めくくられました。

 

大塚咲氏「肖像権と尊厳を守る戦い ~大塚咲さんを迎えて~」

金尻氏に続いて、デジタル性暴力被害の当事者であり現在は写真家として活動されている大塚氏から、インタビュー形式でお話を伺いました。

AV業界の現状

はじめに、AV業界の性暴力被害の現状について、ご自身の経験からお話しいただきました。

 

AV業界においては、業界内の人権侵害に対処する団体としてAV人権倫理機構が2017年に設立されました。しかし、大塚氏によると、まだまだ人権が守られているとはいえない現状があるといいます。

 

例えば、過去の出演作品について、出演者はAV人権倫理機構に販売停止を申請することができます。しかし、その申請にあたっては、以下のような問題点があります。

 

  • 出演作品を自身で探しまとめないといけないこと
  • 実際に削除されるまでに時間がかかること
  • 削除にいつまでも対応してくれないメーカーがいること
  • 販売停止申請ができるのを知らない出演者がいること

 

このようにAV人権倫理機構が発足したものの、十分に機能しきれていないことがわかります。

 

また、出演作品が同意なしでネット上に出回っていることも多く、AV出演者に対する重大な人権侵害が起こっています。



デジタル性暴力被害について

大塚氏自身の被害経験についてもお話しをいただきました。

 

大塚氏は、AV出演を引退して7年後の2019年、無許可で自身の素材がネットに挙げられたことを知りました。元々その素材をもっていたのが既に廃業したプロダクションであったために、大塚氏への連絡も一切なかったそうです。

 

AV業界には、「一度出演許可したのだから後々何をされてもいい」という考えが残っています。しかし、偶然得た性的な素材を無許可で使用することは出演者の人権の侵害に他なりません。

 

被害当時、大塚氏は既に写真家としての新しい活動を始めていました。それにもかかわらず無許可で過去の自身の素材を使用され、自分自身を踏みにじられているように感じたと言います。

 

裁判にかけた想い

また、大塚氏は、自身の素材を勝手に使用したメーカーを裁判で訴え、実質的勝利としての和解を成し遂げています。

 

裁判に至った背景として、出演者の人権を侵害し続けるAV業界の現状を見て「このままでは何も変わらない、何かしなければ」と思ったことが大きかったと言います。

 

裁判で引退後の肖像権が認められたことで、同じようなデジタル性暴力の被害発生に対する抑止力になるのではないか、と大塚氏は締めくくりました。

 

伊藤和子「AV強要とデジタル性暴力の課題解決に向けて」

最後に、ヒューマンライツ・ナウ副理事の伊藤和子から、「AV強要とデジタル性暴力の課題解決に向けて」というテーマでお話をしました。



AV出演強要問題の現状と課題

はじめに、AV出演強要問題の現状について説明しました。

 

2016年3月、ヒューマンライツ・ナウはAV出演強要の深刻な人権侵害状況をまとめた報告書を発表しています。その結果AV出演強要は以前より広く認知され、政府が緊急対策をまとめるに至っています。

 

しかし、政府の対策が以前より進んだにも関わらず、AV出演強要問題には未だ多くの課題があります。

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具体的な課題の1つに、AV出演における「ワンチャンス主義」が挙げられます。

 

通常、著作権は作成後も長く保障されるものですが、性的な画像に関しては「一度使用許可をすればその後は何をされてもいい」というワンチャンス主義が蔓延しています。*1

 

デジタル性暴力被害を防ぐためにも、著作権法について改正し、ワンチャンス主義の修正が必要であると主張しました。

 

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解決に向けて

また、ヒューマンライツ・ナウが提言する具体的な解決案についても説明しました。

 

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本ウェビナーでは特に、契約をいつでも取り消しできるようにすること、児童ポルノと同様の拡散防止措置をとることが主張されました。

 

また、2022年4月の成人年齢引き下げの影響についても触れました。これまで未成年であった1819歳は契約取消権を行使できたものの、2022年4月からは18歳以上が成人として扱われ取消権を使うことができなくなります。*2このことにより、新たに18~19歳を対象にしたAV出演強要被害が増加するおそれがあります。

 

さらなる被害増加を防ぐためには、一刻も早い対策が必要です。

 

閉会の挨拶

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イベントの最後には、登壇者全員からイベントの感想・今後の抱負などが述べられました。

 

そのなかで、コロナ禍による若い女性の困窮化がデジタル性暴力被害に繋がっている現状や、成人年齢引き下げに伴う若者の被害増加のおそれについても話がありました。

 

デジタル性暴力の問題は、まだまだ多くの課題を残しています。

一丸となって引き続き取り組み続けよう、という意思表示でイベントが締めくくられました。

 

おわりに

 

本ウェビナーにご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

 

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続き女性の権利に関するイベントの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

(文・大谷理化)

*1:ワンチャンス主義とは、「実演家の著作隣接権の一つである録音権・録画権について、映画の製作時に自分の実演を録音・録画することを了解した場合には、以後その実演を利用することについて原則として権利が及ばないとする主義」のことです。(出典:東京都行政書士会HP)

*2:未成年の契約取消権とは、「成年者と比べて知識や判断能力の未熟な未成年者が、あやまって契約によって不利益を被らないよう契約を取り消しできる権利」のことです。