HRN通信 ~「今」知りたい、私たちの人権問題~

日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、人権に関する学べるコラムやイベントレポートを更新します!

8/28開催「性暴力のない社会のために、今、私たちにできること」*イベントレポート*

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8/28開催「性暴力のない社会のために、今、私たちにできること」*イベントレポート*

 

8月28日(金)、ヒューマンライツ・ナウでは、ジェンダー平等実現のために様々な立場から活動されている小島慶子さん、鎌田華乃子さん、清田隆之さんをお呼びし、性暴力を構造的に考え、個人にできるアクションを考えるオンラインイベントを、JANICグローバル共生ファンドの助成により開催いたしました。

 

刑法性犯罪規定の見直しが進み、”大きな社会”が変わろうとしている今、身の回りの”小さな社会”を変えていくために私たちができることを、匿名で意見を募るメンチメーターを使用しながら、参加者の皆様と共に考える会となりました。

 

目次

性暴力被害者が泣き寝入りを強いられる現状

性暴力に対するメディアの姿勢

マジョリティ男性も性暴力に関心を

私たちのアクションが世論と社会を変える

私たち一人ひとりにできること

性暴力被害者が泣き寝入りを強いられる現状

まず冒頭、ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長から、日本では通報されない性暴力というのが数多くあるという話がありました。

 

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Profile:1994年に弁護士登録。米国留学後の2006年、日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、国内外の人権侵害解決を求めて活動中。また、ミモザの森法律事務所(東京)代表として権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動。著書に『なぜ、それが無罪なのか!? 性被害を軽視する日本の司法』 (ディスカヴァー携書)など。

 

女性は13人に1人、男性は67人に一人が意に反する性交などの性暴力を受けた経験があり(2017年調査)、警察に行ったのに受け付けてもらえないなど多くの人が泣き寝入りしている現状があることが語られました。その理由として、日本では無理やり意に反して性交させられても罪にならないことが挙げられ、例えば強制性交等罪が成立するためには、そこに暴行または脅迫という要件が必要なほか、準強制性交等罪が成立するためには心神喪失または抗拒不能という要件が必要で、さらに行為者に故意がないと無罪となってしまうため、犯罪が成立するためのハードルがとても高いということが説明されました。

 

その上で、HRNが刑法性犯罪規定の再度の改正を求めて、多くの方と連携しながら世論を喚起してきたこと、6月から法務省で法改正に向けての検討会が始まったことなどを報告しました。

 

性暴力に対するメディアの姿勢

続いてのゲストスピーカーのレクチャーパートでは、まず小島慶子さんがメディアと性暴力の関係などについて、独自の視点で語って下さいました。

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Profile: エッセイスト、東京大学大学院情報学環客員研究員。1995年から2010年まで、TBSにアナウンス職として勤務。その後は執筆、講演、メディア出演などの活動を行っている。メディア表現と多様性に関するシンポジウムの開催など、メディアのあり方について考える活動や、寄付サイト#ひとりじゃないよプロジェクトの立ち上げなどを行う。

 

小島さんからは、特にメディアで「嫌よ嫌よも好きのうち」なのだと視聴者が思い込んでしまうようなメディアコンテンツがいまだに存在する中、性的同意(性的な行為の前に互いの同意を確認できたかどうか)が広まることが非常に重要だというお話がありました。例えば、過去に痴漢をまるで面白ネタや日常のよくある風景のように伝えていたメディアは性暴力に対する考えが足りておらず、決して笑える話題ではないということが広まってほしいとした上で、特に痴漢はそれが性暴力だと認識できていないと「(被害者側が)相手のやっていることが間違っていると思えないのではないか。」と警鐘を鳴らしました。



そしてメディアは(刑法性犯罪規定が改正される場合)「法律が変わりましたよ」と事実だけを伝えるのではなく、私たちの習慣や常識、価値観にどんな変化を及ぼすのか・何を改めるべきなのかを丁寧に伝えてほしいと思うと述べました。また、私たち一人ひとりができることとして「メディアでの性暴力の描かれ方について誰かと意見交換することによって、こういった問題に敏感な方が増え、何かがあった時には声が上がりやすくなる。そしてメディアも“こういう表現はしてはいけないのだな”と学習して、表現を変えていくということが細かく繰り返される。そうすると人々の意識も変わっていくと思うので、是非皆さんも周りの方と話してほしいです。」と締めくくりました。

 

マジョリティ男性も性暴力に関心を

続いてのゲストスピーカーは清田隆之さんです。

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Profile: 1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。『cakes』『WEZZY』『anan』『精神看護』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。桃山商事としての著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)『生き抜くための恋愛相談』『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(ともにイースト・プレス)、トミヤマユキコ氏との共著に『大学1年生の歩き方』(左右社)、単著に『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)など。2020年7月に新刊『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)が発売。

 

まず、桃山商事の活動を通じて恋愛相談を数多く受けるという清田さんからは「性暴力と思われるような出来事が、恋愛の“いざこざ”として語られているケースが少なくない。それが性暴力であるという認識が、加害者側にはもっと希薄なのでは。」とした上で、「いわゆるマジョリティ男性が行う恋愛のアプローチやナンパのテクニックなど、本人としては“ちょっとした強引さ”くらいに思っている行為が性暴力に繋がっていることがあるのではないか。無知や無自覚など、マジョリティ男性と性暴力問題の“遠さ”をまずは言語化し、認識のギャップを埋めていきたいという思いで活動しています。」というお話がありました。

 

また、自らもマジョリティ男性に属する清田さんの実体験として「スカートめくりや痴漢体験など、飲み会などの席で笑い話のネタのように語られているシーンを目撃することが今でもある。」「こういうところにいる男性が性暴力の問題や性犯罪に関する刑法改正の動きと非常に縁遠く、自分も当事者になってしまうかもしれないという意識もほとんどない。自分たちにもリアルな問題なのだということをどうやったら喚起できるのだろうと日々悩んでいる。マジョリティ男性に言葉を届け、何か(性暴力を無くすための)アクションに繋げてくれるように促すことが個人的な課題だと考えている。」と語ってくださいました。



私たちのアクションが世論と社会を変える

最後は、鎌田華乃子さんです。

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Profile:幼い頃から社会・環境問題に関心があったが、11年間の会社員生活の中で社会問題解決のためには市民社会が重要であることを痛感しハーバード大学ケネディスクールに留学。卒業後ニューヨークの地域組織にて市民参加の様々な形を現場で学んだ後、2013年9月に帰国。コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンを2014年に立ち上げ、ワークショップやコーチングで、COの実践を広める活動を全国で行った。日本の女性が妻や母親という役割に縛られ、生きづらさを抱えていることに気づき「ちゃぶ台返し女子アクション」を2015年に立ち上げる。明治時代から変わっていない刑法性犯罪条項を改正するキャンペーンを実施。2017年6月通常国会にて改正を後押しした。現在、ピッツバーグ大学社会学部博士課程において、日本を中心とした社会運動の国際比較研究に従事している。

 

鎌田さんは海外留学中、子育てしながら海外の大学に通っている女性に出会い、日本の女性が結婚や子育てで自分の人生を失ってしまうのは違うと思うようになったことがきっかけで、2015年にちゃぶ台返し女子アクションをスタート。「日本人女性は他国の女性と比較して、セクハラなど嫌なことがあっても笑って受け流すのが大人の女性という意識が刷り込まれているので、これからは嫌なことはどんどん言っていこう。練習のために、まずは叫ぼう!ということから、ちゃぶ台返し女子アクションは始まった。」と誕生までのエピソードを語ってくださいました。

 

そういった活動を続けていく中で鎌田さんは「一人ひとりの力は小さくても、一緒にアクションをしていけば社会は変えられる」という思いに駆られ、続いて取り組んだことが、当時110年間変わっていなかった刑法性犯罪規定の改正案可決に繋げるアクションでした。また、性的同意という考えを広め、文化を変えるアクションを行なった中で、「ロビイングと、社会のうねり作りは両輪でどちらも大切」だと気づき、「皆さんがアクションをしてくれることで世論が作られ、社会のうねりが作られて、法律が変わっていく。そして文化も変わっていくので、今日のイベントに、参加してくださっている方は大きな希望。これから一緒にアクションしましょう!」と呼びかけていました。

 

私たち一人ひとりにできること

最後にゲスト全員を交えたトークセッションでは、一人ひとりにできることとして以下のことを挙げてくださいました。



(清田さん) 具体的なエピソードを聞く。何か本を読むことでも、当事者の発している言葉に耳を傾ける。自分で自分を耕す。特にマジョリティ男性は行ってほしい。



(鎌田さん) 支援したい団体の活動に参加したり寄付したりする。オンライン、オフラインでもフラワーデモが毎月11日に開催されているので、学ぶつもりでも良いので参加してほしい。



(小島さん) 情報をシェアすることは小さいアクションと思われがちだが結構大きい。ただ、情報を知れば知るほど過去の行いを悔いる。なんて無知だったのだろう、自分もひどいことを言ってしまっていた、傍観していたなど。でも、そこで自分なんてと思わずに学んで、それを周りに語ろう。

 

そして、ヒューマンライツ・ナウの寺町東子理事は閉会の言葉として、

「身近な中でのとても大切な人権問題として、日常の中で身近な人とお互いの思いを話しあっていただけたら」と締めくくりました。

 

〜終わりに〜

ヒューマンライツ・ナウでは、皆様のご支援を力に、広報、アウトリーチ、キャンペーン、調査、アドボカシーなどを強化してまいります。

 

今後も、他団体と連携して法務省への訴えかけを引き続き行い、被害者の思いに寄り添った刑法改正が実現するよう努力してまいります。

これからも温かいご協力を宜しくお願い申し上げます。