世界難民の日に考える、日本の難民問題
6月20日は「世界難民の日」です。2000年12月4日、国連総会で「難民の保護と支援に対する世界的な関心を高め、UNHCRを含む国連機関やNGOによる活動に理解と支援を深める日」として決議されました。(UNHCR)
現在も、紛争や迫害で故郷を追われている人は8000万人以上にも上ります。コロナ禍で、難民の人たちはとくに脆弱な立場に置かれています。そのような人々に安全をもたらすためには、一人一人の行動が重要です。世界難民の日をきっかけに、日本の難民問題について知り、わたしたちに何ができるか一緒に考えてみませんか?
難民の定義
「難民」とは一体どのような人たちのことを指すのでしょうか?
難民条約によると、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」とされています(1951年 難民の地位に関する条約、通称「難民条約」)。日本も1981年に批准しているため、日本の国内法(入管法)でも、この条約をもとに難民を定義しています。
日本の難民について
それでは日本では、一体どれほどの人たちが「難民」として保護されているのでしょうか?
残念ながら、現状はとても少ないです。
2020年現在、日本の難民認定率は1%にも満たない条項です。(入管庁)
昨年難民申請した人は5439人、そのうち難民と認定された人はたったの46人であることからも、狭き門であることが分かります。そのため、多くの人が繰り返し申請をしている現実があります。
長期収容問題
不法入国、非正規滞在などの理由で、在留資格がない人たちは、入管制度上、国外退去の対象となります。入管庁は行政権限を使って、その可能性のある人たちを全国9か所以上の収容施設で、収容しています。(アムネスティインターナショナル, 移住連「Mネット」)
しかしそのような人たちを収容する際、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)には「送還可能なときまで」としか書かれていないため、無期限に収容する運用がなされています。(アムネスティインターナショナル)
このような現状に加えて、脆弱な医療体制など収容施設での劣悪な処遇によって、収容所で長期収容されたまま人が亡くなる事例が発生しています。
2019年6月、長崎県の施設に収容されていたナイジェリア人男性が、ハンガーストライキを行い亡くなりました。男性は2015年11月から収容されており、長期に渡る拘束に抗議していました。(東京新聞)
その他にも2021年3月には、名古屋市の施設に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなりました。ウィシュマさんは2020年の8月に収容され、その約半年後に施設内で亡くなりました。今年から体調の悪くなったウィシュマさんは、施設内で医師の診察を受け、カルテでは入院を勧められていたことが分かっています。しかし、彼女は入院することはなく亡くなってしまいました。カルテが発覚する前に作成された入管の中間報告では「医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と記されており、入管庁の隠ぺいが疑われています。(NHK)
入管法改正について
改正案作成の背景
入管法改正案については、2019年のナイジェリア男性がハンガーストライキによって亡くなった事件のあとから議論されていました。「収容・送還に関する専門部会」が設置され、2020年6月に提言を発表しましたが、その提言内容自体も大いに問題がありました。この提言を踏まえて作成された改正案には、難民申請中の者を送還することを可能とする規定や、送還を拒んだ場合に罰則を科すなどの規定があり、事情を鑑みず強制的に排除が行われる可能性があるとして、人権上の問題が懸念されました。(移住連「Mネット」)
しかし、2021年2月19日、政府はその入管法改正案を閣議決定します。これに対し、UNHCRや国連特別報告者らから、再検討を求める書簡が政府に送られるなどしました(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター)。ウィシュマさんの死亡事件も重なり、署名活動等を通じた世論の高まりも受け政府は採決を見送ることになりました。
この入管法改正は長期収容問題や送還忌避者を問題視するものでしたが、それらの問題の根本的な原因は、日本の難民保護制度が国際基準に大きく劣っている点にあります。それにもかかわらず、根本的な原因に対しては何ら手当をすることなく、速やかに送還することだけを狙った改正案は、本来、保護されるべき難民申請者を送還してしまう深刻な危険をはらむものです。
また、国際人権基準では収容は例外的措置であり、無期限収容は認められず、上限つきの収容であっても司法審査を経て収容の必要性・相当性・比例性が認められなければ許されませんが、法案はあくまで収容を原則としており、無期限かつ司法審査も無く、必要性等の要件もない点も大きな問題でした。その他にも上述の難民申請者の送還を可能にする規定や国外退去命令に加え、監理措置や補完的保護を新設する規定もありましたが、それぞれ問題を含むものでした。
入管法改正案は今国会での採決を見送り、事実上の廃案となりましたが、残念ながら日本の難民保護制度や収容制度が改善されたわけではありません。長期収容問題をはじめ、難民認定率が先進諸国と比べて極端に低いことなど、未だに多くの問題が山積みです。引き続き、この流れを注視し、問題についても声を上げ続けていくことが重要です。
日本における難民の人権を守るために
HRNはこれまで、日本の難民問題や入管法の問題に対し、イベントの実施や声明の発表など、様々な活動を行ってきました。
・【動画公開】「入管法改正ここが問題」ヒューマンライツ・ナウ高橋済事務局次長が分かりやすく解説
・ 国連人権理事会の特別報告者から日本政府に向けて発出された 入管法改正案に関する懸念表明と対話を求める共同声明について
・【声明】入管施設における恣意的収容の廃止及び法的改善を求める
さいごに
日本で起きている難民問題について、私たちにできることは何でしょうか?
日本の入管法に詳しい高橋済事務局次長にコメントを頂きました。
私たちに今すぐにできることとして、「難民」という言葉の意味を正しくとらえて、社会に広めることがあります。広め方は人それぞれです。HRNの活動もその一つの方法です。難民条約にいう「難民」とは、政治的な理由などによって、本国で生命の危険が及ぶなど危害を加えられる危険性のある状況にいる人たちのことを意味します。ボロボロの服を来ていることが難民でもなければ、困って泣いている人という意味でもありません。そういったことから社会の中の理解を広める必要があります。
HRNは引き続き、日本における難民問題に対して声を上げていきます。是非、世界難民の日をきっかけに、この問題について調べ、何か一つでもアクションを起こしていただけると嬉しいです。
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参考文献
日本の難民・移民 - 外国人の収容問題ーアムネスティ・インターナショナル日本
長崎に収容のナイジェリア人「飢餓死」報告書 入管ハンスト初の死者ー東京新聞
スリランカ人女性の死が投げかける入管施設の“長期収容”問題ーNHK
【特別転載】入管長期収容問題を考える②ー長期収容問題とその解決に向けて(Mネット2020年4月号より)ー移住連
入管法改正案に関する国連勧告に背を向ける日本政府に批判相次ぐー一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター
国際社会(2021年4月6日)国連人権理事会特別手続専門家らによる政府提出の入管法改正案に対する共同書簡(2021年3月31日)(日本語仮訳)
入管法改正案を閣議決定 難民申請中の送還停止2回までー朝日新聞
入管法は今、どう変えられようとしているのか?大橋毅弁護士に聞く、問題のポイントとあるべき姿ーdialog for people
【特別転載】入管法改悪反対④-「入管法改正案」に反対する~専門部会提言の批判的検証-(Mネット2020年6月号より)ー移住連
(文=金田花音)